28歳「貯金ゼロ」の男性が「スポットワーク」の居酒屋バイトでまさかの大ケガ…「治療費」はどうする?

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あいた時間に数時間、単発で働く「スポットワーク」。多くの場合、仲介会社が運営するスマホアプリで利用者と企業がマッチングすれば、履歴書や選考なしに働ける。その利便性から利用者は拡大しているが、それに伴い利用者と企業とのトラブルも目立つようになった。

前編記事〈28歳「貯金ゼロ」の男性が青ざめた…「スポットワーク」で居酒屋バイトを始めるも「まさかのトラブル」が発生〉では、転職先の給料が入るまでの生活費稼ぎにスポットワークで居酒屋バイトを始めたA谷さん(28歳、仮名=以下同)が、店内の掃除中に焼酎のボトルが入った段ボール箱につまずいて大ケガをした事例を紹介した。仕事をしていた居酒屋「乙」の店長・C田さんは、直接雇ったバイトでもないA谷さんには労災は発生しないと言い張るのだが……。

本稿では引き続き、スポットワークと他の類似した働き方との違い、企業がスポットワーカーを受け入れる際の注意点、気になるA谷さんのその後などについて見ていこう。

スポットワークはどのくらい利用されているのか?

スポットワークとは短時間、単発で働く働き方のことで、別名「スキマバイト」「雇用型ギグワーク」とも言われる。働き手や仕事先を探すには、スポットワークを仲介する会社(「タイミー」など)に登録後、企業は求人情報、求職者は自らの情報を仲介会社が運営するプラットフォームに入力する。そのデータに基づき、企業と求職者のマッチングが成立すれば、「履歴書を用意する」「面接を受ける」といった手間なく、簡単に仕事を始めることができる。

このシステムは学生や休日などを利用して副業したい社会人などに広く利用され、繁忙期やシフト欠員などで生じる人手不足を解消したい企業側のニーズも取り込んでいる。

スポットワークの仲介企業で構成する一般社団法人スポットワーク協会によると、2024年5月末時点でのスポットワーク登録者数は約2200万人。前年3月末時点の登録者数は約990万人なので、1年余りで倍以上も増えている。

また、企業側から見ると、2024年3月の新規求人数は8万3015件で、こちらも前年同月と比較して約18%増えている。(出典:ツナグ働き方研究所)求人の内訳は、コンビニスタッフ、倉庫内の軽作業、飲食店の接客業務やフードデリバリー、イベント会社の設営や撤去など多岐にわたるが、特に人手不足が深刻な業界の募集が多い。

スポットワークに類似した働き方との違い

(1)パート・アルバイト社員とスポットワーカーとの違い

会社が直接雇用するパート、アルバイトとの違いは、その働き方にある。パートなどの場合、1か月単位など会社が決めた期間内でシフトが組まれ、その計画に基づいて勤務することが多い。スポットワークは、例えば「今日は時間があるから、バイトでお小遣い稼ぎでもしよう」と思ったときに単発、短時間でも働けるし、企業と継続した雇用関係はなく、毎回違う会社で働くのも自由である。

(2)日雇い派遣

日雇い派遣(スポット派遣)とは、1日単位で各現場に派遣される派遣労働のことで、特に倉庫内軽作業や工場内作業といった、物流関連、製造関連の仕事に多い。

利用するには派遣会社への登録が必要で、働き手は派遣社員として仕事にあたるので、給料は派遣会社から支給され、勤務先との雇用契約は結ばない。なお、日雇い派遣の場合、派遣可能な業種や登録可能者に一定の制限がある。

(3)ギグワーク

ギグワークとは、企業などと雇用契約を結ばず業務委託として仕事を請け負うことをいい、おもに専門的なスキルが必要な職業(ライター、Webデザイナー、システムエンジニア、カメラマンなど)のフリーランサーがこの形態を取ることが多い。

スポットワーカーは労働者か?

パート、アルバイトの場合、使用者(企業・個人事業主など)と雇用契約を結び従業員として働くので、働く場所が指定され、仕事の進め方など就業先の指揮命令に従う必要がある分、労働基準法の適用を受ける。

労働基準法とは労働者を守るための法律で、労働条件通知書(雇用契約書と兼用する場合が多い)の交付、一定の条件で契約する場合は、仕事の途中で休憩時間を取らせること、法定労働時間以上の残業や深夜労働などを行った場合は割増賃金を支払うなどの義務がある。また、仕事中や通勤途中でケガをした場合は労災の給付対象であることや、給料は最低賃金以上であること、業務指導はきちんと行うことなども必要になる。

対してギグワークの場合、企業などとは雇用関係がないので労働基準法や最低賃金の適用は受けない。委託先から指定されるのは納期と仕事内容くらいで、仕事の進め方などはギグワーカーの裁量権が大きい。

スポットワーカーは殆どの場合、仕事内容が就業先の指揮命令に従う業務であり(要するに勤務先の正社員やパート・アルバイトと同様の業務に携わる)、働く場所や仕事の段取りなどを自己裁量で決めることはほぼないだろう。従って企業等はたとえスポットワーカーを受け入れに継続性がなく、1日のみの場合でも雇用契約を結び、労働者として扱うことになる。

スポットワーカーに対して「労働条件通知書を交付しない」「仕事中にけがをしても労災扱いしない」「仕事内容や労働時間、給与などが事前情報と違う」「業務指導や教育、現場での指示が不十分だった」等の場合、ケースによっては労働基準法や関係諸法令違反になるので注意したい。

また、契約に関しては企業などがスポットワーカーと業務委託契約を取り交わしていた場合でも、就労実態が労働者である場合は、契約内容に関係なく労働者扱いになることや、スポットワークの仲介会社は企業などとスポットワーカーの橋渡しをするだけであり、スポットワーカと雇用契約を結んでいないことにも留意したい。

労災は労働者でも申請できる

労災保険(労災)は仕事中や通勤中の事故でけがをした場合などに、申請をすることで労働者や遺族などに保障を行う制度であるが、労災申請を行う際は会社(事業主)の同意や承認が必要だと思っている会社や労働者が多い。また、労働者が仕事中のケガを会社に報告しても、労災隠し等を理由に利用を拒否されるケースもある。

労災を申請するには、労災の請求者(労働者又はその遺族)が、被災労働者の勤務先を管轄する労働基準監督署長宛に、労災の請求書や添付書類を提出する。会社が手続きを行う場合も多いが、請求人である労働者の手続きを代行しているだけであり、会社は労災の請求者ではない。労災申請を行うにあたり、会社の同意や承認は絶対条件ではなく、仮に会社が申請書の事業主証明欄への記入を拒否する場合には、その旨を労働基準監督署に説明すれば良い。

会社は法律上、事業主証明欄の記載に関して協力する義務を負っており、拒否することはできないとされる。(労働者災害補償保険法施行規則23条2項)労災扱いにするか否かの決定権は労働基準監督署にあり、会社や労働者が勝手に判断できるものではない。

スポットワーカーを自社の従業員にできるか?

企業が優秀なスポットワーカーを自社の正社員やアルバイト、パートとして雇用したい場合、スポットワーカーが同意すれば仲介会社に断りなく自社の従業員にすることは可能であり、人材確保の面でのメリットは高い。

ただし、自分の都合を優先できるような柔軟性が高い職場で働くことを希望するスポットワーカーも多く、事前にシフトを組まれたり、勤務日や勤務時間が増えるような働き方を好まないケースも多い。

乙店の問題点

甲社は企業と求職者をつなぐ場を提供しているだけなので、乙店の場合直接A谷さんと雇用契約を結ぶことになる。雇用契約は口頭でも成立するため、C田さんから勤務時間等の指示を受けて働くA谷さんは、すでに雇用契約があるとみなされる。従って労働条件通知書(兼雇用契約書)を交付しあらかじめ労働時間を決めること、1日で6時間超働く場合は休憩時間を与えることが必要であったし、ケガをしたA谷さんの労災申請に協力すること、1日で8時間以上働いたり、22時から翌日5時までの深夜労働をしている時間帯は、割増賃金を支払う必要がある。

また、C田さんはA谷さんの立場をよく理解していなかったようだが、甲社を利用する際に、利用規約などでスポットワーカーの立場をよく確認する必要があっただろう。

A谷さんのその後

9月に入り、松葉杖をつきながら転職先に出社したA谷さんは、D杉さん(管理課長でA谷さんの上司)からケガの理由を聞かれたので、乙店でバイト中に負傷したことと、治療費を払ってもらえないことを正直に話した。するとD杉さんは不思議そうな顔をした。

「ウチの会社には物流センターがあって、バイトのシフトが回らなくなったときスポットワーカーをお願いしてるけど、彼らが仕事中にケガをしたらちゃんと労災申請をしているよ。だからA谷さんの場合も労災が使えるはずだけど……」

「でも、店長が認めてくれなければ手続きができません」

「大丈夫。君が直接労働基準監督署に行っても手続きできるよ。総務課に行けば申請書類があるからそれをもらって、書き方とかは労災申請担当のメンバーに教えてもらえばいい」

D杉さんはA谷さんを総務課に連れていき、担当者に引き継いだ。

「病院通いはしばらく続くし、治療費のことが心配だったけどこれで安心だ」

A谷さんは心の底からほっとした。

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