【連載】
谷口彰悟「30歳を過ぎた僕が今、伝えたいこと」
<第24回・特別インタビュー後編>

◆【連載・谷口彰悟】第1回から読む>>
◆第23回>>欧州デビューでコンディション最悪「VISAが発行されず...」

 シント・トロイデン移籍後、ベルギーリーグ第3節のアントワープ戦で初先発した谷口彰悟は、その後も3バックの軸として試合に出続けている。

 インタビュー形式の連載特別編も最後。第24回では、試合を重ねて見えてきた自身の戦いと、チームを飛躍させるために求められている役割について聞いた。

 念願だったヨーロッパの舞台でも、彼は、川崎フロンターレやアル・ラーヤン、そして日本代表で培ってきた経験を活かしていく。

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守備のリーダーとして3バックを統率する谷口彰悟 photo by Getty Images

── チームに合流して間もなく、コンディションも上がりきっていなかった谷口選手を積極的に起用してくれたクリスティアン・ラタンツィオ監督(※9月3日に契約解除が発表)。谷口選手に対する、彼の理解は大きかったですか?

「かなり大きかったと思います。監督は自分に対してリスペクトしてくれていて、僕が加入するに当たって『経験のある選手が来てくれた』と歓迎してくれました。

 僕自身も一日でも早くチームの力になりたいという思いはあったし、コンディションが不十分なことを理解してもらったうえで、監督から『(第2節のシャルルロワ戦で)ベンチに入れるか』と打診され、僕もその理由に納得してベンチ入りさせてもらいました。試合の状況的に1-4の劣勢だったので、試合を見ながら出番があるだろうなとは思っていました」

── デビュー戦の約20分間で、ベルギーリーグの力やレベルを実感できたところはあったのでしょうか?

「正直、相手うんぬんを考えられる余裕は、まだなかったですね。自分にとって、初のヨーロッパの舞台だなとか、ベルギーリーグはどういった雰囲気・レベルなのだろうかといった、感傷に浸るようなことはまったくありませんでした。自分のコンディションがまだ試合をできる状態にないことは、自分が一番理解していたので。

 それでも起用してくれたチーム、監督に迷惑をかけないように戦おうとだけ考えていました。たった20分ですけど、久々の公式戦で心身ともにきつかった。そういう意味では、ほかのことに気を配る余裕がなかったことで、自分のプレーに集中することができたのかもしれません」

【情報が足りなかったがゆえに起きたミス】

── 自分のコンディションを上げていくとともに、周りの特徴やチームが志すサッカーへの理解も進めなければいけなかった?

「今季からラタンツィオ監督が就任し、チームがボールを握る時はしっかりと握るといったスタイルを目指していることは、事前の情報で把握していました。僕自身はチームの練習にも参加できていなかったので、ミーティングにも加わることはできなかったのですが、それでも試合を見たり、監督の発言を聞いたりして、監督の考えや哲学を理解するように努めていました。

 それをまずはピッチで体現したい、という思いは強かったですね。ポゼッションスタイルというと語弊があるかもしれませんが、チームはしっかりと自分たちでボールを持ち、動かしながら攻撃していく。それを明確にチームの狙いとして持っていましたから」

── CBから攻撃を組み立てていくサッカーは、谷口選手の特徴が生きるのではないでしょうか?

「CBにもビルドアップを求められていますし、僕自身がそうしたプレーを得意としていることが、獲得してもらえた理由でもあると認識しています。そういう意味でも、自分の力が発揮しやすい環境だと感じています」

── 初先発したアントワープ戦(第3節)は6失点。開始4分には、相手のクロスに対応しようとしたところで跳ね返せず、失点に絡みました。やはりコンディションの影響が?

「あの失点については、コンディションというよりも連係不足だと認識しています。僕がまだまだ周りの選手の特徴を知らなすぎたことが要因でした。その週に初めて1週間、みんなと練習ができたのですが、チームメイト全員の名前をようやく覚えたくらいでした。それぞれのプレースタイルや得意なこと、不得意なこと、性格までは把握しきれず、そうした情報が足りなかったがゆえに起きたミスでした。

 4分の失点は、僕が処理できるボールだったので、『自分が対応する』と言ったのですが、伝わりきらなかった。僕自身も先にボールに触った選手がどれくらいジャンプ力があり、どれくらい対応できるかがわからず、おそらく触れないだろうなと思っていたら、ギリギリのところでボールに触れ、コースが変わって後ろに流れてしまった。

 そこも含めて、僕が周りを理解できていないところが、試合序盤で露わになってしまった責任だと思っています。だから失点直後には、これは『自分のせいだな』と自分自身に矢印を向けました」

【状況に応じて自分なりのアイデアを提案】

── なるほど。

「開始直後の失点だけでなく、1-6で大敗した原因は僕にあると思っています。前半45分間を終えた時点で、足にかなりの疲労を感じていましたから。2カ月ぶりの試合ということでいろいろと考えましたし、感じました。

 アントワープは力のあるチームなので、自分がヨーロッパの舞台に来たことを実感しましたし、ファン・サポーターの数も多く、ヨーロッパの雰囲気を感じました。加えて初先発だったので、試合前からいろいろなことを考え、感じ、そのなかで自分のコンディションが上がりきっていない不安もありました。いろいろなことを考えすぎた結果が、プレーに表われてしまったな、と。

 一方で、自分のコンディションが戻れば改善できること、チームとして修正できるところもたくさん見つかりました。今は、そこに目を向けています」

── ミスを認め、受け入れているところに経験を感じます。また、コンディションだけを言い訳にせず、原因を追及しているところも。

「アントワープ戦よりも、次のFCデンデルEH戦のほうがコンディションも上がり、少し余裕を持ってプレーできる場面は増えました。自分が守れるところ、自分が助けられるところが確実に増えてきています。

 一方で、試合を重ねてチームメイトに求めたいプレーや動きも感じています。ここは個人でカバーしてほしい、対応してほしいと思う部分と、ここはチームとして改善していかなければならないと感じる部分も、同時に見えてきています。

 セットプレーもそうですし、クリアする場所、方向、戻る場所、戻ってくるスピードは、自分だけでなく、チームメイトにも求めつつ、自分にできること、やれることを増やしていきたいな、と」

── シント・トロイデンでは、個の力を示すと同時に、チームに対して厳しさを求めていくことも期待されているのではないでしょうか?

「年齢の若い選手が多く在籍しているので、一つひとつのプレーに対して細かく追求していく必要があるとは感じています。周囲ともコミュニケーションを取る機会は多く、その時にはアイデアや意見を求めてくれています。また、ディフェンスのコーチや日本人の分析兼コーチもいるので、場面や状況の対応や対策について、自分なりのアイデアを提案しています」

【日本人選手にはより厳しく要求しているかも】

── 先発出場を続けていることも含めて、すでにチームからの信頼がうかがえます。

「いろいろな状況、いろいろなサッカーを経験してきているので、今のチームが目指しているサッカーを踏まえて、こういうところが狙われやすい、ここが穴になりやすいといったところも、自分なりに見えてきます。チームとして求められるポジションを取りながら、その穴やスペースを相手に与えないように、周りと連係を図っていきたいと考えています。

 こういう場面に陥った時は、どう守るのか。もしくは、ピンチになる状況を未然にどう防いでいくのか。チームメイトとは、その意識を共有、もしくは理解し合えるように努めています」

── うしろには小久保玲央ブライアン選手、左サイドには小川諒也選手。前には藤田譲瑠チマ選手と、前後左右に日本人選手がいるのもプラスでは?

「周りに日本人選手が多いので、チームとしての意思統一の図りやすさはあると思っています。注意の仕方も細かく伝えられますし、もちろん言いやすさもあります。彼らが率先して対応してくれることで、周りもやろうとする意識は芽生えますからね。

 だから、日本人選手にはより厳しく要求しているかもしれません(笑)。ここにいろ、戻れ、締めろ、出ろといった具合に」

── 第4節を終えて勝ち点1と、チームにとっても、谷口選手にとっても苦しいスタートになりました。

「ここまで失点が多かったので、僕の仕事は、どれだけ失点を減らせるかだと思っています。そこに対する挑戦というか、やり甲斐はあります。今は徐々にコンディションも上がってきて、自分がやれることも増えてきました。周りと相談しながら、自分が厳しさを求めたり、自分がここまで培ってきたメソッドを伝えたりしていければとも思っています。

 ここからチームやチームメイト、さらには自分がどうなっていくのか、今は楽しみしかないですね。何よりシント・トロイデンは、何かひとつのきっかけで大きく変わっていく可能性や意欲を秘めたチーム。それぞれが変わっていくパワーを引き出していきたいし、個人としても、もっと存在感を示していきたいと思っています」

◆第25回につづく>>

【profile】
谷口彰悟(たにぐち・しょうご)
1991年7月15日生まれ、熊本県熊本市出身。大津高→筑波大を経て2014年に川崎フロンターレに正式入団。高い守備能力でスタメンを奪取し、4度のリーグ優勝に貢献する。Jリーグベストイレブンにも4度選出。2015年6月のイラク戦で日本代表デビュー。カタールW杯スペイン戦では日本代表選手・最年長31歳139日でW杯初出場を果たす。2023年からカタールのアル・ラーヤンSCでプレーしたのち、2024年7月にベルギーのシント・トロイデンに完全移籍する。ポジション=DF。身長183cm、体重75kg。