Vol.142-4

本連載では、ジャーナリスト・西田宗千佳氏がデジタル業界の最新動向をレポートする。今回は大幅に値上げとなったPlayStation 5 の話題。過去数回価格が上昇したが、今回の価格改定にはどんな背景があるのかを探る。

 

今月の注目アイテム

ソニー・インタラクティブエンタテインメント

PlayStation 5

7万9980円〜

↑PlayStation 5のテクノロジーや機能はそのままに、小型化を実現した新モデルのPS5(Ultra-HD Blu-ray ディスクドライブ搭載版)。Ultra HD Blu-rayディスクドライブは着脱可能で、本体内蔵のSSDストレージは1TBになる。

 

その昔、日本で「ゲームをする」といえば、家庭用ゲーム機で遊ぶことを指していた。ゲームファンから見れば“いや色々あって”と言いたくなるところだろうが、そこはちょっと我慢してほしい。1980年代にファミコンなどの家庭用ゲーム機が定着して以降、ずっとゲーム市場=ゲーム機の市場だと思われてきた。

 

それが少し変わってきたのが2000年代。携帯電話向けのゲームが増え、市場としては今もスマートフォン向けが最大のパイを持つ。とはいうものの、モバイルゲームとコアなゲームは別の市場であり、しかも共存可能だった。だからPlayStation 4は歴史的なヒットを記録し、Nintendo Switchも幅広い世代に使われるゲーム機に成長した。

 

ただ同時に、スマホ・PCでのゲーム市場も成長した。ネットワークゲームはスマホとPCを主軸に拡大し、家庭用ゲーム機の側がそこに同居しているような部分もある。

 

「ゲーム」という言葉が指すものは多様化・拡大し、いろいろな遊び方が許容されるようになっている。その昔「スマホゲームにゲーム機が食われる」と思われたのとはまた違う形で、“ゲーム機がスマホやPCに市場をとられる”時代がやってきた、とも言えるだろう。

 

では、ゲーム機は無くなってしまうのだろうか?

 

少なくとも当面それはあり得ない。前回のウェブ版でも解説したが、専用機のコストパフォーマンスはまだ高い。ゲームとPCを分けておきたい人もいるし、ゲーミングPCの抱える宿命的な“複雑さ”を避けたい人もいるだろう。よくまとまったパッケージとしての“ゲーム機”の価値は当面失われそうにない。

 

ゲームを開発する側としても、ゲーム機は有難い存在だ。ゲームはPCで開発しているといっても、ゲーミングPCの“スペックの多様さ”は動作検証を困難にする要因の1つ。ゲーム機はスペックが固定されているので、そこに向けて開発することは大きな工期とコストの削減になる。だから、“PCでゲーム機を想定して開発し、その後に多様なゲーミングPCに合わせてチューニング”する作り方は続くだろう。

 

とはいえ、ゲーム開発のコストが上がっている現在、できるだけ多くのパイへとゲームを提供する必然性も出てくる。だから“複数のゲーム機とゲーミングPCにゲームを供給する”のは必然でもある。熱心なファンほどゲーミングPCへの投資が視野に入ってくる中でゲーム機を売るには、いかにその“ゲーム機を持っていることが重要か”という意識を持ってもらうかが重要な話になる。

 

本記事を書いている9月中旬現在、任天堂は「Switch後継機」の詳細を発表していない。任天堂は低コストで“自社ゲーム機にしかない要素”で戦うと想定されるので、発表されていない要素がPCとの差別化要因になるだろう。

 

SIEは“PCよりもコスパよく、安定してゲームを楽しめる環境”を推す。PlayStation 5 Proはそういう製品になっている。まだ見ぬ「PlayStation 6」までは時間があるので、また別の戦略を考えるかもしれない。

 

Xboxも基本的なありかたはPlayStationに近い。しかしマイクロソフトの場合、「PCでも同じゲームができる」ことを売りの要素にできる。「Xbox GamePass」という有料サービスで、XboxとPCの両方をカバーするからだ。仮にゲーミングPCを使っている人でも、Xbox GamePassに加入してくれれば同社の顧客になる。そもそも、Windowsを使っている時点でマイクロソフトには収益が入ってきてもいる。

 

三社が三様の戦略で生き残れると想定できるが、その中で“想定通りの大きな収益”を維持できるかは予測できない。そこは結局、どんなゲームがヒットするかに依存する部分が多く、水物であることに変わりはない。

 

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