(写真:KiRi / PIXTA)

あの人はなぜいつも感情的なんだろう。他人の理解できない行動に悩むことはありませんか。パターンを把握することで、どうしてそんな行動をとったのか、相手の心を読むことができるようになります。北欧・フィンランド出身で、応用心理学研究者のエミリア・エリサベト・ラハティさんが上梓した『「弱いまま」で働く やさしさから始める小さなリーダーシップ論』を一部抜粋・再構成してお届けします。

とくに私たちが困難を感じているときに、あらゆるコミュニケーションの基礎になるものについて取り上げたい。それは、ジェントルパワー(やさしさの力)を使う能力にも影響を与えるものだ。

「親のせい」と書かれたTシャツを着た女性

数年前、ロサンゼルスのベニスビーチの遊歩道を歩いていたとき、ローラーブレードを履いた若い女性が目に留まった。茶色の髪にカラフルなリボンを編み込んだ彼女の黒いTシャツには、白の太い文字で「Blame It on the Parents(それは親のせい)」と書いてあった。

「それ」が何を指すかはともかく、少なくともジークムント・フロイト〔訳注:精神分析学を創始したオーストリアの神経病学者〕がこの服を見たら喜んだだろうと思ったことを覚えている。

うまくいかないことを何から何まで親のせいにはできないが、心理学分野の研究では、幼少期の主たる養育者との体験が、大人になってからの人間関係のスキルに大きな影響を与えるという主張が圧倒的に強い。

家庭でも職場でも、受け入れられたい、安全でありたい、生き延びたいという人間の基本的欲求が、他者との関わり合いのスタイルの原動力になる。

人間関係の研究者や理論家は、私たちがこうした欲求を満たそうとするさまざまな方法を、「愛着スタイル」と呼んでいる。

人間の他者とのコミュニケーションのしかたを理解するには、愛着スタイルを形づくる要因──と、それに関連する不安、回避、充足の経験──を理解することがきわめて重要になる。

いつも同じような力関係になったり、同じように対立したりする相手もいれば、そうではない相手もいるのはなぜなのか? 反感を抱いてしまう相手と、なぜか惹(ひ)かれてしまう相手がいるのはなぜなのか? 自分の頭の中の人間関係の設計図を理解したからといって、不愉快な出会いを完全になくせるわけではないが、自分や他者をもっと明確に理解するのに役立つのは確かだ。

人との関わり方にはパターンがある

愛着理論の専門家であるダイアン・プール・ヘラーは、愛着スタイルはその人がもつすべての親密な人間関係に影響し、とくに快適さと安心感を与えたり、求めたりする方法を左右すると述べている。

愛着スタイルは、ジェントルパワー(やさしさの力)に関する私たちの体験にも直接関わってくる。なぜなら、私たちのパワーと愛への関わり方──パワーを使いすぎたり、手放したりするのはどんなときか、そうするときにどれくらい意識的で正直であるか、愛に対してどれくらいオープンか、どんなふうに他者を思いやるのか──は、愛着スタイルによって決まるからだ。

自分の愛着スタイルを理解すれば、自分の中にある見捨てられることへの不安や、共依存、愛着への心理的欲求が満たされるように他者を操作しようとする方法などが明確になってくる。

愛着スタイルとは要するに、私たちのほとんどが幼少期からもっている、人との関わり方のパターンをいう。幼少期は発達中の自我が、外の世界に適応しながら、その世界の不完全な部分から自分を守る方法を初めて学ぶ時期だ。

そうした関わり方のパターンが人に見られ、緩められることで、それに必要な心的エネルギーをほかの基本的機能に譲れるようになる。愛着スタイルは人生のごく早い時期に形成されるため、大人になってからは、完全には自覚しないまま本能的なレベルで働くことが多い。

だからこそ、そのスタイルを少なくとも基本的に理解していれば役に立つ。自分が出合うあらゆるもの──パワー、愛、葛藤、寛容さ、境界線など──との関わり方に、愛着スタイルは影響するからだ。

少し時間に遅れただけで(自分にとっては大したことではないのに)パートナーがあんなに強いリアクションを見せるのはなぜだろう、もう仕事が手いっぱいなのに、どうして頼まれるとなかなかノーと言えないのだろう、なぜ自分の気持ちに寄り添ってくれない人を親しい仲間に引き入れようとしたんだろう、パートナーの感情的な反応にいつも共感できないのはなぜだろう──そんなふうに思ったことがあるなら、愛着スタイルがそれを理解する手がかりになるかもしれない。

イギリスの精神分析医ジョン・ボウルビィは、部分的にはアメリカの心理学者ハリー・ハーロウの初期の研究をもとにして、愛着理論の大枠を提示した。

ボウルビィの主張によれば、人間の愛着反応は本能的なもので、潜在的な脅威に備えて確実に生き延びられるようにするために、何世代にもわたって脳に生まれつき備わっている機能だという。

そうした反応は、恋愛関係であれ親子関係であれ、あるいは仕事上の関係や、本書にとくに関連するものとしてはリーダーと部下の関係も含めて、人間関係を築き、継続させるための指針となる「愛着行動システム」を形成する。

組織論分野のシンディ・ハザンとフィリップ・シェイバーによる研究は、恋愛関係や家族関係に広く見られるのと同じ愛着の力学が、職場の同僚や上司や部下との関係でも展開されると示唆している。

「安定型」か「不安定型」か

大事なのは、愛着スタイルを性格類型ではなく、全般的な行動様式として見ることだ。手短にいえば、愛着スタイルは「安定型」と「不安定型」の2つの大きなカテゴリーに分類できる。

「安定愛着」とは、信頼とお互いへの親密感にもとづいて関係を築く能力であり、比較的簡単に(また、近しい人としばらく離れなければならないときに、過剰に依頼心が強くなったり不安定になったりせずに)愛情を与えたり受け取ったりできる性向をいう。

安定型の愛着スタイルの人は人口のおよそ半分を占め、一般的に失敗や拒絶に対する不安が少ない。

「不安定愛着」は、通常は3つの下位カテゴリーに分けられる。これらのカテゴリーは研究者によって呼び方が異なるが、反応が不安定なタイプから親密さを求めるタイプまでの連続体上にあると考えられ、一方の端が「不安型」(または「両価型」)、真ん中が「不安・回避型」(または「無秩序型」)、もう一方の端が「拒否・回避型」(または単に「回避型」)とされる。

不安型の愛着スタイルは見捨てられることへの不安が特徴で、愛情を求める行為や、すでにある受容をさらに求めるという形で表れる。ハザンとシェイバーによる別の研究によれば、調査対象者の約5分の1にこの愛着スタイルが見られた。

一方、明らかに連続体のもう一方の端に当たる拒否・回避型の愛着は、親密になることへの抵抗が特徴だ。拒否・回避型の人は、(すぐに強い感情を抱く傾向がある不安型とは異なり)なかなか人を近づけず、心の中の感情を表に出さない傾向がある。

ハザンとシェイバーの研究では、調査対象の成人の約4分の1がこの愛着スタイルだった。

3つ目のカテゴリーは、上記2つのカテゴリーの混合型とみなすことができる(「無秩序型」と呼ぶ研究者がいるのはこれが理由だ)。

この不安・回避型の愛着スタイルの人は相矛盾する反応を示すことがあり、親密になることを強く望みながらも、親密な結びつきへの抵抗も示す。私が以前見かけた若い女性は、前に「YES!」、後ろに「NO!」とプリントされたTシャツを着ていた。不安・回避型はちょっとそんな感じだ。

気力が弱っているときに、決まって取るスタイル

全体として見れば、ほとんどの人はここまでに説明した行動様式のうち複数が混じって表れる傾向があるが、たいていは、気力が弱っているときや不安におそわれたときに決まって取るスタイルがある。

自分の愛着スタイルを知るとともに、人間の神経系は第一に危険から身を守るように進化してきたことを理解することは、自分や他者の行動を理解する助けになる。

また、とくにその行動が理屈に合わない、あるいは場違いだと見える場合は、人間を突き動かす基本的な欲求を理解するのにも役立つ。愛着スタイルは心理学の世界ではよく知られているが、社会全体では広く議論されていないようだ。

私はコーチングをするときによく愛着スタイルの話を持ち出すが、だいたいクライアントから珍しいものを見るような目を向けられる。けれども、愛着スタイルの枠組みはとても役に立つツールになる。話を聞けば誰でも、もっと早く知っていればよかったと思うはずだ。

愛着スタイルは人間関係の地図になる


グーグルマップなどの地図アプリが私たちの移動のしかたを完全に変えたのと同じように、愛着スタイルを理解すれば、とくに人間関係という、ときにややこしい領域に関しては、そこに対処する方法もすっかり変わるだろう。

愛着理論について詳しく掘り下げていくと本書にはとても収まりきらないが、もっと詳しく知りたいという読者の方は、ここに書いたことを取っかかりとして参考にしてほしい。愛着スタイルについて詳しく学んでみれば、人としての成長に役立つツールがもう一つ手に入るのは間違いない。

(エミリア・エリサベト・ラハティ : 応用心理学研究者)