ららぽーとTOKYO-BAY(写真:show999/PIXTA)

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ららぽーとクローゼット海老名店(写真:三井不動産提供)

お店で商品を実際に見た後に、ネットで最安値で購入することを「ショールーミング」と小売り業界で呼ばれています。

ショールーミングはリアル店舗を持つ小売業者にとって、競合他社に売り上げを奪われるリスクがあるため、有り難いものではありません。

そんな中、ショールーミングにより、売り上げや集客に成功しているユニークな事例があります。三井不動産が運営しているららぽーとクローゼット(LaLaport CLOSET)です。

ショールーミング用の店という逆転の発想

三井不動産が全国で展開する商業施設・ららぽーとに設けたショールーミングストアであるららぽーとクローゼットは現在3店舗を展開中。好調を受けて今後10店舗展開を予定しています。

いったいどのような仕組みで運営され、その成功の背景には何があるのか、考察していきます。

【写真8枚】商品を売らない「試着だけの店」ららぽーとクローゼット。空間を贅沢に使った店内を見る

ららぽーとクローゼットは、ららぽーとの人気ショップを中心に取り扱う公式通販サイト・&mall(アンドモール)に出品されているファッションアイテムを集めたショールーミングの店舗です。

ららぽーとクローゼットは、&mallの商品を事前にWebで試着予約をしておき、当日訪れて試着ができるサービスとして開始。試着後に気に入ったら&mallで決済・購入する流れになっており、実際に着て確かめられる納得感と、荷物を増やさずに手ぶらで買い物が楽しめる手軽さがポイントでした。

画期的なのは、ひとつのショップの商品だけでなく、複数店舗の商品をまとめて試着できる点です。

1号店は2021年3月にららーぽーとTOKYO-BAY にオープン。180坪という広いスペースで運営しており、ベビーカーも一緒に入れる広々とした試着室が特徴です。さらに、キッズスペースやカフェスペースも設けて家族が楽しく過ごせるように造られました。


TOKYO-BAY店は180坪と広い(画像:三井不動産提供)

当初は苦戦したが…

しかしオープンしてから約1年間、売り上げはずっと苦戦し続けていました。そこで2022年4月から大きな転換を図ります。体験サービスを大幅に強化したのです。具体的なサービス内容は以下の通りです。

3D骨格診断:3Dボディスキャナーによる36通りの診断結果から最適なコーディネートを提案パーソナルカラー診断&トータルコーディネート:カラー診断士によるカラーアドバイスと全身コーディネート提案プロのスタイリストによるコーデ体験:プロのスタイリストによる90分の診断とコーディネートPLUS MIRROR:診断ディスプレイ。AIによる顔タイプ診断やカラー診断や、館内のおすすめショップをレコメンド

この方向転換により、以後予約客が着実に増えていきました。顧客には商品を自分自身で選んで試着する「商品予約」よりも、自分の体形に合った服や色をAIやプロによって客観的に診断してもらう「体験」が好まれたようです。

顧客のニーズを的確に捉えて体験型にシフトしたことで、集客も売り上げも大きく伸びていく結果となりました。


売上の半分以上は体験予約客による(画像:三井不動産提供)

ファッションが苦手な顧客に照準

方向転換の際、ターゲットにしたのは服を選ぶのが好きなファッション上級者というよりも、ファッションに対する苦手意識を持つ顧客でした。

「自分に合う服がわからない」「どんな色や形の服を選べばいいのか」といった服選びの悩みを持つ顧客を対象にして、その人たちの悩みを解決するサービスを提供したことが成功の背景にあります。

好調を受けて2023年12月に海老名、2024年9月に福岡でららぽーとクローゼットをオープン。今後は10店舗出店を予定しており、売り上げ10億円を目指しています。

ショールーミングとは逆に、オンラインで商品をリサーチしてからリアル店舗で購入することをウェブルーミングと言います。

あなたが最近1万円以上の買い物をしたシーンを思い出してみてください。オンラインで口コミやレビュー動画を参照したり、価格を比較したり、リアル店舗で実際に手に取ってみたりと、ひとつの商品を購入するに至るまで数多くの選択肢があったのではないでしょうか?


(画像:著者作成)

買い物において、リアル店舗での体験とデジタル世界での便利なオンラインショッピングが、複雑に絡み合う時代が到来しているのです。これにより、リアル店舗の役割は単なる「モノを買う場所」から、「体験を提供する場」に変わりつつあります。

そもそも、なぜ三井不動産がEC?

ところで、リアル店舗の開発を本業とする不動産デベロッパーの三井不動産が、なぜECビジネスに力を入れているのでしょうか。

後編ー三井不動産が「ネット通販」に意外と本気のワケ 「ららぽーと」など商業施設の開発が本業だがーでは、その背景と狙いについて解説します。

(構成:横田ちえ)

(田中 道昭 : 立教大学ビジネススクール教授)