21日、激しい雨が降る中、深圳日本人学校の校門に献花する中国人男性=大原一郎撮影

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 【深圳=田村美穂】中国広東省深圳(しんせん)市で深圳日本人学校の男子児童(10)が登校中に中国人の男(44)に刺され死亡した事件は、拘束された男の動機が不明なまま、中国人の間で自己批判の声が上がっている。

 21日、雨の中、日本人学校校門へ献花するために訪れた中国人たちからは中国の反日教育に対する批判の声が聞かれた。

 近くに住む保険会社員の女性(40)は、長男(12)と次男(9)が学校で学ぶ内容に疑問を感じているという。

 昨夏、日本が東京電力福島第一原子力発電所の処理水を海洋放出した際は、教師から日本への批判的な意見ばかりを聞かされたという。歴史教科書は「外国に対する恨みを募らせる内容が多い」と指摘した。

 深圳市の主婦(60)も「復讐(ふくしゅう)心をあおるような歴史教育をやめるべきだ」と涙ながらに訴えた。

 中国の歴史教育は、日中戦争などを学ぶ過程で反日感情をただでさえ高めやすい。習近平(シージンピン)政権は1月、愛国主義教育法を施行し、今秋から歴史教科書で習氏の思想や愛国意識を高める内容を増やした。

 江蘇省蘇州市で6月、日本人母子ら3人が襲われた事件も、今回の事件と同様、「偶発的な事件」とだけしか説明されず、報道も少ない。深圳市のパート男性(59)は、政府の隠蔽(いんぺい)体質に多くの中国人が疑問を感じなくなっているのが問題だと指摘し、「教育による洗脳」が原因だと憤った。

 自省の声が聞かれるのは「事件は日本の自作自演だ」「中国人も日本で殺されている」といった投稿がSNSで絶えないためとの指摘がある。当局は反日感情の高まりを警戒しており、ネットメディアは21日、動画共有アプリ「快手」が、有害な情報を集めて日中対立をあおったとして約90のアカウントを停止したと報じた。