親から相続を受けるときには自分も高齢者です。「老老相続」になるとどんな問題が起こりますか?

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厚生労働省によると、日本人の亡くなる人の数は2022年に年間150万人を超えました。今後も、2040年ごろまで増加する見込みだといいます。また、高齢化が進み、人生100年時代といわれる時代。高齢者が亡くなったときに、その相続人となる人も高齢者という、いわゆる「老老相続」のケースが増えています。 人が亡くなると、遺された人たちにはいろいろと労力もかかります。高齢者が亡くなり、その相続人も高齢の場合、さまざまな問題が発生することがあります。どのような問題が起こり得るか、どのような対策があるかを考えます。

高齢者の相続で問題になる例

高齢者が亡くなったときに問題となることとして、以下の4点が挙げられます。

(1)手間がかかる手続きを進める体力・能力がない
(2)相続人のなかに認知症などの方がいると、話し合いができない
(3)相続人が故人の財産を把握していない、預金通帳などの保管場所が分からない
(4)数次相続(あまり間を置かずに次の相続が発生する)の可能性が大きい

一般的な相続でも必要な該当することは多いのですが、相続人も高齢の場合、さらに上記のようなリスクが高まるといえます。以下で、具体的に見ていきましょう。
 

(1)手間がかかる手続きを進める体力・能力がない

人が亡くなると、さまざまな手続きが必要になります。
まず、「死亡診断書」「死亡届」の作成と提出、葬儀の手配などがあります。「死亡診断書」と「死亡届」は1枚の用紙になっており、死亡診断書は医師に記入してもらいます。死亡届の提出は死後7日以内ですが、死亡届を提出しないと「火葬許可証」が発行されないため、速やかに提出する必要があります。
通常は同居していた親族が提出しますが、同居親族がいなければ同居していない親族、それも難しい場合は、関係者が提出します(詳しくは役所等でご確認ください)。その他にも入院されていた場合には、医療機関への支払いをします。また、公共料金などの支払いや年金の受給停止などの手続きも必要です。
葬儀が終わっても、なかなか落ち着かないでしょう。四十九日が終わることで、やっと一段落という感じかもしれません。しかし、相続の手続きはここからが大変です。
戸籍の収集や相続財産の把握をし、遺産分割協議を行って、遺産分割協議書を作成、相続税がかかる場合には申告・納付をしなければなりません。遺された方が高齢者だと、こうした手続きを進めるのもかなりの負担になり、相続手続きをスムーズに進められないリスクが高くなります。
 

(2)相続人のなかに認知症などの方がいるため、話し合いができない

相続人のなかに認知症の方がいる場合、遺産分割の話し合いができません。つまり、相続の対象となる預金では名義変更や移管ができません。また、不動産は所有権移転登記(相続登記)ができず、売却などもできません。
遺産分割を進めるためには、成年後見制度を使うなどの方法があります。しかし成年後見人は、原則として被後見人の財産の保全を行うことが職務なので、被後見人に不利な遺産分割方法が認められません。法定後見人の場合、選任には時間も要します。
すべての財産を法定相続分どおりに相続することにすれば、遺産分割協議を行わないでも手続きは進められます。しかし、相続財産に不動産がある場合など、その評価方法でもめる可能性もあります。また、不動産も法定相続分どおりに共有とした場合には、その後発生する相続の際に分割方法でもめる可能性もありそうです。
こうした問題を回避するためには、被相続人が元気で認知能力もしっかりしているうちに、「遺言書」で分割方法を決めておくことが有効です。
 

(3)相続人が故人の財産を把握していない、預金通帳などの保管場所が分からない

故人と同居されていれば、どこの金融機関と取引があったかなどの情報は比較的把握しやすいと思います。しかしながら、最近では核家族化が進んでいますので、ご両親と離れて暮らしているケースも多いでしょう。
取引のあった金融機関が分からない場合、可能性のある金融機関に片っ端から確認していく、などという作業になる可能性もあります。金融機関から届く書類などが保管されていれば、探しやすくなります。
生前から信頼の置ける身内などとの間で、財産管理契約などを結んでおき、預金通帳などを預かり、財産を管理しておくことや、大事なものの保管場所を伝えておくなども必要でしょう。ただし、誰かが財産を管理していると「使い込んだのではないか」などという疑いをもたれ、もめてしまう可能性もあります。
財産を管理される方は、口座からの出金や財産を使った際には、その記録もあわせて残しておくことで、こうしたリスクは軽減できるでしょう。
 

(4)数次相続の問題

高齢者の相続人もまた高齢者という場合、数次相続(被相続人が亡くなった後10年以内にその相続人に相続が発生する)となる可能性が高くなります。
相続税の支払いが必要な場合、申告・納付期限は自分が相続人であることを知ってから10ヶ月ですが、相続税がかからない場合、特に期限はありません。ただし、期限がないからといって、手続きをしないでいると次の相続時に手続きが複雑になる可能性があります。
最初の相続手続き(遺産分割協議や相続税の申告・納付手続き)が終わらないうちに次の相続が発生した場合、遺産分割協議に関係する法定相続人の数が増える可能性があります。相続人の数が増えると、話し合いが難しい、協議がまとまらないリスクも増すでしょう。
また、一次相続での遺産分割協議が終わらないと二次相続での被相続人の財産が確定せず、遺産分割協議が進められません。相続人を特定するための戸籍の収集も数が増え時間がかかります。
老齢夫婦が相次いで亡くなった場合には、二次相続では配偶者の税額軽減が受けられず、相続税が増える可能性もあります。
 

まとめ

相続が発生したとき、その後の手続きを進めるのは基本的には相続人です。ご自身が亡くなられたとき、あるいは親しい身内の方が亡くなられたとき、スムーズに手続きが進まないと相続人の間でもめごとになるリスクが高まります。
しかしながら、高齢化が進んだこの社会では、相続人も高齢ということも少なくありません。また、核家族化が進み、お子さまがいらっしゃっても離れて暮らしているケースが多くなっています。同居していれば、いろいろと話をする機会があるかしれませんが、離れて暮らしているとなかなか相続に関する話はしにくいものです。
相続は「人が亡くなるときの話」なので、ご本人も相続人となる人も「あまり考えたくない」と、話し合うことを避けてしまったり話を切り出しにくかったりということもあるでしょう。しかしながら、無策のまま相続が発生し、トラブルに発展してしまうケースは数多くあります。
ご自身の相続、あるいはご自身が相続人となる相続について、あらかじめの準備が大切です。いつかは必ず訪れるそのとき、「遺された人が困らないようにするためにできること」を考えるのは、すべての人に必要といえるでしょう。
 

出典

厚生労働省 令和4年(2022) 人口動態統計月報年計(概数)の概況
厚生労働省 令和2年版 厚生労働白書-令和時代の社会保障と働き方を考える-
国税庁 No.4205 相続税の申告と納税
執筆者:西山広高
ファイナンシャル・プランナー(CFP®)、上級相続診断士、宅地建物取引士、宅建マイスター、西山ライフデザイン代表取締役