『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』(ほおのきソラ/漫画、鳳ナナ/原作)は滝澤氏が編集を担当。アニメ化が決定するなど、アルファポリスを代表する大ヒット作

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■存在感を増すアルファポリス

  活況を呈する電子書籍市場において、圧倒的な存在感を誇るのが「アルファポリス」である。アルファポリスは2000年の設立。半世紀以上の歴史をもつ企業が多い出版業界のなかでは若い出版社といえるが、数々のヒットを連発し、今年も5作品がアニメ化され、漫画好きにとって無視できない存在になっている。

(参考:【漫画】『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』を試し読み

  いったいなぜ、ヒットを連発することができるのだろうか。今回、コミカライズ作品で話題作を連発している編集者・滝澤友梨氏にインタビュー。滝澤氏は、漫画と担当作品を誰よりも愛し、作家と二人三脚で創り上げていく、情熱溢れる編集者であった。

■編集者個人の“好き”を優先させてくれた

――滝澤さんは『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』(ほおのきソラ/漫画、鳳ナナ/原作)、『華麗に離縁してみせますわ!』(あばたも/漫画、白乃いちじく/原作)など、アルファポリスの看板作品を多数手がけ、社内でも実力派の編集者として知られています。2017年に入社されていますが、アルファポリスを選んだ理由は何だったのでしょう。

滝澤:新卒で入社する前年、アルファポリスでインターンを経験しました。先輩社員に仕事の一端をやらせてもらったり、出版に関するいろんなことをお話しくださりとても楽しい時間でした。このときに体験したアルファポリスとの印象がとてもよかったんです。

――就職活動は出版社を中心に行ったのですか。

滝澤:出版社は採用人数も少ないですし、この業界だけを狙うのは危ないと思い、エンタメ系、広告系、映画系、あとアニメも好きだったので映像系も受けました。編集職では2社から内定をいただき、先輩社員の良いイメージもあったアルファポリスに決めたんです。

――現在も、会社の雰囲気はかなり自由だそうですね。

滝澤:私は編集三部という女性向けの漫画を編集する部署にいるのですが、若手も、中堅も、上司も、和気藹々と雑談しながら作品を作っています。もちろん言うべきところは主張しますし、上下関係がまったくないわけではないけれど、ちゃんと売れるものや面白いものを作る体制ができている。しかも、当社は編集者個人の“好き”を優先させてくれる会社です。「この作品をコミカライズしたら面白い」という思いを上司に伝えると、「やってみなよ」とやらせてくれるんです。そこからヒットが生まれる好循環があると思います。

――そういった社風のおかげで実現した作品はありますか。

滝澤:『転生侯爵令嬢奮闘記-わたし、立派にざまぁされてみせます!』(屋丸やす子/漫画、志野田みかん/原作)です。原作を読んだとき、漫画化したら絶対に面白いと感じたのです。なので上司にこう漫画化して、こう売り出せばより人気が出る……と説得したら、やらせてくれたんです。

――素晴らしいですね。そして、狙い通りヒットしたと。

滝澤:コミカライズは、小説のヒット作を漫画化すれば必ず売れるわけではありません。あくまでも、漫画にした時に面白いかどうかが大事です。そして、編集者が何より、作品を面白いと思うことが大前提。面白さがわからないと、推し方もわからないですからね。自分が原作を読んで面白いと思ったポイントと、漫画家さんの得意なポイントが重なった作品は“売れる”と考えてます。

■女性向けファンタジーは10万部超え連発

――滝澤さんが担当する作品のジャンルは、いわゆる“女性向けファンタジー”です。

滝澤:女性向けファンタジーは、漫画プラットフォームを見ていただくとわかりますが、現在、人気が上がってきているジャンルです。男性向けもファンタジー系が人気ですが、特に女性向けは、恋愛要素が入っているもののほうが人気が高いですね。

――電子書籍のランキングの上位には、ファンタジーものが多数入っています。ここまでの人気を得ているのはなぜでしょうか。

滝澤:異世界ファンタジーは基本的にハッピーエンドですし、主人公が最初からある程度愛されている状態です。読んでいて心地よいシチュエーションが多いので、人気なのかもしれません。また、仕事や育児、家事など日々の生活で忙しくされている方は、漫画を読んで一息つきたいとか、楽しい気持ちになりたいというポジティブな思いを求めて読んでいる方もいます。

――あまり部数は注目されることがありませんが、女性向けファンタジーは10万部超えのヒットが出ていると聞きます。

滝澤:10万部超えはざらにありますね。私が担当している『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』『華麗に離縁してみせますわ!』『転生侯爵令嬢奮闘記-わたし、立派にざまぁされてみせます!』は、1巻だけで10万部を超えています。最近出た『私が死んで満足ですか?』(あばたも/漫画、マチバリ/原作)も2巻が出る頃には5~8万部超えは確実な状況です。

――それは、紙と電子を合計した部数ですか。

滝澤:そうですね。そして、圧倒的に電子が売れています。割合は紙:電子=2:8、もしくは3:7くらいの比率のものもあります。

■電子書籍を意識した表紙への細かな配慮

――出版界全体の動向を見ても、電子書籍の売上がここ数年で急激に伸びています。なぜ、電子がそんなに強いのでしょうか。

滝澤:置き場所をとらないのと、手軽に買えて読めるためだと思います。ちょっと読みたいと思ったときにスマホで買って、読めて、荷物にもならない、これは大きな魅力だと思います。あと、一度買えば、漫画をある程度半永久的に持っていられるのも電子の強みですね。ただ、紙のコミックはやはり魅力的です。紙を捲って楽しむという行為は特に好きな作品においては何物にも代え難い体験です。

――どの漫画もとてもデザイン性が高いですね。こだわっている部分はありますか。

滝澤:書影を作る際は、常に電子を意識して作っています。例えば、表紙に原色を使っていることです。『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』は、主人公の名前が“スカーレット”ということもありますが、3巻まで赤いドレスを出し続けていますね(笑)。他の作品では、背景色を目立つ1色で統一したこともあります。

――戦隊ヒーローでも赤が中心にいますが、赤は強い色ですよね。

表紙デザインは特に重視。スマホで読者が選ぶ際に埋没しないよう配色は特に重要視をしているという

滝澤:赤はスマホの小さい画面でスクロールした時も、パッと目に留まるのです。私は書影がデザイナーから上がってきたら、わざと小さくして、遠くから眺めて映えるかどうかを確認します。ランキングの画面上に当てはめて、前後の書影にインパクトで負けていないか調べることもあります。

■才能を見つけるための秘訣

――新人漫画家の発掘は編集者の重要な仕事です。アルファポリスさんでも漫画から小説まで、数多くの新人賞を主催していますね。滝澤さんは、有望な新人を見つけるために心がけていることはありますか。

滝澤:新人賞の応募者から才能を見出すこともありますし、PixivやXにUPされた一枚絵や4コマ、ちょっとした原稿など、少しでも光るものがある方には「漫画に興味ありますか?」と声をかけてしまいます。

――Xはよく見るのですか。

滝澤:めっちゃ見ます(笑)。ビビッと来た方にはDMから連絡することもありますし、メアドを書いている方にはメールも送ります。DMもメールもない方は、マシュマロに依頼文を書くこともあります。

――といっても、今や1億総クリエイター時代などと呼ばれ、ネット上にイラストや漫画をUPする方がたくさんいます。そのなかから、才能ある人材を見出すのは大変ですよね。どんなポイントを見ているのですか。

滝澤:私が惹き込まれるのは、印象的な1コマを描ける方ですかね。あと、“瞳”の描写が上手な漫画家は目を惹く絵を描ける方が多い。なので、キャラの目はしっかりと見ますね。どんな感情のときに、どんな目を描いているのか、丁寧に見ます。どの出版社の編集さんも、目は見ていると思いますよ。

■目力とテンポ感が重要

――人気漫画のキャラクターは目力が強いです。

滝澤:私が編集者になった頃に書店さんを見て回っていたら、パッと目に留まる漫画は表紙の目力が強い作品が多いとわかりました。あと、スマホの広告で漫画のコマが回ってくることがあると思いますが、あれだけではストーリーの全貌なんてわからないじゃないですか。でも、目力がある印象的なコマがあれば、購入のボタンを押してしまいますね。

――私も目力に惹かれてポチッてしまうことが多いので、よくわかります。

滝澤:あとは、ストーリーのテンポ感でしょうか。スマホ画面をテンポよくスライドし、読み進められるかどうかは重要です。

――現在、滝澤さんが担当している漫画家さんは何人いるのですか。

滝澤:連載作家は15人くらいです。デビューに至っていない方は、25~30人くらいでしょうか。才能を惚れ込んで声をかけていますから、担当している作家さんの得意分野などは、しっかり自分の中で理解できるように努めています。

■担当作のアニメ化が見えた!

――滝澤さんは入社前から漫画好きだったのですか。

滝澤:大好きでした! 学習塾でも勉強せずに、当時はまっていた『BLEACH』を読んでいたんですよ。それが先生に見つかり、「滝澤さんは机には座っていますが、漫画を読んでいます」と母に報告が行き、めちゃくちゃ怒られたこともあります。

――『BLEACH』ということは、少年漫画がお好きだったのですね。

滝澤:でも、入社後に配属されたのは“異世界物”などを扱う女性向けの部署でした。こういったジャンルを読んでいなかったので、先輩のもとで一から学びましたよ。

――でも、少年漫画好きの趣味が担当作品で活かされる場面もありそうです。

滝澤:『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』は、原作小説を読んだときに、ジャンプ作品に近いものを感じたんです。バトルもありますし、主人公が悪を成敗する『水戸黄門』チックな要素もあるなと。そこで、少年漫画の要素を意識して漫画を作っています。

――『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』は滝澤さんにとって非常に思い出深い作品なのだとか。

滝澤:はじめて漫画家さんに自分からお声がけをして、コミカライズ化した作品です。入社1年目の終わりぐらいに、原作小説を上司から渡され、内容に合う漫画家とコミカライズを進めてほしいと言われました。私は原作を読んで感動し、この作品は絶対売りたいと思いましたね。しかも「うまくいったらアニメ化するかも」と直感的に思ったんです。

――それは凄いですね! もしかして、預言者ですか(笑)!?

滝澤:バトルシーンなどの動きが描ける漫画家さんに頼んだら、絶対に跳ねると確信しました。幸い、画力が高く、バトルシーンが得意なほおのきソラさんにお引き受けいただき、1話のネームを見て、やっぱりこれはアニメ化すると思ったのです。1巻が出たとき、ほおのきさんと原作者の鳳さんに「絶対にアニメ化しますよ」と書いた手紙を添えて献本したのですが、2人とも信じてくれませんでしたね(笑)。

――だからこそ、アニメ化が決まった時は嬉しかったのではないでしょうか。ほおのきさんも、鳳さんも、滝澤さんに感謝しておられるのではないですか。

滝澤:いえいえ、私は感謝されるような立場ではないと思っていて。むしろ、お2人にはこんなに素敵な作品を作ってくださり、ありがとうと言いたいです。ただ、アニメ化の件はもっと早く信じてくれても良かったと思いますけれどね(笑)。

■自分が一番のファンかもしれない

――漫画の編集部を取材すると、近年、マーケティング的な視点を強調されることが増えた印象を受けます。滝澤さんも連載を立ち上げる際、売れ筋を意識することはありますか。

滝澤:私はマーケティングに関しては、まったくしないわけではありませんが、凄くやられている方ほどはやっていないと思います(笑)。うちの部署の主軸はコミカライズです。コミカライズは、ある程度原作小説が売れていてファンの方がいるところからのスタートなので、もともとある程度の読者は確保しているわけです。ただ、私は漫画から入って小説にたどりつく読者が増えるようにと、頑張っています。

――コミカライズは、原作を面白いと思った方が漫画も面白いと思ってくれるかどうかも肝心ですよね。

滝澤:原作が面白かったのに、漫画はイマイチ……と思われたら、残念ですからね。私は、連載を立ち上げる前に、原作ファンが何を面白いと思っているのか、分析します。レビューを徹底的に読み、さらに自分が読んで面白い感じたポイントを2つくらい抜き出します。打ち合わせの際にはそういったポイントを提示し、さらに漫画家さんが面白いと思ったポイントも聞きます。何度も何度も議論し、作品を作り上げていくのです。

――お話を聞くと、滝澤さんは王道な漫画の作り方をしているなと思いました。作家さんと打ち合わせをするときは対面ですか。

滝澤:私は対面派です。喫茶店などで話し合い、その場でネームを書いてもらい、どっちがいいかと選んだりもします。ある作家さんと空港でネームを広げて話し合いをしていたら、周りに子どもたちがやってきたこともありました(笑)。担当している作家さんが都内在住が多いので。喫茶店での打ち合わせは定番。時には散歩しながら考えることもあります。

――歩行によって脳が活性化されるのでしょうか(笑)。

滝澤:展開を考えるときは、アイスのような糖分をとりながら歩くと、アイデアが浮かぶことがありますよ。コミカライズは原作に忠実なパターンもありますが、独自の展開を盛り込むこともあります。原作にちょこっと書かれていたフレーズをもとに、話を膨らませたりもしますね。

■私が惚れ込んだ作品を買ってください!

――滝澤さんにとって漫画の編集は天職なのではないでしょうか。

滝澤:そうですね。それに、作家さんはみんな圧倒的な才能があって、私を喜ばせてくれる存在です。担当している漫画家さんはなんて素晴らしい方々なんだと思います。新しい表現やちょっとした凝った演出を入れていただいた日には、作家さんに送るLINEにハートの絵文字を入れまくります(笑)。読者目線で見ても、担当した作品は楽しい漫画ばかりです。

――滝澤さんが一番のファンのように感じますね。仕事が推し活のようになっているのかなと。

滝澤:自分が好きなものって、他の人にも好きと言ってもらえると嬉しいじゃないですか。だから、映像化も嬉しいし、ランキングで1位になるのも嬉しいんです。

――今後、滝澤さんが生み出していきたい漫画はなんですか。

滝澤:オリジナルですね。コミカライズで関わりのある漫画家さんで、オリジナルを見たい方が何人もいます。コミカライズと並行でもいいので、オリジナルをやってほしい……と打診をして、水面下で進んでいる企画があります。みなさん、ぜひ見かけたときは買ってくださいね! 私が惚れ込んだ才能たちの作品を買ってくれたら本当に嬉しいです!

――熱烈なアピールをありがとうございます(笑)。最後に、この記事の読者にメッセージをお願いします。

滝澤:『最後にひとつだけお願いしてもよろしいでしょうか』は、2025年にアニメ化されます。アニメを楽しみにしつつ、これからも原作と漫画を追っていただけますと。原作も漫画も最終章に進み、この先、もっと盛り上がります。スケールがより大きくなりますし、新たなイケメンや面白キャラ、かわいいキャラや魔王なども出きます。そういったキャラたちとスカーレットの関わり合いや、活躍を見ていただけると嬉しいです。

(文=山内貴範)