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東京都台東区の夫婦が4歳の娘などに不凍液を飲ませて殺害した疑いが持たれている事件で、報道各社は10月24日夜、夫側の父親を殺害した疑いが強まったとして警視庁が夫婦を再逮捕する方針を固めたという記事を一斉に報じた。

いわゆる「前打ち報道」の一種だが、気になるのは、多くの新聞やテレビが午後11時ちょうどに「再逮捕へ」の見出しで記事を配信していることだ。なぜこんなことが起きているのか。(弁護士ドットコムニュース・一宮俊介)

●「捜査関係者への取材で判明した」の意味するところ

報道によると、この事件を巡っては、警視庁が今年2月に次女への殺害容疑で夫婦を逮捕。その後、夫側の姉への殺害容疑でも再逮捕していた。今回は夫の父への殺害容疑ということで3回目の逮捕になるという。

実際に警視庁は10月25日に夫婦を再逮捕し、それを受けて、報道各社は25日午前に「警視庁が発表した」という書き方で夫婦の再逮捕を次々と報じている。

今回の24日夜の前打ち報道に違和感を感じるのは、「捜査関係者への取材で判明した」という書かれ方をしている点だ。

事件報道では多くの場合、「捜査関係者」という表現が使われる時は、各社の独自取材によって得た情報であることを示しており、情報源を明かせないためにこうした書き方をする。

警察が発表した事案では、「警視庁が発表した」や「捜査1課によると〜」などといった表現が使われることから、今回の各社の前打ち報道は発表された案件ではない可能性が高いことを示している。

にもかかわらず、話し合って決めたかのようにネット上の記事の掲載が多くの社で23時ピッタリにそろっていることが分かる。中には数分後にアップしている社もあるが、そもそも事前に用意していなければ原稿を数分で書いて公開することは不可能に近い。

●同様の事例は複数

この現象は今回に限らない。記者がこの約半年間観察していたところでは、同様の事例を複数確認した。

同じ台東区の事件で、夫婦が3月に再逮捕される際にも前日の午後11時に各社が一斉に「再逮捕へ」と報じた。

5月に品川区の住宅で母子4人の遺体が見つかった事件では、父親が再逮捕された日の前日午後11時に、各社が一斉に「再逮捕へ」という記事を配信していた。

各社の報道がそろうのは再逮捕を直後に控えた事件が目立つが、違うケースでも似た現象があった。

それは、大川原化工機の冤罪事件を巡る国賠訴訟で、1審の東京地裁で賠償を命じられた国と東京都が控訴することを決めた際のニュースだ。

この時も、朝日新聞、毎日新聞、日本テレビが1月10日午後1時ちょうどに、「関係者への取材でわかった」などと独自取材の結果として「控訴へ」という記事を配信。数分後にTBSや時事通信が続いた。

●警視庁に質問

警視庁が発表する事案では、内容によって各メディアが「捜査関係者によると〜」といった表現を独自に判断して使っているのか。それとも、警視庁と報道機関が申し合わせるような形で記事配信のタイミングを調整しているのか。

こうした疑問を解消するため、今回の報道各社の「再逮捕へ」報道について、弁護士ドットコムニュースは警視庁広報課に「警察が発表したのか」「発表していない場合、なぜ各社が同じ時間に報じているのか」などを問い合わせており、回答が届き次第追記する。