9月25日、2024−25シーズンのヨーロッパリーグ(EL)が新たな方式で開幕した。

 久保建英を擁するレアル・ソシエダ(以下ラ・レアル)は、フランスのニースと敵地で対戦し、1−1と引き分けている。アンデル・バレネチェアの思いきりのいいミドルシュートで先制したが、前半終了間際に追いつかれてしまう。後半開始直後にはPKを与えて絶体絶命のピンチだったが、GKアレックス・レミーロが救った形だ。

 久保はベンチ入りしたが、出場はしていない。週末のラ・リーガでは先発出場しており、次のラ・リーガに向けたターンオーバーだろう。敵地で勝ち点1は悪くなかった......。ただ久保の起用法ひとつに、新たなELを戦う"難しさ"が見えた。


ヨーロッパリーグ初戦ニース戦にベンチ入りしたものの不出場に終わった久保建英 photo by Nakashima Daisuke

 今シーズンのELは、チャンピオンズリーグ(CL)の大会方式が大改革されたのに合わせて、大きく方式が変わっている。参加36チームを4つに分けたうえで、各チームが8試合のグループフェーズを戦った後、36チーム中、(勝ち点の)上位8位までが決勝ラウンドに進出。そして残りの9位から24位がノックアウトフェーズ(プレーオフ)を戦って8チームが勝ち上がり、ラウンド16、準々決勝、準決勝、決勝と戦う。

 なんともわかりにくいシステムだが、すべては「試合数を増やすため」という商業的な理由によるものだ。

 ラ・レアルは最低でもグループフェーズ8試合を戦う。もし決勝に進んだら最大プラス7試合(ベスト16から準決勝まではホーム&アウェー方式)。ノックアウトフェーズに回った場合は、さらに2試合が追加される。これまでは欧州カップ戦に出場しても、12月中旬から2月上旬までは試合がなかったが、この方式では切れ目がなくなる。

 ラ・レアルのような中堅クラブだと、戦力のやりくりだけで相当に厳しくなる。

 かつて、ラ・レアルはCLにシフトしたことで、痛い目に遭った過去がある。当時は「CLシンドローム」と言われて欧州中で問題になったのだが、ラ・レアルも(同規模のクラブが一様に苛まれたように)2003−04シーズンにCLに出場すると、その後はすりきれてしまったかのように著しくパワーダウンした。結果、2007−08シーズンから3シーズンにわたって2部で過ごすことになった。

【ヨーロッパリーグにかけるクラブも】

 CLだけでなく、ELも負担は重い。ELに出場した2014−15シーズン、ラ・レアルは1部で12位と不振を極めた。その次に出場した2017−18シーズンも12位だった。

「ヨーロッパカップ戦は毒にもなる」

 欧州では、そう言われて久しい。今回の方式のように試合数が大きく増えたことで、毒は量を増した格好だ。

「なんで久保を出さない?」

 ニース戦の起用法に、日本のファンは怒るかもしれない。しかし、ラ・レアルのようなクラブは、ビッグクラブのような選手層の分厚さは望めない。選手という有限なエネルギーをうまく使うことが求められる。コンディションが良好ではない選手を使って大ケガでもさせたら、それこそ批判を浴びるだろう。

 ラ・レアルは、ラ・リーガで現在16位と低迷している。チームは窮地にあって、久保の力が必要になる。ラ・リーガとELを天秤にかけた場合、前者のほうが重要なのだ。

 その優先順位は、マンチェスター・ユナイテッドのようなビッグクラブも、少し違う理由ではあるが、同じだろう。マンUの伝統や歴史を考えたら、ELで優勝してもファンを満足させることはできない。プレミアリーグでCL出場権を確保することのほうがプライオリティは高いし、CLで競ってこそのビッグクラブなのだ。

 このあたりにELという大会の"難しさ"はある。CLほどの興行的な利益は見込めないにもかかわらず、中堅規模のクラブにとっては消耗のリスクがある。また、ビッグクラブにとっては、過酷な割にリターンが少ない。過去最多7回のEL優勝を誇るセビージャ(2番目がインテル、リバプール、ユベントス、アトレティコ・マドリードの3回だが、アトレティコ以外はほとんどが前身のUEFAカップ時代)は、"着地点"を見つけるのが神業的にうまかったクラブと言えるかもしれない。

 一方、それぞれの事情でELにかけるチームもある。今シーズンは、ラ・レアルの本拠地の隣町にあるアスレティック・ビルバオが本気で挑むことになるだろう。なぜなら、今シーズンのEL決勝が、彼らのホームスタジアムであるサン・マメスで行なわれるからだ。

 アスレティックは現在、CLで戦っていても遜色ない戦力を誇る。ユーロ2024で大車輪の活躍だったニコ・ウィリアムズを擁し、兄のイニャキ・ウィリアムズとのパワースピード全開のコンビは見ものだろう。ユーロ2024優勝のスペイン代表守護神ウナイ・シモンは現在ケガで不在だが、センターバックのダニエル・ビビアンもユーロで堅実なプレーを見せた。オイハン・サンセト(ケガで離脱中)はバスクが生んだファンタジスタだ。

 初戦のローマ戦(現地時間26日)は、決勝で相見えてもおかしくはないカードと言える。

 伏兵は、ジョゼ・モウリーニョ監督が率いるトルコのフェネルバフチェだろう。39歳のエディン・ジェコ(ボスニア・ヘルツェゴヴィナ)、35歳のドゥシャン・タディッチ(セルビア)など老練な名手を擁する。はたして、名将モウリーニョの神通力は健在か。

 消耗感が増したELの新方式だが、独特の"難しさ"を制して生き残ったものが王者になる。