【インタビュー】mol-74、「“こんなバンドいたんだ!”と思ってもらえる曲を作りたくて」
mol-74が、2カ月連続デジタルリリースとなる新曲「脈拍」「また思い出しただけ」をリリースした。
◆ミュージックビデオ
周囲に対して疎外感を抱いていたり、心が沈んだ状態だったりするとき、その緩急自在な歌とバンドサウンドで寄り添ってくれそうな「脈拍」は、郄橋涼馬(B, Cho)がメインで制作を担当。一方、“日付”がきっかけとなって甦る記憶をテーマにした、リスナーそれぞれの思い出も自然に重ねられるエモーショナルな「また思い出しただけ」は、武市和希(Vo, G, Key)を中心に構築。いずれもmol-74らしく季節感を織り込んだ、郷愁が似合う秋に聴いてもらいたいナンバーに仕上がっている。
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◼︎今の4人なら完成させられるんじゃないかなって
──バンドの調子がすごく良さそうですね。3rdフルアルバム『Φ』の発売が今年5月でしたけど、早くもこうして次なる新作が届きました。ライブも精力的に行なわれていて、9月には中国でのワンマンツアーを開催されたりと、積極性が増している印象があります。
武市和希(Vo, G, Key):どうなんでしょう(笑)。自分たちではわからないですけど、いい感じでやれてはいるのかな。
郄橋涼馬(B, Cho):ライブの本数は去年よりもかなり増えていて、コンスタントにやれているぶん、精度が上がっていってる気はします。
井上雄斗(G, Cho):中国ツアーも過去最多の公演数を回らせてもらって、各地でたくさんの方が観に来てくれました。ライブを楽しむ姿勢は、すごくアグレッシブになってきたのかなって。
坂東志洋(Dr):そうだね。最近はライブをたくさんやれていて、しかも楽しくやれているから、今まで以上に“バンドしてるなあ”っていう感覚が強いです。
武市:制作のペースが早くなったのは理由があって、『Φ』のリリースツアー期間を2つに分けていたことが大きいんです(前半は2024年6月上旬から7月中旬、後半は10月下旬から11月上旬に開催)。後半へ向けて「ファンのみんなにより楽しんでもらえるようにしたいよね」とメンバーやスタッフと話し合った結果、2カ月連続で新曲を出そうと決めました。
──ファンへの想いもあってのことだったんですね。約2年前に自主レーベルの11.7(読み:イチイチナナ)を設立されて以降、いろいろと変わってきている感じですか?
武市:そうかもしれません。新曲のリリースにしても、自主レーベルじゃなければこんなにフットワーク軽くは動けてないですからね。今は覚悟を持って、挑戦もしながら、僕らのやりたい表現がやりたいタイミングで自由にできてるんじゃないかと思います。
──中国でmol-74の支持が高まっている要因は何が大きいんでしょう?
井上:僕らもハッキリとはわからないんです。きっかけになったのは……和希くん、何年前になるんやろ?
武市:初めて中国に行ったのが、もう7年くらい前。
井上:中国のWEBサイトだったかな。日本から来てほしいアーティストを聞いたアンケートがあって、大御所の名前がランクインする中、なぜかmol-74も入っていたんですよね。で、そのアンケートを取った会社の方が「このバンドなんや?」という感じで連絡をくれたのが最初だったと思います。
──早い段階でバンドの存在は伝わっていたんですね。
井上:当時は海外に発信していた意識もほぼなかったんですけど、たぶん何らかの方法で知ってくださって。
坂東:バズったとかではなく、じんわり浸透していった感じなのかなと。そのアンケートの前から、僕らの日本でのライブに中国のファンの方がちょこちょこいらしてくれて、「好きです」「中国に来てください」みたいな声はあったんですよ。でも、自分たちとしては「行ったところでお客さん集まってくれへんやろ」と思ってました。
武市:だけど、実際に行ってみたら、想像以上の反響があって驚きでしたね。4回目となったこの前の中国でのライブは、ワンマンで8カ所を回れたんです。
──中国ツアーで印象深かったことは?
坂東:四川で辛い料理を食べて、お尻がめっちゃ痛くなりました。すいません、音楽の話じゃなくて(笑)。
武市:武漢が特によかったです。料理がおいしくて、街がきれいな上に活気もあって。自分の先入観や価値観が180度ひっくり返されましたね。
郄橋:人それぞれが尊重し合っているような自由な感じがあって、すごく居心地がいい国でした。些細なことで怒らないというのかな。たとえばライブにおいても、カメラマンがフロアを掻き分けて動き回ったりするんですけど、みんなあまり気にせず楽しんでくれてるんですよ。
井上:10日くらいで8公演だったので、なかなかのハードスケジュールでしたけどね(笑)。それでも全員で心から楽しめたツアーになったのがよかったです。
──オーディエンスの反応も熱かったみたいで。
武市:すごく情熱的で、行くたびに驚かされますね。特に「フローイング」という曲では、合唱が巻き起こったりとか。一人ひとりが自由に音楽を楽しんでいる感じもある。日本のファンとは好きな曲がけっこう違っていたりするんです。
──では、新曲の話にいきましょう。郄橋さんがメインで制作された「脈拍」は、かなり早い時期に原型ができていたとか。
郄橋:はい。10代のとき、まだmol-74に加入する前に作ってはいました。とはいえ、当時は何かビジョンが見えていたわけじゃなく、コード進行とメロディがぼんやりできたくらいで、歌う内容も不明瞭な状態だったんです。たびたびトライしたものの、納得いく仕上がりにはならず。でも、個人的にずっと頭の片隅にあった曲という感じですね。
──今、このタイミングでリリースに至った経緯というのは?
郄橋:『Φ』のリリースツアーの前半が終わって、新曲を出そうという話になったとき、どんな曲があったらワクワクできるかなと考える中、ふと思い出したんですよね、昔作っていたデモの存在を。自分ひとりではできなくてしばらく放置していたけど、今の4人なら完成させられるんじゃないかなって。
──「脈拍」は良い意味で抽象性がありますね。人知れずとても複雑な感情を抱えた、決して器用ではない主人公がいて、誰かと向き合おうとしては、自問自答を繰り返しているような……そんな曲に聴こえました。
郄橋:そうですね。前アルバム『Φ』で制作した「虹彩」という曲では、ストーリー性があって直接的な表現も意識していた一方、「脈拍」では疎外感や沈んだ気持ちを描いてることから、同じタイプの言葉が散らばっているイメージで書きました。歌詞の繋がりもパッと見は繋がっているのかわからないくらいだけど、聴くうちになぜか想いが伝わってくるみたいなタッチでまとめられたと思います。
──「脈拍」というタイトルにした理由も聞かせてください。
郄橋:ラストの歌詞“この先 なにがあっても 振り返らないでね”を踏まえて、主人公の後ろ姿を切り取った意味合いの「襟首」というタイトルに最初はしてたんですけど、なんかちょっと怖いかなと思って(笑)。もっと大きく捉えた言葉を探していたときに、ふと「脈拍」というタイトルが浮かんだんです。生きている状態をシンプルに表せた感じでしっくりきました。
──確かに。
郄橋:あと、余談なんですけど、「脈拍」をいざバンドでアレンジすることが決まって、僕が改めてデモを作り直したんですね。曲のテンポをどうしようかなと迷ったときに、なんとなく自分の脈を取ってみて、そのBPMで作り進めたっていう裏話があります。
──メンバーにはどんなディレクションがあったんですか?
郄橋:ギターはいろいろリクエストしましたよね? 特にがんばってくれたのは、とぅんさん(井上の愛称)だと思います。
井上:大前提としてボウイング奏法をふんだんに取り入れたいというイメージを聞いて、僕もデモを聴かせてもらった時点で同じイメージは持っていました。多幸感のある、より壮大なサウンドにするために、イーボーという機材やスライドバーを使ったり。弓を普通には弾かず、木の部分で音を出してみたり。自分でも“何してんねやろ?”と思うこともあったんですけど(笑)、あーでもないこーでもないとトライする時間はすごく楽しかったです。
武市:僕はとぅんさんのギターソロが好きですね。広大な曲の雰囲気に対して、音符の少ない伸びやかなフレーズがすごくマッチしているなと思います。耳馴染みがいい。実はもうひとつ別のパターンもあって、それも良かったんだよな。いつの間にか変わってたんですけど(笑)。
井上:何度も弾いてみて、たくさんのディスカッションを経た末、最終的に今の形になりました。僕としても自信のあるギターソロができたので、“これで行きたい!”と推させてもらった感じです。パンの振り方や音の出る位置を凝っていて、右から左から欲しいとか、ちょっと上から聴こえるようにしたいとか、重なり具合も考えながらワンフレーズずつ録りました。そのあたりも注目してもらえたら嬉しいですね。
坂東:ドラムに関しても、郄橋に細かくイメージを伝えてもらいました。広いところで大きく鳴っていることを意識しつつ、レコーディングもライブ感がある音で叩けた気がします。Bメロのフロアタムのフレーズが特に気に入っています。
武市:郄橋にはどういう想いで作ったとか、理想とするサウンド、リファレンスを聴かせてもらったりもしました。
──リファレンス、具体的に聞いてみたいです。
郄橋:ひとつはわかりやすいと思うんですけど、メンバー全員がもともと好きなシガー・ロスですね。ボウイング奏法を活かしたいと思いつつ、ボウイングをするとリードギターがメロディを弾けなくなってしまうという制約もあるので、それを解消するような形で音を重ねつつ、北欧らしい曲を作りたい気持ちがありました。ただ、それだけで終わらずに、もっとたくさんの人がグッとくるような楽曲にしたくて、くるりを参考にしたりもしました。例えば「ジュビリー」って、オケの複雑さに反して、すごくポップに響く感じだったり、歌がすごく前に出るわけでもなかったり、演奏やミックスが絶妙なバランスで成り立っていると思っていて。あのトーン感を意識して音を組み立てていきました。
武市:“両方の要素を足して2で割った感じにしたい”っていう話はしてたよね。共存させた上で独自の雰囲気を出せた気がします。
郄橋:サウンドの心地よさに、ぜひ浸ってほしいです。余韻としては寂しさも感じるような曲なんですけど、喪失を経験したとしても、何かしら残っているものがある。そういったことに気づいてもらえたらいいかな。
◆インタビュー(2)へ
◼︎mol-74、かなりパワーアップしてます
──そして、武市さんが中心となって作られた「また思い出しただけ」は、“日付”をコンセプトにした曲です。
武市:去年、僕の祖母が亡くなってしまったんですけど、誕生日に毎年お祝いというか、電話をしたりしていたのもあって、そこから日付に対しての記憶について考えることが増えたんです。亡くなっても誕生日は残り続けていくものだし。
──そうですよね。
武市:本来は情報がないただの数字に、記念日とかのデータが入って記憶と結びつくのは、改めて不思議なことだなって。「また思い出しただけ」は、"今日"が別れてしまった恋人の誕生日や記念日だったという設定を描いて、その日が来ると思い出すみたいな現象をテーマに曲を書いてみました。
──聴いた人それぞれの記憶が色づいて、映像が浮かび上がってくるような曲だと思います。
武市:具体性のある歌詞にもチャレンジしたかったんです。今年リリースしたアルバム『Φ』に「BACKLIT」という曲が収録されていて、リードトラックとしてMVを作る中で、もうちょっと踏み込んだ内容でもよかったんじゃないかみたいな。反省じゃないんですけど、そんな話をメンバーとしてもいたから、日付をキーにするのはいいかもしれないなと。
──武市さんとしては、これまでとはまた違うmol-74を見せられた手ごたえもありますか?
武市:そうですね。『Φ』のリリースツアー後半を成功させたくて、mol-74を知らなかった人に“こんなバンドいたんだ!”と思ってもらえる曲を作りたくて、僕がすごく考え込んでしまったりもしたんですけど、メンバーのアドバイスに助けてもらいつつ、シーケンスなどをいったん抜きにした、4人の音だけで完結できるシンプルな方向性に行き着きました。原点回帰のようで、自分たちには珍しい、具体的で共感性の強い曲です。
──具体的な描写が多いとは言っても、“何月何日”と限定した日付を歌っているわけじゃないし、聴き手によって異なる日を思い出せるような、さまざまな解釈ができる曲ですよね。
武市:パーソナルな色が出すぎてしまうのは違うなと思ったし、おっしゃるとおり聴いてくれた方の記憶にある日を浮かべられるようにしたかったので、仮タイトルも「月日」でした。ただ、それだとざっくりな感じというか、具体性にも欠ける。今までのmol-74になかったような新鮮味も出したくて、「また思い出しただけ」に変えました。
──なかなかないタイプの曲じゃないですか? “失恋ソング”みたいにジャンルで括れない深みがあるし、別れを歌っていながらとてもポジティブな後味があって。
武市:ありがとうございます。決してネガティブな方向じゃなく、じんわりと温かい曲にしたいことは、作り始める段階でメンバーとも話していました。なんて言うのかな……この主人公は日付から別れた恋人を何気なく思い出すんですけど、相手にめちゃくちゃ執着があったりだとか、あの頃に戻りたいとか、そういう感情はなくて。ふわっと匂う香りくらいのイメージなんです。
──過去を回想しながらも“随分薄味のように感じるけど”と歌ってますもんね。
武市:そうそうそう(笑)。心が掻き乱されるわけでもない。日付が記憶と結びついて“あの頃、楽しかったな”と、ほんのり思うくらいかな。そんなテンション感にしたかったんです。
坂東:いい軽さが出てますよね。ハイハットの裏打ちも上手いことハマって、演奏していて新鮮でした。高速で刻むようなありふれたパターンじゃないから、僕らっぽさがちゃんとあると思う。こんなにがっつりと裏打ちしたのは、mol-74史上初なんですよ。
武市:Laura day romanceの「透明」が好きで、制作時期によく聴いていたんです。この曲のさりげない裏打ちがよかったんですよね。嫌らしさみたいなものがまったくなくて。ザ・ワイルドライフの「You Don't Love Me (Like You Used To)」も、スネアの軽さとかバスドラムの重みがヒントになりました。
郄橋:ドラムの小気味よさに合わせたくて、ベースはひさしぶりにピック弾きをしています。「また思い出しただけ」は4人だけのアンサンブルなので、ダレないような音の配置もすごく考えつつ、和音弾きみたいなことをしてみたり、ボトムを支えるロー感がサビで強く出るようにしたり。シンプルだけど聴き飽きない、それでいて歌に集中できる曲にしたかったです。
井上:今回の2カ月連続でリリースした新曲って、それぞれキャラクターがまったく別だと思うんですけど、僕の中ではどちらもmol-74っぽいんですよ。ボウイングとか凝ったプレイも入れた「脈拍」に対して、「また思い出しただけ」はシンプルな僕ららしさを楽しんでもらえる気がします。より季節にフォーカスした曲でもあるので、秋に合うような円みのある音や澄んだ空気感を意識したり、繊細な音づくりができたんじゃないかな。
──「エイプリル」のように、「また思い出しただけ」も毎年聴きたくなりそうです。
武市:何月と限定してはいないですけど、人肌恋しくなってきた頃に合うサウンドで作ったつもりなので、聴いてくださった方にとって大切な曲になったら嬉しいですね。
──ふわっと思い出すくらいの軽さが心地いい曲ですけど、未来を強く歩んでいってほしいみたいな想いも込めていますか?
武市:いや、そこは全然ないですね。今日のことを歌ってはいるんですけど、未来に対しての感情はゼロ。ストレートに過去をフィーチャーした曲です。
──タイトルどおり、また思い出した“だけ”というか。
武市:そう! 思い出した“だけ”なんですよ。思い出したからこうしたいとか、強く生きていきたいという意図はない。日常がただスクロールされていくように、重苦しくなくて、淡々としている。サウンド同様、メッセージも非常にシンプルです。
──さっぱりしてますね。
武市:うん。あっけらかんとしているんだけど、その思い出は自分の人生にとってすごく大切なもの、みたいな感じ。こういう曲はmol-74になかったかもしれないですね。「エイプリル」はちょっと重めなので。
──ツアーで新曲が聴けるのも楽しみにしています。
武市:「脈拍」と「また思い出しただけ」でくっきり出せたmol-74の二面性に対して、どんな反応があるのか、僕らも楽しみです。バンドのグルーヴ感は中国ツアーでかなり深まったと思うので、良い状態のまま臨みたいですね。
郄橋:『Φ』のリリースツアー後半に向けて、今年はずっとやってきた感じもありますからね。ひとつの集大成じゃないけど、このライブでしっかりといい演奏を届けたい気持ちが強いです。
坂東:ツアーの前半とはセットリストもガラッと変わるし、絶対にいいライブをします。新曲を聴いて、遊びに来てください!
井上:僕らとしても今すごく自信がある状態なので、楽しみにしていてほしいです。mol-74、かなりパワーアップしてます。
──「脈拍」のボウイング奏法も、とぅんさんがアップしたアンオフィシャルの映像でしか観られてないから、ちゃんとライブで味わってみたいです。
全員:わはははは(笑)。
井上:あれは真剣にふざけ倒した動画なので、ライブではもっともっとカッコよくやります!
武市:もしかしたら、ツアーではあの映像をバックに演奏するかもしれません(笑)。
井上:それやったら、オフィシャルに格上げしてくれ!
坂東:おかしいでしょ(笑)。
郄橋:ぜひ、ライブに来てください〜!
取材・文◎田山雄士
mol-74 2カ月連続デジタルリリース
作詞:郄橋涼馬
作曲 / 編曲:mol-74
配信URL:https://lnk.to/mol-74_myakuhaku
Official Audio:https://youtu.be/F86LdwedNFg
「また思い出しただけ」
作詞:武市和希
作曲 / 編曲:mol-74
配信URL:https://lnk.to/mol-74_mataomoidashitadake
Official Audio:https://youtu.be/jiZy0-MI4Ww
mol-74「Φ」release tour final
11/1 (金) 大阪:Music Club JANUS
11/8 (金 東京:Zepp Shinjuku
チケット
一般:¥4,500 (税込/D別)
学割 (枚数限定): \3,900 (税込/D別) ※当日学生証のご提示が必要です
チケット 一般発売:https://eplus.jp/mol-74/
関連リンク
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