スターバックスが「プリペイドカードビジネス」で300億円を荒稼ぎしていた…!利用者の多くがスルーしている「巧妙なカラクリ」

写真拡大 (全4枚)

アイスのギフト券が生み出す退蔵益

企業の利益には、退蔵益というものが存在する。前編に続き、決算分析に詳しい株式会社ファインディールズ代表取締役の村上茂久氏が解説する。

「退蔵益とは商品券などを手にした顧客が、その権利を使わないことで生じる利益のことです。一定期間を経過する、あるいは有効期限を迎えると、今後も使用されないと判断され、発行元企業の営業外収益に計上されます。この額は、企業の有価証券報告書に記載されているケースが多い」

前編記事〈あなたの家にもきっとある…!日本全国に眠るQUOカードの「驚きの総額」〉では、退蔵益で利益を稼ぐQUOカードのビジネスモデルを解説している。

ここでは退蔵益を得ている企業をさらに見ていこう。

まず、サーティーワンアイスクリームだ。運営元のB-R サーティワン アイスクリームの有価証券報告書を確認すると、自社発行のギフト券が退蔵益を生み出していることがわかる。

2023年12月期の「販売済み未使用ギフト券収入」は、3億383万円。経常利益の18億6000万円のうち16.3%を退蔵益が占めている。

さらに前期でも3億2453万円の退蔵益を計上しており、どうやら安定的な利益になっているようだ。実際、有価証券報告書のなかで「アイスクリームギフト券の販売を他の企業を巻き込んだ販売形態の一つとして位置付け、販売を強化した」と述べていることから、戦略的に推し進めているのが見てとれる。

スターバックスの桁違いの退蔵益

また、百貨店業界では高島屋と近鉄百貨店が、有価証券報告書に退蔵益を明記している。

高島屋の場合、対象となるのが、今後も使用見込みがないと判断した「高島屋商品券」だ。2024年2月期の「未回収商品券整理益」の額は15億円。さらに前期は14億2000万円だった。とはいえ、2024年2月期の経常利益492億円に占める割合は3%なので、収益に与えるインパクトはそれほど大きくない。

「近鉄グループ商品券」を発行する近鉄百貨店では、「未請求債務整理益」が退蔵益にあたる。2024年2月期に計上された額は10億8800万円で、2023年2月期は10億4900万円。2024年2月期の38億6400万円の経常利益のうち、退蔵益が28%を占める。高島屋に比べると、利益への貢献度はかなり高い。

ここまで未使用プリペイドカードや商品券などで数億円から数十億円の利益を得ている企業を紹介してきたが、世界にはそれ以上の莫大な退蔵益を叩き出す企業も存在する。

それがアメリカスターバックスコーポレーションだ。

同社が世界中で展開するスターバックスコーヒーは、主力のコーヒーやフラペチーノ以外に、ギフトにも使えるプリペイド式のスターバックスカードやドリンクチケットを販売。これらも他企業と同様、今後も使用されないと判断されると退蔵益として計上される。

「日本の有価証券報告書にあたる『Form 10-K』によれば、同社の2023年10月期の退蔵益は2億ドル。1ドル150円換算で、300億円にものぼります。

米国会計基準では経常利益の項目がないため、それに最も近い税引前利益を見てみると同社は54億ドル(8100億円)を稼いでいる。退蔵益が占める割合は4%弱と微々たるものですが、とはいえ絶対額としては日本の上場企業の純粋な利益にも匹敵するレベルです。実際、2022年度における上場企業3774社の営業利益の平均額は150億円程度。スターバックスコーヒーはこの倍の退蔵益を得ています」(村上氏)

日本のスタバの巧いビジネス

ちなみに、2017年10月期の退蔵益は約1億ドル(150億円)。6年で2倍に増えたことになる。

「これはスターバックスカードなどの販売額が増えているからです。こうしたプリペイドカードの販売額は前受収益として計上されます。2017年10月期は13億円(1950億円)であるのに対して、2023年10月期は17億ドル(2550億円)です。同社の退蔵益は、スターバックスカードの販売額にある程度比例しています」(村上氏)

このような同社の退蔵益ビジネスにおいて、スターバックスコーヒージャパンが扱う「Starbucks eGift」は利益をブーストさせる“巧いビジネス”と言える。

これはLINEやメール等を通じて相手にスターバックスドリンクチケットを贈れるサービスだ。贈り主は500円、700円、1000円のいずれかの額のチケットを購入し、相手にURLを送信。クリックすると決済可能なQRコードが表示される。

まず、退蔵益に貢献するのが「絶妙な価格設定」だ。

「贈り手側の心理として、500円だと安過ぎるし、かといって1000円だと支払うのに若干躊躇する。だからその中間の700円はちょうどいいんです。大半のドリンクメニューとサイズに対応しているため受け取った相手も満足度が高い。

最大のポイントは、多くの人が700円ぴったりで購入しないということでしょう。そもそもスターバックスコーヒーにはその価格のドリンクが少なく、なにより自分のお金ではないので余りが生じてもそれほど気にならない。超過分を支払えば700円を超えたドリンクも注文できますが、割合としては多くないと推測します。つまり、使い切らない可能性がとても高いのです」(村上氏)

この残高を確実に退蔵益へとつなげるため欠かせないのが「2つの縛り」だ。

退蔵益を確実に得る仕組み

ひとつは、チケット1枚につき1ドリンクしか購入できないというルール。次回の会計時に残りの額と現金を組み合わせて決済することはできない。

もうひとつは、有効期限の存在だ。無期限で利用可能なスターバックスカードと異なり、eGiftは購入から4カ月後の月末までに使用する必要がある。この期限を超えた分は必ず退蔵益として回収できる(なお、本国アメリカにもeGiftはあるが有効期限は設けられていない)。

「一般的に退蔵益には『今後も使用される可能性が低い』と判断された商品券なども含まれます。あくまで可能性の話なので当然使われることもある。その点、有効期限を設ければ失効分が確実に退蔵益に計上されます。発行元の企業にとっては都合がいいのです」(村上氏)

日々熾烈な争いが繰り広げられるビジネスの世界。そこには生き残りをかけた様々な稼ぎ方が存在する。

----

【さらに詳しく】つづく記事〈「アメリカスターバックスの客離れが止まらない…いま絶好調な「日本」でも、起こりうるかもしれない事態〉では、売上の減少が止まらないスターバックスについてさらに分析しています。

「アメリカ」スターバックスの客離れが止まらない…いま絶好調な「日本」でも、起こりうるかもしれない事態