石川祐希を同僚がハグ「ペルージャへようこそ!」 今季最初のタイトル&MVP獲得
ペルージャと日本は、およそ四半世紀前から"スポーツ"という絆によって深く結ばれている。ローマやパルマといったセリエAの名門クラブで活躍したサッカーの中田英寿は、1998年、まずペルージャからイタリアでのスタートをきった。そして今、ペルージャのバレーボールファンの熱い視線は、ある日本人選手に向かっている。パリオリンピック準々決勝でイタリアを震え上がらせた日本代表のキャプテン、石川祐希だ。
ペルージャは昨シーズン、スーパーカップ、イタリアカップ、チャンピオンシップ(リーグ)、クラブワールドカップの4つのタイトルを獲得したイタリア屈指の強豪だ。そんなチームにこの夏加入した石川だが、最初の公式戦であるスーパーカップで、早くもチームを優勝に導く立役者となった。ピアチェンツァとの準決勝(3−1)とトレンティーノとの決勝(3−2)の両方でマッチポイントを奪い、トレンティーノ戦ではチーム最多の20得点を挙げてMVPに選出された。
スーパーカップで優勝、MVPを獲得する活躍を見せた石川祐希(ペルージャ)photo by PA Images/AFLO
「初めてスーパーカップのトロフィーを手にできてとてもうれしい。これが、これから続く勝利のほんの手始めであってほしい」
試合後の彼はそう言っている。
スーパーカップはリーグ開始前の前哨戦という位置づけであり、ペルージャが戦うべきほかの大会に比べれば、重要度の低いタイトルではある。だが、新シーズンをこのようないい形でスタートできたのは、クラブにとっては非常に大事なことだ。
ペルージャは現在、ほかのイタリアのチームにとって破るべき目標であり、トップレベルの選手たちで構成されている。セッターにイタリア代表の司令塔でありキャプテンのシモーネ・ジャネッリ。3人のアウトサイドヒッターはポーランドのカミル・セメニウク、ウクライナのオレイ・プロトニツキ、そして石川。ミドルブロッカーにはイタリアのロベルト・ルッソとアルゼンチンのアウグスティン・ロセル、セバスティアン・ソレ。そしてリベロにはペルージャがこれまで獲得した14のタイトルすべてに関与しているベテラン、マッシモ・コラーチ......。
【ペルージャには「石川マニア」が】そのなかでも、石川がゆるぎない地位にあることを示すのが、彼に与えられた背番号だ。「背番号14」。これはペルージャにとっては特別なユニフォームである。なぜなら2013年から2021年まで8年間、ペルージャに所属していたセルビア人オポジット、アレクサンダル・アタナシエビッチがつけていた番号だからだ。多くの勝利をチームにもたらした彼は、ペルージャサポーターの英雄だった。
「アタナシエビッチがつけていた背番号14のユニフォームを着ることは、僕にとって名誉なことです。彼のように活躍しなければならないでしょう」
石川自身もその重要さを理解しているようだ。
プレーヤーとしての特性は異なるものの、サポーターはアタナシエビッチと同じカリスマ性を石川に見出している。ペルージャの街にはすでに「石川マニア」が大量発生している。スーパーカップが行なわれたフィレンツェのグッズ売り場でも、石川の名前が日本語で書かれシャツが飛ぶように売れていた。
クラブ史上14個目のトロフィーとなるスーパーカップ優勝に歓喜しながら、ペルージャのジーノ・シルチ会長はマイクに向かって叫んだ。
「ユウキは本当に偉大な選手だ!」
勝利の美酒にしばし酔いしれたあとは、本格的なシーズンが待っている。2024−25シーズンのスーペルレーガは9月29日から始まる。リーグは12チームで構成。3月までホーム&アウェー形式でレギュラーシーズンが行なわれ、その後、上位8チームによるトーナメント形式のプレーオフが行なわれる。
ディフェンディングチャンピオンであるペルージャの一番のライバルは、昨シーズン3位のトレンティーノだろう。ダニエレ・ラヴィア、アレッサンドロ・ミキエレット、リッカルド・スベルトリ、ガブリエレ・ラウレンザーノといったイタリア代表選手たちに加え、ブラジルのフラビオ、スロベニアのヤン・コザメルニクといった強敵が揃っている。そのほかに気をつけなければいけないチームはヴェローナ、チヴィタノーヴァ、モンツァあたりだろう。
【監督が語るタイトルを懸けた戦いの重要性】「ペルージャに来たのは、とにかく優勝したかったからで、幸いにもそのチャンスはすぐに訪れました。でも今は頭をリーグ戦に切り替え、初戦のヴェローナ戦に集中する必要があります」
スーパーカップでMVPを受賞後、石川はこうコメントした。
石川は新シーズンをアンジェロ・ロレンツェッティ監督のもとで戦う。彼は石川がイタリアで初めて所属したモデナ時代の監督であり、今回、獲得を強く望んだ張本人である。スーパーカップの決勝戦では、最初の2セットで石川がブロックに阻まれていた時、何度も叫んで彼を励まし続けていた。
「落ち着いて、自分のプレーをしなさい!」
「ユニフォームにはそれぞれの重さがある。なかでもペルージャのユニフォームはかなり重く、それをまとうのは簡単なことではない。何よりも大事なことは、仲間たちの信頼を得られるようなプレーをすることだ。そしてまず、彼はそれに成功した」
ロレンツェッティ監督は試合後に語っている。
「ここ数年、石川はミラノで大きく成長してきたが、おそらく、こうしたタイトルを懸けた戦いの経験は足りなかったのだと思う。そのため、この試合も決して最高の形でスタートしたわけではなかったが、最後は粘り勝ちした」
石川がこれまでイタリアで手に入れたタイトルはふたつ。2014−15シーズンのモデナで手に入れたコッパ・イタリア(ただし、この時はまだ主力ではなかった)、そして2020−21シーズンにミラノで優勝したチャレンジカップ(欧州で3番目に重要なカップ戦)だ。
今、石川は新たな旅に乗り出した。今季のペルージャにはチャンピオンズリーグもある。多くの勝利を重ねてきたペルージャにとって、チャンピオンズリーグは唯一、手にしたことのないタイトルだ。
「まずはスーパーカップを勝ち取った。あとは今後、何ができるかです」
試合後のインタビューを、石川はこう締めくくっている。すでにチームにうまく溶け込んでいるようだ。スーパーカップの勝利が決まった直後、同僚のプロトニツキは彼をハグして、こう言った。
「ペルージャへようこそ!」