「幕が開く前の客席が怖いくらい静かだった」三ツ矢雄二(69)が振り返る“テニミュ”第1回公演の恐怖体験 「ファンの女の子たちが『私たちの愛するテニプリ』をどんな舞台に、って…」〉から続く

 5月22日に声優古谷徹さん(71)と37歳下ファン女性との不倫や妊娠中絶問題が報じられた。その6日後、三ツ矢雄二さん(69)は「私が不倫のアリバイ作りに協力したという噂があるみたいですが、それは誰かが流した悪意あるデマです」とSNSで言及。

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 レジェンド声優のスキャンダルに多くの同業者が口を閉ざす中、あえてこの時期に発言した真意を本人に尋ねた。(全3本の3本目/1本目を読む)


©橋本篤/文藝春秋

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――古谷徹さんの不倫報道後、三ツ矢さんは「私が不倫のアリバイ作りに協力にしたという噂は、悪意あるデマ」とXに投稿し、話題になりました。どういう経緯でこの問題について発言したのでしょう。

三ツ矢雄二さん(以下、三ツ矢) 僕は彼に対して、別に怒っているわけじゃないんです。一緒にバンドをやっていたぐらいだから、彼のことは好きですし、彼の奥さんとも仲良しだし。ただ、ここ10年ぐらいは会っていないんですよ。

 それなのに今回「彼の浮気のアリバイ作りに三ツ矢が協力した」というデマが流れ、あたかも僕が不倫の片棒を担いだように言われたので、それは否定しないといけないなと思いました。

――では改めて、三ツ矢さんは古谷さんの今回の行動をどう思いますか?

三ツ矢 残念だな、という気持ちですね。古谷さんは僕の1歳上ですが、声優としては大先輩です。『巨人の星』をやっていたとき、僕はテレビで見ていましたから。その後、僕が声優を始めた頃から共演していますが、もともと真面目な人なんですよ。普段の生活からキャラクターを背負って、役に関してもすごく真摯に取り組んでこられた方なんです。

 だから、キャラクターと自分が表裏一体というか、どこかで結びついていたのかなと。現在の自分が人気のある役を演じていることが、とてもうれしかったと思うんですよ。

声優がプライベートで自分の『持ちキャラ』を演じるのはどうなんだろう」

――古谷さんがファンの女性をキャラクターの声で口説いた、というのは衝撃でした。

三ツ矢 彼が悪いことをしたのは前提として、ファンの女性も彼がキャラクターになりきってファンサービスするのを望んでいたんじゃないかと。ニーズがあり、彼がそれに応えて、ファンがキャーキャー言う状況が成立していたと思うんですよね。   

――キャラクターへの思い入れが深くなると、声優本人とキャラクターが同化してしまうケースはよくあるのでしょうか。 

三ツ矢 実は、僕が今の声優業界で一番よくないと思うのがその部分です。声優は「キャラクターは自分自身である」と勘違いしてはいけない。もし、ある声優Aさんがアニメの主役の声を務めたとしても、その声優自身はアニメキャラクターではないんだから、普段のAさんはAさん自身であるべきですよ。

 それなのに、声優がファンの前やプライベートでも自分の「持ちキャラ」を演じるのはどうなんだろう、と。キャラクターの声を出すのは仕事のとき、スタジオの中だけでいいんじゃないでしょうか。

――でも、三ツ矢さんはテレビ番組で「『タッチ』の上杉達也の声でひと言」など、よくリクエストされますよね。そういうのも本当は、やりたくない?

三ツ矢 はっきり言って、僕はあれはすっごく恥ずかしいんです。画面に自分の顔が映っているのにキャラクターの声を演じるのは、ものすごく恥ずかしい。ただ「声優」として番組に出ている以上、視聴者がそれを見たいのもわかるので頑張ってやっていますが、本当はあまりやりたくないですね。

――三ツ矢さんは昭和の声優ブームの頃から当事者として関わってきましたが、最近の声優ブームの過熱ぶりは、以前とは様相が違いますよね。なぜこのような状況になったのでしょう。

三ツ矢 今の声優ファンは「声優にキャラクターを重ねて好きになっている」からだと思います。昔の声優ファンは、好きになる対象は声優本人だったんですよ。ファンになるきっかけはキャラクターだとしても、ハマるにつれて声優本人の追っかけになる人が多かった。

「でも今の声優ブームは『キャラクター×声優』がセットになっています」

――「『タッチ』の上杉達也をきっかけに、三ツ矢雄二さんのファンになる」ような形ですね。

三ツ矢 そうです。でも今の声優ブームは、「キャラクター×声優」のセットになっています。まずキャラクターの人気が上がって、次に「〇〇(キャラクター名)の声の人」という形で、キャラクターに付随して声優本人の人気が出る。

 その結果、ひとつの当たり役で人気になると、「あのキャラの印象が強いから」と懸念されて、他の役で起用されない声優がすごく増えているんです。これだと、若い声優さんたちがどんどん使い捨てにされちゃうじゃないですか。

――確かに、一度大きな役でヒットが出ると、その後のキャリアで迷走する声優さんは多い気がします。三ツ矢さんは他にも、今の声優業界や声優ブームを憂う発言をしていますが、一番気になるのはどんなことですか。

三ツ矢 別に、声優業界に対して怒っているわけじゃないんですよ。ただ、この15年ほどで業界は大きく変わってしまったので、僕たち声優も、今までの常識が通用すると思ってはいけない。僕もベテランといわれる年齢になってきたので、こういう意見を言う人が1人いてもいいかなと思っているんです。

 僕がこの仕事を始めたのは約50年前、1976年です。当時の声優業界には、自分たちはあくまで〈裏方〉という意識がありました。ところが何度かの声優ブームを経て、今の声優業界は〈プチ芸能界〉化してしまいました。

――業界の体質そのものが変わった?

三ツ矢 そうです。僕の若い頃から声優ブームは何度かあり、当時も追っかけなどはいました。でも、2000年くらいまでの声優ファンは一部のマニアやオタクといわれる人たちで、基本的にはマイナーカルチャーだったんですよ。

 だから、声優がコンサートをしたり制作発表に出ても、今のように芸能ニュースとして扱われることはなかった。昔から不倫や結婚、離婚を繰り返したり、セクハラやパワハラをする声優もいたけれど、それもマスコミはスルーしていたんですよ。理由は、声優が〈裏方〉だったからです。

昔の声優は「顔を出すのは、キャラクターの裏側が見えてしまうから嫌だ」という人が多かった

――三ツ矢さんは『タッチ』や『キテレツ大百科』などの大ヒット作に出ているのに、それもニュースにならなかった?

三ツ矢 はい。1990年代頃までは声優が顔出しで活動する機会は少なく、アニメ・声優ファン向けの雑誌は別として、一般の芸能ニュースに声優の記事が載ることはまずなかった。コンサートをやっても「マニアたちが盛り上がってるな」という規模でしたよ。でも今は、新作キャンペーンで声優が顔出しするのが普通ですよね。

 昔の声優は「顔を出すのは、キャラクターの裏側が見えてしまうから嫌だ」という人が多かったんですよ。でも今は、顔出しに抵抗感のない声優が多いです。顔が出れば当然、声優の名前も知られていき、有名になってライブで武道館やアリーナを満員にすると、またニュースになり、声優の知名度はますます上がる……という構造です。

――そうですね。

三ツ矢 今の若い声優に将来の夢を聞くと、みんな「マルチに活躍したい」と言います。「マルチ」には本来の声優業だけでなく、ラジオや歌、イベント出演などの仕事も含まれますが、これは「タレント、芸能人」と呼ばれる人たちと同じでしょう?  だから、今の声優業界はもう〈プチ芸能界〉なんです。

 だとしたら、声優も芸能人と同じくらい、言動に気をつける必要がある。それなのに、その「自覚」がないのが、最近頻発するスキャンダルの根本原因だと思いますね。

――それはスター声優の方々もわかっているはずなのに、なぜこれほど問題が続いてしまうのでしょう。

三ツ矢 やっぱり、声優本人に「はしゃぎ気分」があるんだと思います。声優業界が〈プチ芸能界〉になり、自分自身がブームになることで、表舞台に突然持ち上げられるわけですよ。それで、舞い上がってしまうんだと思います。

――気分が高揚するような?

三ツ矢 そうですね。スター声優になると、ファンの人たちから崇拝に近い気持ちを向けられることもあるんです。そうすると「自分からファンにアピールすることで、ファンを思うように動かせる……」という傲慢な気持ちが、どこかに生まれてしまうんじゃないかと。

 僕は、声優は「キャラクターあってこその裏方仕事」と思っているけれど、今の〈プチ芸能界〉化した声優業界では僕のような意見は少数派で、前にガンガン出る人が重宝されます。でもそうなったとき「言動に気をつけないと、何かあったときに、個人としてものすごく叩かれるよ」ということは言いたいですね。

――確かに、最近の声優スキャンダルの炎上ぶりはすごいものがあります。

三ツ矢 声優は、何か問題を起こして叩かれている最中に、キャラクターのベールを被ることは絶対にできません。キャラクターは声優を守ってくれないんですよ。

 だから、僕たち声優は「キャラクターというベールを被ったうえで成り立つ存在だ」と肝に銘じて、自分が演じたキャラクターを利用してファンに特別にアプローチしたり、よからぬ行為をしてはいけないと自覚すべきだと思います。

「『ちょっとはしゃぎすぎじゃない?』とは思いました」

――古谷さんはやはり、その自覚が足りなかったと思いますか。

三ツ矢 そうですね。最初にも言いましたが、彼個人に対して、すごい憎悪や嫌悪する気持ちはないんです。ただ「ちょっとはしゃぎすぎじゃない?」とは思いました。「はしゃぎすぎて、失敗しちゃったね」みたいな感じ。

 本当はね、僕は「人間だからいろいろあるよね」と思うし、役者がどこから見ても品行方正な人格者である必要はないとも思ってるんです。「この先もまだあるんだから、頑張ってね」と励ましたい気持ちも、友情として残っています。バレちゃって運が悪かったね、とかね(笑)。とはいえ、彼がしたことは決してほめられないので、それは反省してくださいと言うしかないですよね。

――なるほど。

三ツ矢 彼の奥さんとはもともとすごく仲がいいので、先日「ごはんを食べに行こうね」と約束もしたんです。でも、僕も他の声優と同じようにプチ芸能人のひとりなので、今、彼のために動いたりすると、それもまたニュースになってしまう。難しい時代ですけど、ここまで注目される業界になってしまったんだから、「仕事さえきちんとやっていれば、プライベートは何してもいい」という感覚ではもういられない、ってことです。

(前島 環夏)