定年後にお金に困らない生活をするにはどうしたらいいのか。『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』(アスコム)を書いた社労士みなみさんは「退職は65歳ではなく、64歳11カ月にするといい。年金と同時に失業手当を受けることができ、65歳になってやめると最大76万円少なくなってしまう」という――。
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■64歳11カ月で退職する意外なメリット

定年後も働く人が増えました。65〜69歳の半数が働いているというデータもあります。そうした方が、ハローワークを上手に活用すると、金銭面でも大きなメリットがあります。各種の給付金があるからです。

まず失業手当(基本手当)は、定年後も働く意思があればもらえます。そして、できるなら年金と一緒にもらいたいなと思いますよね。本来ならば同時にもらうことはできませんが、ある方法で同時にもらうことができるのです。すごくお得なのにうまく活用していない人が多いと思います。

失業手当は、65歳を境にガラリと制度が変わり、高年齢求職者給付金となります。どちらにもメリットはありますが、もらえる額が大きいのが64歳で退職した人が対象となる失業手当です。できるなら年金と一緒にもらいたいと思いませんか?

実は、とっておき方法があります。

それは、64歳11カ月で退職することです。

■年金と失業手当を同時にもらえる

64歳11カ月で退職すると、失業手当と年金の同時受給が可能です。

雇用保険法では、65歳になる2日前までが64歳とみなされます。例えば、4月2日生まれの場合、誕生日の前前日3月31日に退職した場合は64歳、誕生日の前日4月1日に退職をすると法律上では65歳です。

たった1日の違いで、失業手当になるか、高年齢求職者給付金になるかが決まります。

つまり、誕生日の前前日までに退職して、65歳以降にハローワークで求職の申込みをすることによって、65歳になっても手続き上は64歳なので失業手当を請求できるというわけです。

失業手当だと、60歳〜64歳までの1日あたり上限7420円が支給されます。定年が理由の場合は自己都合退職となり、受け取れる日数は、

・1年未満の被保険者期間……90日
・1年以上5年未満……90日
・5年以上10年未満……120日
・10年以上20年未満……150日

最大だと、111万円ほど受け取れる可能性があるのです。

ただし、65歳になってから辞めると、高年齢求職者給付金の扱いになり、1日あたりの支給上限は7065円です。30日または50日分が一括で支払われるため、最大で約35万円を受け取れます。

失業手当との差額を計算すると、

111万円−35万円=76万円

差額はおよそ76万円。たった1日でこれだけの差が生まれます。

ただし、64歳11カ月で退職すると、自己都合による退職が多くなるため、失業手当の受給期間が1年になります。求職の申込みが遅くなってしまうと、受給期間からはみ出した給付日数分は受け取れなくなるので注意してください。

そんなもったいないことをしないように、退職したらできるだけ早くハローワークで手続きすることをお勧めします。

写真=iStock.com/AscentXmedia
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■早めの再就職でもらえるお金がある

さて、失業手当を受給できたとしても、働く意思はあるので(それが条件ですから)、再就職が決まることもあります。この場合、失業手当はどうなると思いますか?

実は、損するどころかメリットが多いのが、失業手当の受給中の再就職です。

次の仕事が見つかったら、再就職手当をもらってください。雇用保険の失業手当を受給中に早期で再就職した人が申請できる制度で、失業手当の所定給付日数を3分の1以上残して再就職した場合に支給されます。

再就職手当は、早く再就職するほど金額は大きくなります。また、再就職先の給与をもらいながら再就職手当を一括受給できます。しかも、非課税。もし、再就職手当が40万円だとしたら、そのままもらえるということです。

さらに再就職手当は受給後の要件がないので、振り込まれた後になんらかの理由で退職することになったとしても返金する必要はありません。

再就職手当を受給するための要件は8つです。

1 失業手当の受給手続き後、待期期間7日間が終わってからの再就職であること
2 失業手当の支給残日数が3分の1以上残っていること
3 再就職先と前職との間に密接な関わりがないこと(例えば、前職からの紹介で就職したり、グループ会社など密接な関わりのある会社に転職したりしたときは対象外となります)
4 待期期間満了後の1カ月間はハローワークか厚生労働省が許可した人材紹介会社経由の再就職先であること(この期間は友人や知人などの紹介で再就職すると対象外になります)
5 再就職先で1年超の勤務が確実であること(正社員、パート、派遣、アルバイトなど雇用形態は問われません)
6 雇用保険に加入していること
7 過去3年間以内に再就職手当を受給していないこと
8 受給資格が決定する前に、再就職先の採用が内定していないこと(ハローワークに行く前に内定先が決まっていると受給できません)

■65歳以降に退職した人は受け取れない

再就職手当を受給すると、就業促進定着手当がもらえる場合もあります。

再就職先に6カ月以上(雇用保険に加入して)雇用されている、再就職後6カ月間の賃金の1日分が離職前の賃金日額を下回っているのが要件です。この手当についても雇用形態は関係ありません。

この再就職手当、就業促進定着手当は、64歳11カ月までに退職した場合はこれらの手当を受け取れますが、65歳以降に退職するとこれらの手当は受け取れません。つまり、64歳11カ月までに退職し、それ以降も働く意思があれば、年金をもらいながら、失業手当、再就職手当、就業促進定着手当も受給できるというわけです。

出所=『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』

退職後、仕事を探すために最初に行くのがハローワークです。しかし、ハローワークでの求人検索だけでは納得のいく結果を得られないことが多いです。そこで、ハローワークの意外な活用法と、高齢者向け支援について詳しく解説します。

■ハローワークを使い倒してほしい

このようにハローワークは老後の暮らしをサポートする、強い味方なのですが、ハローワークで仕事を探す際、単に求人を検索するだけで終わってしまう方が多いのが残念です。これでは自身の能力や経験を最大限に活かせる仕事に出合うチャンスを逃してしまう可能性があります。

写真=iStock.com/Yuto photographer
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Yuto photographer

ハローワークでは、60歳以上の求人も多く取り扱っていますが、満足できる結果に至らない人が多いのが現状です。そこで、ハローワークのシニア向け支援を活用することが重要です。

社労士みなみ『もらう×増やす×出費を減らす 年金最大化生活』(アスコム)

● 生涯現役支援窓口の利用

ハローワークには「生涯現役支援窓口」があり、ここではシニア世代向けの情報提供や支援を行なっています。この窓口では、シニア世代を積極的に採用する企業の情報を提供しており、通常の窓口よりも高い就職率を誇ります。

また、履歴書や職務経歴書の書き方、面接の受け方など、シニア向けの具体的なアドバイスも行なっています。この窓口は、全国に300カ所のハローワークに設置されています。ハローワークのウェブサイトで簡単に検索できます。

● キャリアコンサルタントの活用

ハローワークでは、キャリアコンサルタントと無料で相談できるサービスも提供しています。キャリアコンサルタントは、経験やスキルを整理し、適切な職業選択をサポートしてくれる専門家です。

自己理解を深め、自分の強みを明確にすることで、効果的な就職活動が可能になります。また、能力開発や教育訓練の情報提供、求人検索の支援も行なっています。キャリアコンサルティングは、最寄りのハローワークで、無料で申し込むことができます。

●自治体の就業支援との連携

多くの自治体では、ハローワークと連携してシニア向けの就業支援を行なっています。例えば、東京都は「東京しごとセンター」を設置し、55歳以上のシニア向けコーナーがあり、職業相談やセミナーを提供しています。

ここでは、新たな職種への挑戦を支援する就職支援講習が行なわれており、講習最終日には合同面接会が開催され、就職のチャンスを広げることができます。

■成功の鍵は「情報」を持つこと

また「東京キャリア・トライアル65」では、65歳以上のシニアを企業に派遣し、1週間から最大2カ月間の有給トライアル就業を提供しています。

主に事務職、営業職、IT・技術職などの職種で、経験豊富なキャリアアドバイザーが面談で経験やスキルや希望を確認して、企業とのマッチングを行ないます。就業中も専任担当者がサポートをしてくれます。

ハローワークや自治体の支援を上手に活用することで、自身の経験やスキルを生かせる職場で働く機会が増えます。成功の鍵は情報を持つことです。ぜひ、これらの支援を積極的に活用し、新たな働き方を見つけてください。

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社労士みなみ(しゃろうしみなみ)
社会保険労務士 YouTuber
年金をはじめとする「老後のお金」をテーマに情報発信を続ける社労士YouTuber。知識や経験のないまま投資を始めて失敗する高齢者が多い現状を変えるべく、「年金最大化生活」を提唱している。かつては大手銀行に勤務し、資産運用のアドバイスを行っていた。自身も20代から資産運用を始め、その運用歴は30年になる。50代に入って子育てが落ち着いたことをきっかけに、社会保険労務士として開業。開業社労士として活動しながら、主婦の経験も生かした生活者目線で専門的な知識をわかりやすく解説する動画も配信。FP2級も保有。
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(社会保険労務士 YouTuber 社労士みなみ)