「あんたなんか産まなきゃよかった」両親からの暴言と暴力に悩まされ、17歳の時に家出…「心理的虐待」サバイバーの漫画家が明かす「壮絶な半生」

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現在、日本の児童相談所への相談件数の約6割を占めるのは、身体的虐待や性的虐待ではなく、「心理的虐待」である。子供に対しての暴言や拒絶的な対応などがこれにあたるが、「しつけ」と混同されやすく、気付かぬうちに子供の心や脳を傷つけてしまっている可能性があるという。新刊『心理的虐待〜子どもの心を殺す親たち〜』では、そのような「心理的虐待」のサバイバーたちの話を紹介している。漫画家の渡辺河童さんもその一人だ。

※『心理的虐待〜子どもの心を殺す親たち〜』(扶桑社)より一部抜粋して紹介する。

「あんたなんか産まなきゃよかった」

物心ついた頃から両親に言葉と暴力の虐待を受けていた渡辺さん。母親からは 「あんたなんか産まなきゃよかった」「あんたのような××××はうちの子じゃない」、父親からは「お前は馬鹿か」「お前の頭は帽子の土台か」など、人格否定をされる言葉を投げつけられていたという。それに対し渡辺さんは「はい、ごめんなさい」と答えていた。

暴言だけではない。小さい頃から絵を描くのが好きで、図画工作の時間に絵が上手に描けたとき、多くの子どもがそうするように、得意げに親に見せたことがあるという。

しかし、親から返ってきたのは、「褒めてほしいわけ?」という素っ気ない返事だけだったという。

「自分が虐待を受けていることに気づいたのは、小学校低学年のときです。今まで親がひどい言葉を子どもに言うのは普通だと思っていたのですが、小3のとき友達の家に遊びに行ったら、その友達のお母さんがすごく優しくて、自分の親はおかしいのだと初めて気づきました」

もちろん、渡辺さんのご両親も、機嫌がいいとモノを買ってくれた。だが、暴言をぶつけられるときとのギャップのせいか、渡辺さんはいつしか親の顔色をうかがい、買い物の際は荷物を持ってあげ、自分ができることを、とにかくやるようになっていたという。

将来の夢を否定されて…

家は商売をやっていたため、両親が家にいる時間は短く、いわゆる「鍵っ子」だった。

「ある日、風邪で学校を休み、一人で家で寝ていたら、隣の席の女子がお見舞いに来て、少女漫画雑誌の『りぼん』を持ってきてくれたんです。当時は少女漫画を理解できなかったのですが、漫画っておもしろいなと思い、父親の機嫌がいいときに『漫画を買ってください』とお願いしたことがあります。

すると、『ブラックジャック』の6巻を買ってきてくれました。読んだら夢中になってしまって。これが僕が 漫画家になりたいと思ったきっかけです。でも、親に『将来は漫画家になりたい』と言うと『そんなヤクザな仕事はやめなさい』と言われました」

また、渡辺さんはFtX(生物学的には女性として生まれたが性自認が男性にも女性にも当てはまらない)のXジェンダー当事者でもある。

渡辺さんは、小学校3年生の頃から女性である自分の生物学的性に違和感を抱き始めた。このくらいの年齢から男子は男子で、女子は女子で遊び始める。男子はサッカー、女子はゴム跳びをして遊んでいる中、渡辺さんはどちらにも入れず、「オトコオンナ」と言われていじめを受け始めた。

17歳のときに、親から逃げて一人暮らし

中学に入ると制服でスカートを履かないといけないのが苦痛だった。高校に入ると、もうスカートが我慢できなくなりジャージで登校するようになったという。

「でも、いつもジャージ姿でいる僕を見かねた理解のある先生が、あるとき学ランをプレゼントしてくれたんです。当時はまだLGBTQなんて言葉はなかったのに僕が男になりたいことを気遣ってくれてすごく嬉しくて、それからは毎日学ランを着て登校しました。

高校在学中は漫画を描くための画材を買いたくて、バイトも始めました。でも、親にはせっかく働いて買った画材を捨てられました。Gペンなんて、ポッキリ折られました。画材だけじゃありません。お気に入りのレコードも真っ二つに割られていました。また新たな画材を買って隠しても探し出されて捨てられていました」

家にいると好きな漫画を自由に描けない。そんな思いから中高生の頃から家を遠ざけ始め、友達の家に外泊することが増えた。そして、 17歳になると、家を出て一人暮らしを始めたという。家賃は3万円で風呂・トイレは共同。当時は審査なども緩く、保証人の書類に自分で親のサインを書いて、「親にサインをもらいました」 と不動産屋に提出すると、すぐに新居に入れた。

渡辺さんの漫画関係のものをすぐに捨てるわりには無関心なところもあり、親は渡辺さんが家を出ていく準備を着々と進めていたことにも気づかず、引っ越してからも特に連れ戻しに来ることもなかったという。一人暮らしをしてようやく親から解放されて自由になれた。

親元を離れることができた渡辺さんだったが、幼いころの「心理的虐待」を受けていた経験が、その後の人生にも影響を及ぼすことになってしまう。つづく記事「「君のお母さんは…」はじめて明らかになった、母親が暴言を吐きつづける理由…日常的な「心理的虐待」が子どもの人生に及ぼす「甚大な影響」」では、うつ病になり自殺未遂までしてしまう渡辺さんのその後の体験談を紹介する。

「君のお母さんは…」はじめて明らかになった、母親が暴言を吐きつづける理由…日常的な「心理的虐待」が子どもの人生に及ぼす「甚大な影響」