●制作の話を聞いたときは疑問符だらけ「本当にできるの?」

1980年代にカリスマ的人気で女子プロレス旋風を巻き起こしたダンプ松本の知られざる物語を描くNetflixシリーズ『極悪女王』(9月19日より世界独占配信中)。ダンプはもちろん、因縁のライバルとして数々の名勝負を繰り広げた長与千種らの生き様も映し出される。長与は、女優たちの肉体改造を指導し、プロレスシーンの構成も担うプロレススーパーバイザーとして本作に参加。白石和彌総監督らとともに、当時の熱狂を蘇らせた。プロレスシーンの再現度の高さにも感嘆の声が上がっているが、長与も「昔の自分たちを見ているよう」と唸るほどで、プロレスラー役を演じたゆりやんレトリィバァ、唐田えりか、剛力彩芽らを「完全にプロレスラーだった」と称えている。



様々な代償や葛藤を抱えながら最恐ヒールに成り上がっていくダンプ松本を演じたのはゆりやんレトリィバァ。クラッシュ・ギャルズを結成し国民的アイドルレスラーへと駆け上がる長与千種とライオネス飛鳥を、唐田えりかと剛力彩芽がそれぞれ演じた。プロレスラー役はすべてオーディションで決定。約2年間にわたる肉体改造とプロレス練習によって当時のレスラーになりきり、プロレスシーンも見事に再現した。本作は、10月5日時点で16日間連続で日本の「今日のTOP10(シリーズ)」において1位を獲得し、さらには「Netflix週間TOP10(シリーズ)」でも2週連続1位を獲得している。

長与は、本作の制作の話を聞いた時、「どうやってやるんだろう?」と頭の中が疑問符だらけになったという。

「ダンプ松本さんが主人公で、そこにはクラッシュ・ギャルズ、長与千種が必ずいて、ひょっとしたら髪切りマッチも描くと言われた時は、どうやって撮るの? 誰がやるの? 本当にできる? どこまでガチなの? と疑問符だらけでした」

女優たちとの顔合わせの時は、「みんなかわいい女優さんなので、どこまでやればいいのかなと思いましたし、大丈夫かなという思いもありました」と不安を抱くも、そんな心配は無用だったと初期の段階で感じたという。

「プロレスから縁遠い女優さんたちでしたが、練習している中で顔つきがどんどん変わっていくんです。それを見て、この人たちと真剣勝負しなきゃいけないなと。そうしないとこっちがやられてしまうと、それぐらいの気迫を彼女たちから感じました」



○プロレスシーンも99.9%本人「役柄を超えて、まさしくプロレスラーだった」

長与は、プロレスラー役の女優たちを、リスペクトを持って「女前」と表現する。

「よく『男前』と言いますが、彼女たちは『女前の女たち』ということなのかなと。どんどん顔つきが変わって、飢えた目になっていき、プロレスラーの顔になっていきました」

そして、試合シーンでリングに上がった彼女たちは「完全にプロレスラーだった」と言い、「まさに女前。今までの人生で、本当に殴ってやろうという気持ちで人を殴ったり、殴られたりすることはなかったと思いますが、覚悟がしっかりと見えて、なおかつ、戦う目つきに」と振り返る。

プロレスシーンもほぼキャスト本人が演じており、長与は「99.9%彼女たちです。本当にプロレスラーになっていました」と証言。ここまで再現度が高い作品になるとは「思ってなかった」と言い、撮影を見ながら感動したという。

「みんながいろんな戦いをするんですけど、あまりの完成度の高さに、何度立ち上がって両手を天に向けて喜んだかわからないです。こんなこともできるようになったんだと驚かされました」





プロレスの技はそう簡単に習得できるものではないと長与は言う。

「プロレスラーとして入門して技ができるまで、けっこう時間がかかるんです。彼女たちは約2年間の練習でどんどん変わっていく瞬間があって、その極めつけが、撮影でリングに上がった時。女優ではなく、役柄を超えて、まさしくプロレスラーでした。野生の動物の目と同じような、戦う女の目をして、女前だよなと思いました」

●「『演じた』ではなく『リアルに戦ったよね』と言ってあげたい」



キャスト陣の肉体改造の努力も称える。

「みんな時間があったら何か口に入れたりしていて。ダイエットもしんどいですけど、ウエイトを上げるのは実はもっとしんどい。全然太れない子にしてみたら、苦痛でしかなくて、食べることも苦痛になってしまう。さらにみんなビルドアップして筋肉もつけて」

そして、本作はエンタメ作品ではあるものの、「戦う女の子たちのリアルなドキュメント」「戦った女の人たちの生き様」だと言い、「自分もこんなに寄り添ってやることはもう二度とできないですけど、役者さんたちも『もう二度とできない』と言っているので、精も魂も尽き果てるぐらいすべてを注いだのだと思います」とキャスト陣の奮闘を称える。

撮影を見ていて、当時の自分たちだと思う瞬間は何度もあったそうで、「彼女たちは本当に、ダンプ松本だったし、長与千種だったし、ライオネス飛鳥だった。私の中では申し分ないぐらい表現していただいた。『演じた』ではなく『リアルに戦ったよね』と言ってあげたい」と最高の賛辞を送った。

さらに、本作について「明日頑張ろうと思える物語」と述べ、「自分もそうでしたが、どの社会においても、女の子たちは強がっていかなきゃいけない時がある。本当は泣きたくても、泣くのを我慢して、今日を乗り切るという人たちがいっぱいいると思います。一生懸命努力してもなかなか会社に認めてもらえないとか。そういった社会の縮図を彼女たちが表現していて、女の子たちがいろんなものを背負ってリングに立ち、自分の中の頂点をつかんでいくドラマなので、登場人物ごとにいくつものストーリーがあるんです。それぞれの物語を楽しんで、何か一歩踏み出そうと思ってもらえたら」と語った。

■長与千種

1964年12月8日生まれ、長崎県出身。1980年に全日本女子プロレス興業(全女)でデビューし、1983年にライオネス飛鳥とクラッシュ・ギャルズを結成。男子プロレスの格闘技要素も取り入れて、空前の女子プロブームを巻き起こす。ヒール軍団・極悪同盟との死闘でファンを熱狂させたが、1989年に最初の引退。つかこうへい作・監督、演出工藤栄一の作品の主演映画『リング・リング・リング 涙のチャンピオンベルト』のプロモーションを兼ねて1993年、全女の創立25周年記念大会に特別出場。同年11月、JWPマットでフリーとして正式復帰。1994年にGAEA JAPANを設立し、看板選手として新人育成にも尽力し脅威の新人を輩出した。2005年に解散・引退。2016年にMarvelousを設立し、代表と運営、さらにプロデューサーとして活躍している。