米アマゾンが「週5日」出勤を義務化…!フリー・アドレス制も廃止するビッグテックの「本当の狙い」

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業績好調の今、なぜ?

米国ビッグテックの一角をなすアマゾン(・コム)のアンディ・ジャシーCEOが先週16日、社内向けの通達を公開した。その中でオフィス勤務の従業員に対して(2025年1月2日から)週5日の出勤を義務化した。

アマゾンは2020年3月に新型コロナのパンデミック(感染爆発)が始まると同時にいち早く在宅勤務にシフトし、それに他の大手企業も追随するなど時代の趨勢を先取りしてきた。それだけに今回、同社が逆にパンデミック以前の勤務形態に戻したことは、他の大手企業をはじめ米国の産業界全体に同様の動きが広がる前触れとの見方もある。

米国メディアの報道によれば、こうしたトップの突然の経営判断に対し、同社の従業員からは困惑の声が聞かれるという。同社の2023年の営業利益(operating income)は約369億ドル(5兆4000億円以上)を記録したが、これは前年の122億ドルから約200パーセント増という驚異的な業績である。また同時期にアマゾンの株価は約80パーセントも上昇した。

今年に入ってもその勢いは衰える気配がなく、2024年第2四半期の営業利益は約147億ドル(2兆1000億円以上)と前年同期の約77億ドルから約90パーセント増である。ちなみに、これらの事業成績は米国内だけではなく、日本なども含めた世界全体での集計結果である。

2023年から現在に至るまで、アマゾンはオフィスと在宅勤務のいわゆる「ハイブリッド・ワーク」制を敷いてきた。それによって利益も株価も絶好調の成績を上げているのに、なぜ今、あえて週5日のオフィスワークという昔の就労形態に戻す必要があるのか?―― こうした疑問と不満が従業員の間からは噴出しているようだ。

極めて抽象的な恩恵

今回、週5日出勤への回帰を決めた理由について、アマゾンのジャシーCEOは(冒頭の通達の中で)次のように述べている。

「何らかの理由があるとすれば、それは我々が今から15ヵ月前に導入した(最低でも)週3日出勤によって、オフィスワークがもたらす恩恵(benefit)に関する我々の確信が深まったからだ。我々が観察したところでは、(オフィスワークによって)チームメートが我社の文化を学んで強化することが容易になった。

また共同作業やブレインストーミング、発明などがよりシンプルで効果的になった。さらに互いに教え、学び合うことが円滑に行えるようになり、互いの結びつきが強くなったことも確かめられた」

ちなみに「今から15ヵ月前」というのは2023年5月のことだが、それまで同社はオフィスワーカーに対し原則的に在宅勤務を求めていた。これに対し2023年5月からは、最低でも週3日の出勤を義務づけたが、それによって(前述の)「オフィスワークのもたらす恩恵」が確かめられた、と言うのである。

しかし、その恩恵が何たるかは極めて抽象的である。たとえば「チームメートが我社の文化を学んで強化することが容易になった。また共同作業やブレインストーミング、発明などがよりシンプルで効果的になった」という記述にしても、それらの指標となる数値が具体的に何パーセント増加した等の客観的な裏付けが見られない。

言わば「単なる精神論」に近いことから説得力に欠けるのである。この点もアマゾン従業員の不興を買う理由となっているようだ。

本当の狙いは人員削減か

このためアマゾン従業員の間では「(週5日出勤を義務化した)本当の理由は何か別のところにあるのではないか」という疑念が生じている。真の狙いは「肥大化した組織のスリム化」つまり「事実上のレイオフ(人員削減)」ではないかというのだ。

2020年3月以降、いわゆるコロナ需要の高まりによって消費社会におけるEコマースの売上は急増した。これに対応するためアマゾンは雇用を大幅に拡大したが、その結果今ではオフィス勤務社員が約35万人、これに配送センターの従業員なども加えた総従業員数は約150万人にまで膨れ上がった。コロナ需要が過ぎ去った今、この肥大化した組織をスリム化する必要に迫られているというのだ。

コロナ需要が盛んな頃にアマゾンに入社した従業員の中には、最初から在宅勤務を前提に入社した人たちも少なくなかった。彼らは本来、自宅がアマゾン社屋から遠い場所にあったり、今がちょうど子育ての真っ最中であったりと、在宅勤務以外の働き方(つまりオフィスワーク)がそもそも無理あるいは極めて困難な人達であった。

彼らは今後、アマゾンが週5日の出勤を義務付ければ必然的に同社を辞めざるを得なくなる。具体的な人数は定かではないが相当数に上ると見られることから、アマゾンとしては公式にレイオフを実施せずとも従業員の方から自主的に辞めてくれるし、退職手当なども出さずに済むので助かるというわけだ。

超巨大企業をスタートアップのように運営

こうした穿った見方に対し、アマゾン側では「(ジャシーCEOが出した通達に関する周囲の)いかなる推測も間違っている。我が社は従業員の総数を削減する計画はない」と述べて、(前述の)皮肉な見方を全面否定している。

同社によれば、今回の決定はむしろ企業文化の強化が目的であるという。実際、(冒頭の)ジャシーCEOによる社内通達の題名は「我々の文化とチームを強化する(Strengthening our culture and teams)」となっている。

その中で同CEOは「我々は(アマゾンを)世界最大のスタートアップ企業のように運営したい」と述べている。(前述のように)オフィスワーカーだけで約35万人、配送センター従業員なども含めて約150万人もの人員を抱える超巨大企業のアマゾンともなれば、普通なら組織が官僚化して「業務の非効率化」や「意思決定の遅延」など各種の弊害が発生する。

しかしジャシーCEOはそれら官僚化の弊害を極力排して、アマゾン創業当時のようにシンプルな経営に戻したい。そのために週5日出勤の義務化など就労規則の変更が必要というのである。これは前回の記事で紹介した「創業者モード」に通ずるところがあり、今、こうした経営改革が米国の企業関係者の間で共通の関心事項となっていることが伺える。

同じ通達の中でジャシーCEOはまた、組織の官僚化による弊害を打破するために「お役所仕事メールボックス(Bureaucracy Mailbox)」と呼ばれる制度を設けたことを明らかにした。

その中で同CEOは従業員に「もしも貴方が(アマゾン社内に)不必要な作業や過剰なプロセスなどの(お役所仕事のような)事例を見かけたら、遠慮なくメールで通報してください。私がそれらのメールを直接読んで対策を実施し、それらの弊害を打破します」と呼びかけている。

また2025年1月に週5日出勤が開始されると同時に、オフィスワーカーの仕事机はいわゆるフリー・アドレス制(agile desk arrangement)を廃して、(コロナ禍以前の)各従業員に割り当てられた固定デスク制度(assigned desk arrangement)に戻す予定という。

以上のような勤務制度変更は、総勢100万人以上に上るアマゾンの配送センター(倉庫)従業員らへの配慮を反映したものとも見られている。コロナ禍の最中にあっても毎日出勤を強いられた倉庫従業員らとの公平性を保つためにも、オフィスワーカーだけが何時(いつ)までも在宅勤務を継続するわけにはいかない、ということだろう。

アマゾンでは週5日出勤が復活する来年1月からは、オフィスワーカーが入館ゲートを通過する際にスライドさせる社員証でその出勤をチェックする予定だ。もちろん、自宅が会社から極めて遠い場所にあるなど、一部社員の置かれた状況には配慮する。

それらの社員が新しい勤務制度に適応できるように、あえて今すぐではなく来年の1月から新制度を施行することにしたという。つまり会社としては、十分な準備期間を用意したという意味であろう。

周囲の企業は様子見

一方、グーグルやメタ(旧フェイスブック)などビッグテックをはじめ米国の巨大企業は、今回のアマゾンの動きを興味津々で眺めている。これら大手企業の多くは現在、基本的にハイブリッド・ワーク制を敷いており、その中で週に2〜3日の出社を従業員に求めている。

しかし従業員の多くが在宅勤務を選ぶことによって、広いオフィス・スペースの大半が使用されないなど不動産コストの浪費が気になる中、内心ではコロナ禍以前の(週5日出勤という)勤務制度に戻したいと考えている大手企業の経営者は少なくないと見られている。

ただ、多くの企業では、それを実行に移すまでには至っていない。確かに米国の大手企業の中には、配送・物流大手のUPSや金融のゴールドマンサックスなど、アマゾンに先立って週5日出勤に戻したところもあるが、これらは未だ例外的なケースである。むしろ雇用調査会社によれば、米国で週5日勤務の企業数は1年前よりも15パーセント減少したという。

その一方で米国の雇用環境は最近悪化しており、企業側から見て買い手市場(つまり労働者側には不利な情勢)となっている。仮にアマゾンの試みが今後成功すれば、その後を追って週5日出勤へと戻る大手企業が増加する事も十分あり得る。

また今回のジャシーCEOの通達には日本をはじめ諸外国に関する言及はないが、アマゾンはグローバル企業であるだけに、原則的には世界全体の従業員に適用されると見られる。

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