28歳「貯金ゼロ」の男性が青ざめた…「スポットワーク」で居酒屋バイトを始めるも「まさかのトラブル」が発生

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あいた時間に数時間、単発で働く「スポットワーク」。多くの場合、仲介会社が運営するスマホアプリで利用者と企業がマッチングすれば、履歴書や選考なしに働ける。

その利便性から利用者は拡大しているが、それに伴い利用者と企業とのトラブルも目立つようになった。本稿ではスポットワークでどのようなトラブルが起こりうるのか、事例をもとに社会保険労務士の木村政美氏が解説していく。

金欠を解消するために、スポットワークを開始

A谷さん(28歳、仮名=以下同)は、大学卒業後機械メーカーで商品管理の仕事をしていたが今年7月末で退職し、9月から新しい会社に勤めることになった。

8月上旬の日曜日、A谷さんは大学時代の友人であるB上さん(28歳)と3年振りに会い、待ち合わせ場所の近所にある居酒屋に入った。

生ビールで乾杯の後、B上さんが尋ねた。

「A谷君、相変わらず仕事忙しいの?」

「会社ね、残業ばっかりだから嫌になって、とうとう先月辞めたよ」

「それで新しい会社は見つかったの?」

「うん。9月から行くことになってる。でもひとつ困ったことがあって……。しばらくは辞めた会社の給料で何とか生活できるけど、そのあとが金欠。新しい会社の給料日が末締め翌月25日払いだから、10月25日まで何とか凌がないといけない。退職金は出なかったし、ボーナスもクレジットの支払いで全部パア。貯金ゼロの俺、どうしたらいい?」

悩むA谷さんに、B上さんは「それならアルバイトしたらいいじゃん」とこともなげに言った。

「でも、9月からはまた会社勤めだし、どうせ通えなくなるんだから無理じゃね?」

「大丈夫。1日からでも働けるよ。俺、会社が休みで暇なときにいろんなところでバイトしてるんだ。前日までに希望をすればすぐにバイト先は見つかるし、短時間でもOK。何なら俺が利用している会社を教えてやるから登録してみたら?」

「登録ってすぐできるの?」

「簡単だよ。履歴書も面接もいらないし、早ければ明日から働けるかもよ」

その日の夜、A谷さんはB上さんから教えてもらったスポットワークの仲介会社である甲社に登録し、

「自宅から歩いて行ける場所がいいな」

などと希望条件を入力すると、多くの該当求人があった。

その中からA谷さんの目に留まったのは、自宅から徒歩10分の距離にある居酒屋「乙」のアルバイト求人だった。

8月10日〜2週間限定。居酒屋のホール、洗い場担当募集。時間:16時〜23時

時給:1,500円〜 曜日は相談で決定

「確か半年前に友達と飲みに行った店だ。値段は安いしおつまみが美味しくて、店長さんも気さくで感じが良かったなあ。ここなら通うのも楽だし、大学の時居酒屋でバイトしたこともあるから気軽に働けるぞ」

と思い、すぐに応募した。1時間後、店側からOKが出て翌日から働くことになった。

コロコロ変わる勤務時間に予定が立たない

翌日。16時に店に入ったA谷さんは、オーナー兼店長のC田さん(40歳)から、

「いやーっ、頼りにしていたバイトの子が急きょ2週間休むことなってね。人手が足りずあわてて甲社に登録したけど、本当に来てくれて助かったよ。それに居酒屋でのバイト経験ありとは頼もしい。ウチの店、忙しいから毎日来ても大歓迎。仕事は接客と洗い場をよろしくね」

と言われ、簡単な仕事の説明を受けた。

この日は17時の開店と同時に客が入りはじめ、22時の閉店時間までほぼ満席状態だったが、A谷さんは洗い場担当だったので、難なく仕事は終わり、23時に店を出るときにはC田さんから時給1500円×7時間分の給料10,500円を渡された。

「バイトは2週間だけだし、後々の生活費を稼ぐため毎日がんばるぞ」

やる気満々のA谷さんだったが、翌日出勤すると、店の前で掃除をしていたC田さんから

「今日はバイトが足りているから帰っていいよ」

と言われた。A谷さんは、

「確か昨日は、毎日来てほしいって話でしたよね?」

と確認したが、C田さんはその言葉を無視し、料理の仕込みのため厨房に入ってしまったので仕方なく店を後にした。かと思えば当日の朝、突然電話で、

「今日は急に宴会が入って準備が必要だから12時に出てきて」

などと呼び出され、11時間ぶっ通しで働かされたりもした。

毎日のようにコロコロと変わる勤務時間に困ったA谷さんは、

「これじゃ予定が立てられないので、せめて前の日までに言ってください」

とC田さんに頼んだがこれも無視された。A谷さんはここを辞めて他のバイト先を探そうとも考えたが、もともと8月中しか働けないので我慢して続けることにした。

店内の掃除をしてたら「まさかのトラブル」

しかしA谷さんがバイトを始めて10日目。思いもよらないことが起こった。

店の営業前に店内の掃除をしていたとき、ホールの隅に山済みされていた焼酎のボトルが入った段ボール箱につまずき転んだ衝撃で、右ひざを痛めてしまったのだ。A谷さんの悲鳴に驚いたC田さんは様子を見に来たが、すぐに立ち上がることが出来ず、痛がっていると、

「仕事にならないから帰って」

と突き放した。10分後、やっと立ち上がったA谷さんは足を引きずって帰宅した。

次の日の午前中、A谷さんは自宅近くの整形外科を受診したが、右膝の皿が割れているので、しばらくはひさを固定し、歩く時は松葉づえが必要だと言われた。

治療費は自分の健康保険で払うつもりだったが、受付にケガした原因を聞かれたので、仕事中に転んだと伝えると「仕事中にケガをしたら労災扱いなので、会社から病院代が出ます。だから健康保険は使えません」と言われ、治療費を一旦全額立て替えて支払った。

そして翌日の朝、C田さんにその旨を連絡すると「じゃあもうバイトは無理だね」と電話を切ろうとしたので

「待って下さい。仕事中にケガをしたんですよ。治療費は払ってもらえないんですか」

と食い下がった。しかしC田さんは

「治療費を払えだと! 君が勝手にケガしたのが悪いんじゃないの? 君はウチで雇ったバイトじゃないから労災なんてあるわけない。君は甲社から紹介してもらった人だから、甲社に対応してもらえばいい」

と反撃し、すぐに電話を切った。

*     *     *

スポットワークとは短時間、単発で働く働き方のことで、別名「スキマバイト」「雇用型ギグワーク」とも言われる。利用者が拡大する中で、A谷さんの事例のようなトラブルも目立つようになった。

では居酒屋「乙」の店長が言うように、A谷さんに労災はおりないのか? かいつまんで言うと、就業先の指揮命令に従って業務を行うスポットワーカーは「労働者」である。すなわち、労災を申請することも可能なのだ。

後編記事〈28歳「貯金ゼロ」の男性が「スポットワーク」の居酒屋バイトでまさかの大ケガ…「治療費」はどうする?〉では、スポットワークと他の類似した働き方との違い、企業がスポットワーカーを受け入れる際の注意点、気になるA谷さんの事例の続きなどについて見ていこう。

28歳「貯金ゼロ」の男性が「スポットワーク」の居酒屋バイトでまさかの大ケガ…「治療費」はどうする?