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黒船なき令和の日本で、革命なき安逸の日々のなかで、激烈な政権交代は起きるのか?

しかし、いま変わらなければ――かならず日本は、沈む!

百戦錬磨の戦略家、橋下徹(55歳)。時代を見定め、歴史を洞察し、日本人の本質を透徹した先に見えた悪魔的リアリズム、それが「政権変容論」だ。橋下氏は言う。

「『政権変容』が劇的に新しいのは、自民党がどうであろうと関係なく、野党が腹を括って決断しさえすれば次の総選挙で実現できるところです」

2024年の選挙から、グレートリセットは始まるのだ。

7月19日発売の最新刊『政権変容論』(講談社刊)から、特別に内容を抜粋してお届けしていこう。

『政権変容論』連載第35回

『政治が「変わる」ために必要なのに誰も本気にならない「野党変革」...野党間で死闘が繰り広げられた「衆議院議員補欠選挙」が実はその試金石になっていた!?』より続く

問題は東京15区

橋下:東京15区でも長崎3区でも、立憲が勝利しました。維新は完敗です。この票差を見れば、次の本選挙のときに維新が逆転できないのは誰が見ても明らかです。

もちろん選挙はときの状況次第で結果がいくらでも変わるものですが、それでも両者が主張をぶつけ合い、死力を尽くした上での投票結果は、民主国家の政治家であれば最も尊重すべきものです。

ここで敗北した維新が、同じ選挙区において次の総選挙に候補者を出して野党乱立状態にするよりも、立候補を控えて、悔しいけれど立憲の候補者一人を残すほうが、自公過半数割れに追い込めるチャンスが大きくなる。

もちろん現長崎3区は、選挙区改革によって次回総選挙では消滅し、今回の補選における維新の候補者も立憲の候補者も別々の選挙区で立候補するとのことなので、ここは維新の候補者も次の本選挙で頑張ればいい。

問題は東京15区です。

確かに維新候補者の金澤結衣さんは、ここに至るまで相当な政治活動を積み重ねてきました。この点は本当に敬服しますが、それでも政治は個人のものではありません。究極的には国民全体のものです。

個人が議員になりたいと思う意思よりも、日本全体の政治の行く末を考えるべきというのが、そもそもの維新の考え方です。今の維新の考え方は知りませんが、少なくとも維新発足当時はそうでした。

であれば、次に自分が勝つ可能性に賭けるよりも、いったん出た投票結果を重んじ、東京15区の主要野党の候補者は立憲の補選勝者に譲るべきです。だからと言って維新が立憲の候補者を応援する必要がないことは、すでに述べました。

「政権変容」とは

-これは橋下さんから馬場代表への、強烈なメッセージですね。

橋下:すみません、ここからは対話ではなく、一気に、熱く、持論を展開させてもらいます。狙うは政権交代ではなく、自公過半数割れの「政権変容」です。

自公過半数割れになり、自公と維新、ないしは自公と維新・国民民主で過半数を形成できるほど維新が議席を維持できれば、がぜん維新の存在感が際立ちます。

金澤さんは東京15区で国会議員になることは諦めることになる。しかし金澤さんは自分が国会議員になることよりも、日本の政治が変わることを願っているはず。

国会議員にしがみつきたい人からすると、補選で負けたからと言って次の本選挙を諦めるなんてとんでもないことでしょう。しかし金澤さんは民間でも十分に実績を出してきた人。国会議員にしがみつきたい人ではないものと信じたいです。

金澤さんがどうしても国会議員を諦められないというのであれば、ここは投票結果を重んじる真の維新スピリッツを体現し、補選勝利者の立憲・酒井菜摘さんと再度、予備選挙をやって勝利を収めるか、あるいは他の選挙区で立候補すべきだと思います。

自分が国会議員になりたいという欲望よりも、日本政治の変化、「政権変容」のために自らの政治生命を捧げる真の維新スピリッツを、他の維新メンバー、いや他の野党メンバーに見せつけてほしいものです。

このような日本政治を大きく変える政治判断を、維新代表の馬場さんや立憲代表の泉さんに行ってもらいたい。自公過半数を許しながら、自らの勢力を拡大することに汲々とする小さい政治は止めてもらいたいですね。

予備選実施は補選で敗北した維新のスピリッツ次第

橋下:4月28日投開票の補選中、先ほども述べましたが、維新の馬場代表は「立憲を叩き潰す!」「立憲議員を国会に送らないでください!」などと激しく攻撃しました。

これに対して批判的な意見もある中、僕はまさにこれこそが野党間予備選挙だと評価しました。来るべき本選挙前に、野党が潰し合いをして野党候補者を一人に絞ること。それも野党間での話し合いではなく、オープンな激論をもとに有権者が判断を下して候補者を一人に絞るプロセス。これこそが野党間予備選挙の本質だからです。

そしてこの予備選挙の性質を持つ長崎と東京の補選で、維新は敗北しました。これらの選挙区において、有権者は立憲の候補者を選んだのです。

この結果を受けて、維新は次の本選挙において、どのような政治的振る舞いをするのか。ここが「政権変容」が起きるかどうか、日本の政治が変わるかどうかの分岐点です。馬場さんがよく口にする「維新スピリット」を維新が本当に持っているなら、次の本選挙において東京15区には維新の候補者を立てないはずです。

なぜなら投票で決着がついたからです。

維新は意見が異なる場合に激しく対立しても、最後は投票結果を重んじます。その最たる例が大阪都構想の住民投票であり、これが真の維新スピリッツを体現したものです。あのとき、どういう事情があろうとも、住民投票で否決された以上、僕は政治家を引退すべきだと決意しました。民主国家の政治においては、投票以上に重いものはありません。

これが維新スピリッツの中核です。

補選で負けた維新が、同じ選挙区において次の本選挙でまさか再度候補者を立てたりするのでしょうか?ここで東京15区に再度、金澤さんを擁立したとすると、それはもう完全に保身です。維新の最も嫌うものです。万が一、比例票狙いで擁立したというなら最悪です。これも先ほど述べましたが、小選挙区でほとんど票が取れない比例代表議員を集めた集団で、何をやろうというのでしょうか?

政治が「変わる」ために必要なのに誰も本気にならない「野党変革」...野党間で死闘が繰り広げられた「衆議院議員補欠選挙」が実はその試金石になっていた!?