【中村 眞大】「性交渉をしたら退学」「校則のない学校のはずが…」学校で横行する理不尽の数々

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8月29日からネットフリックスで配信されているドラマシリーズ『恋愛バトルロワイアル』。主人公の有沢唯千花(演:見上愛)や真木陵悟(演:宮世琉弥)らの通う、男女交際禁止の校則が制定された超エリート高校「明日蘭学院」を舞台に、生徒同士のリーク合戦、理不尽校則を押し付ける学校との戦いを描いたオリジナル学園ドラマである。一見、従来の学園恋愛ドラマのように見えるが、校則の是非だけでなく、格差社会、家父長制、同性愛差別、アウティングなど、社会的な要素も多く取り込まれた作品だ。

昨今、理不尽な校則が社会問題化したことで、文部科学省が教員向けの生徒指導マニュアルである「生徒指導提要」を改訂したり、「こども大綱」が施行されたりと、校則見直しの動きは全国各地で進んできた。しかし、信じがたい校則や生徒指導は今もなお複数の学校で残っている。

本記事では、『恋愛バトルロワイアル』のモデルになったと思われる校則裁判や、生徒によって人権救済申し立てが起こされた学校の実態など、令和の世に蔓延る理不尽校則の現状について、複数の事例をもとに考えていきたい。

「性交渉をしたら退学」…驚きの校則

ネットフリックスは、『恋愛バトルロワイアル』を「実際の出来事を出発点にしたオリジナルストーリー」と明かしている。その「実際の出来事」に近しいケースと思われるのは、男女交際禁止の校則を破り、自主退学勧告を受けて退学した元女子生徒が高校を経営する学校法人を訴えたという裁判だ。事件が起きたのは東京の私立H高校。この高校には、「特定の男女間の交際は、生徒の本分と照らし合わせ、禁止する」という校則が存在し、性交渉を伴う男女交際が発覚した場合は、自主退学勧告を行うことが慣例となっていた。

当時3年生だった女子生徒Aは、1年生の3月頃から、同学年の男子生徒Bと交際を始めたが、お互いその事実を秘密にしていたこともあり、校内でも親しい友人数名しか交際を知る者はいなかった。ところが、2019年11月20日、AとBはそれぞれ教員から呼び出され「交際しているのではないか?」と問われた。二人は否定したが、事情聴取の過程でAのスマートフォンから親密な様子の二人の写真が見つかり、Aは交際を認めて泣き始めた。教員は続けて、性交渉の有無について質問した。Aは当初否定したが、教員から繰り返し質問され、最後は認めるに至った。実は、教員には彼らを追及する根拠があった。二人を呼び出す直前、二人の同級生にあたる女子生徒から「AとBは付き合っている」という密告を受けていたのだった。

交際と性交渉を認めたことを受けて、学校側は慣例に従い、AとBに自主退学を勧告。教員がAに「現役で大学に進学するためには、早急に退学して通信制高校などに編入する必要がある」と説明したこともあり、Aは25日付で退学届を提出、別の高校に編入した。

退学から一年後の2020年11月20日、すでに大学生となっていたAは、学園に対して、処分や事情聴取によって受けた精神的苦痛への慰謝料や編入費用など約704万円の支払いを求める損害賠償請求を起こした。Aは「男女交際禁止の校則は社会通念に照らして不合理であり無効である」と訴え、処分についても「事実上強制的な退学処分と変わらない」などと主張した。一方の学園側は、「私立学校は独自の教育方針によって教育を行うことが認められており、校則も社会通念上合理的である」と訴えて真っ向から争う姿勢を見せ、男女交際禁止校則の目的についても「男女交際によって精神的・肉体的な痛手を受けることを未然に防止し、学業に専念する時間を確保するため」などとした。

2022年11月30日、東京地方裁判所は、自主退学勧告の違法性を認定したうえで、学園側に約98万円の賠償を命じる判決を言い渡した。一方で、校則や事情聴取についてはいずれも適法とし、Aの訴えを棄却。理不尽な校則が社会問題化し、校則見直しが盛んに行われている現代においても、校則は生徒にとって抗えない高い壁であり、特に私立学校においてはそれが顕著である。

次章では、私立学校の生徒会長が、学校側の生徒指導に対して人権救済申し立てを行った事例を紹介しよう。

校則がない学校のはずなのに…

東京の私立S高校は、伝統的な女子校として知られていたが、2020年度から男女共学化し、再スタートを図った。共学化に伴い、女子校時代にあった厳しい校則も廃止したほか、定期テストを廃止し、日々の単元テストやパフォーマンスから成績評価を行うといった、個性豊かな取り組みを導入した。実際に学校説明会でも「校則はない」と明確に説明し、自由な校風をアピールしている。

そんなS高校に、2021年度から入学したのが男子生徒Nだった。この年度を境に、自由が取り柄だったS高校は徐々に崩壊していく。校則がないにも関わらず、教員個人の基準によって指定品着用や頭髪に関する指導が行われるようになったのだ。同年秋に生徒会長に就任したNは、校長への直談判や署名活動など様々な手段で訴えようとするも、結局校長と話をすることすらできず、署名も無効とされた。

2022年度には「ドレスコード」なるものが制定された。その内容は(現在までに何度かの改変を経ている)、「登校時は茶のローファーを着用すること」「装飾品は禁止」「頭髪の加工は禁止」「スラックス着用時は黒紺白など落ち着いた色の足首が隠れる靴下を着用」など、一般的な理不尽校則と何ら変わりのないものであったが、学校説明会やパンフレットでは引き続き校則がないとの説明がなされた。その年の12月には、2年生の学年集会で「指導に従わないと推薦を出さない」などという脅しもなされた。

2023年度には、目玉だった日々の単元テストでの成績評価を、河合塾の模試が半分を占める評価方法に突然変更。模試にはまだ授業で習っていない範囲も含まれていたというが、「成績をつけるうえでの配慮はされていない」と、ある生徒は語る。また、理不尽な校則が社会問題化したことで是正の動きが広がっていた「地毛証明書」も、S高校ではこの年度から携帯・提出が求められるようになった。

生徒会長を解任され…

Nは、こうしたS高校の惨状をSNSで複数回にわたり問題提起。すると、Nは「学校の評判を落とした」として生徒会長を任期途中で解任されてしまった。こうしてNは、2023年8月、東京弁護士会に対し、人権救済申し立てを起こし、文部科学省で記者会見を行った。しかし、残念ながら現在までに事態の改善は見られていない。2024年度入学生からは、パンフレットから「校則がない」という文言がひっそりと消え、入学時には「ドレスコードを厳守しないと、いかなる請求・処分を受けても異議はない」「貴校の名誉を害さない」などという内容の誓約書にサインさせるなどの指導が始まっている。

こうした一連の改変に対し、一部生徒や保護者のあいだから「詐欺だ」という声が高まっているが、Nのように表立って声をあげる人は少ないのが事態だ。ある関係者は、「あの学校はおかしい。声を上げたらどんな報復をされるかわからない…」と恐れる。実際に学校側が「報復」を行うかどうかはともかく、こうした声は、これまでの学校経営によって、関係者の学校への信頼をもはや修復不可能なまでにしたということを物語っている。

校則がないのであれば、頭髪・服装指導を行う理由もない。そのようなことを述べると、「無法地帯になるのでは」と危惧する人も多いが、いじめなどの犯罪行為への対処は法律や懲戒処分で十分なはずだ。少なくとも、校則の存在しない複数の他校では、生徒は自由な身なりで平和に学校生活を送っている。

では、なぜS高校は、このような事態に陥ってしまったのか。筆者の調べによると、共学化前から在籍している教員の一人は「大麻や特殊詐欺などの危険因子を遠ざけたかった」と指導の理由を明かしていたことが判明している。学園の経営コンサルタントは、同学園の生徒に対し、「新しい学校づくりにどんどん参加して、いろいろな意見を言って、充実した学校生活を作っていってもらいたいと思っています」と語っているが、現場の実態は逆である。

おそらく、経営の改善を図るため、目新しい自由な教育で入学者を募集したものの、現場の力量や人権感覚が追いついておらず、こうした混乱を招いてしまったのだろうと筆者は推測している。

後編【副理事長の恫喝で「保護者が過呼吸」に…Netflix『恋愛バトルロワイヤル』でも描かれた、閉鎖的な学校のヤバさ】では、学校という閉鎖環境で起こった事件についてさらに紹介する。

副理事長の恫喝で「保護者が過呼吸」に…Netflix『恋愛バトルロワイヤル』でも描かれた、閉鎖的な学校のヤバさ