ポイントは頼って甘えること…認知症のお年寄りが何より喜び介護者も楽になる一石二鳥の「声かけ」

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認知症の人は、自分の見ている現実と一致しない反応が周囲から返ってくると、「否定された」と思って混乱してしまいます。結果、周囲とかみ合わなかったり、衝突したりする機会が増えますが、これが認知症の人の「不安材料」となります。

この不安材料を上手に「安心材料」に変えてあげること。それが、本人の困りごとを解決し、家族の悩みを解消する最もいい方法です。ではどうすれば不安を安心に変えられるのでしょう?

それには、「不安を忘れるくらい嬉しくなる言葉をかける」のが効果的です。本人だけでなく介護者も、みんなが笑顔で過ごせるようになる言葉かけや接し方を『認知症の人がパッと笑顔になる言葉かけ』より紹介します。

デイサービスを勧めたいお年寄りには「役割感」でうまく誘う

「役割感」とは、「自分は誰かに必要とされている」=役割があるという実感のこと。認知症の人にも何か特技がある(あるいは、あった)はずです。それを活かしてもらえるような接し方を心がけましょう。特技を見つけにくい人の場合は知恵を借りて感謝の言葉を伝え、“役に立った”と感じてもらいましょう。

アルツハイマー型認知症を患っているタカヤマさん(80歳)のケースです。現在は妻と2人で暮らしをしているタカヤマさんは、元小学校教諭。最後は教頭まで務め、定年後も地元で子どもに剣道や水泳の指導をした功労者です。数年前から物忘れが出始めたため病院で検査を受けたところ、認知症の診断が出て、要介護認定も受けています。

過去の職業や得意なことをお願いするのがポイント

このタカヤマさんの事例のポイントは、まず介護を連想させないように、「デイサービス」や「認知症」という言葉を伏せる点にあります。本人が「年寄りくさい」(高齢者ですが……)と敬遠したり、病名で不安になったりしないように気をつけているのです。

また、タカヤマさんの職業にひっかけて「大人の指導」という引き算を考え、さらに重ねて「ぜひ!」という熱意を示したのもポイント。引き算とはいえ、気持ちの込もらない言葉では人を動かせないからです。

こうした役割感を得てもらう言葉かけの例はほかにもあります。昔、町で小さな印刷屋を経営していたヤマダさん(79歳)。職業柄、紙をさばくのがうまく、ハサミを使わず紙を切ったり、目測で紙を均等に折ったりと、身についた職人技は認知症になってからも健在でした。

ヤマダさんは昔、ミスしたコピー用紙やチラシの裏など、不要な紙をひもで綴って帳面代わりにしていましたが、家族がそれを思い出し、メモ帳作りをヤマダさんの役割にしました。役に立たないものができることもありますが、作ることに没頭している間はヤマダさんも穏やかで、徘徊の心配がないため、家族はメモ作りを大歓迎。「このメモ帳助かるわ〜」とお礼を言うと、ヤマダさんも好々爺(こうこうや)に変身するそうです。

編み物の先生をしていたイヨさん(85歳)。家のリビングでせっせと編み物をしている傍らには、毛糸玉と未完成のセーターが山になっています。2年前に亡くなった夫のセーターを編んでいたのです。もう完成したという手袋には、指が6本ありました。

ですが、イヨさんの経歴を活かし、「先生、冬の散歩用に、デイサービスにいるみんなのマフラーを編んでいただけますか」とお願いすると、イヨさんはせっせとマフラーを編み始めました。編み目がとんでいたり、ひものような幅になっていても、本人は気がつきません。こうしてできた個性的なマフラーは、冬のお出かけでみんなを寒さから守ってくれる便利グッズになりました。

特技のない人には手を温めてもらうだけでもいい

デイでレクリエーションを企画しても、「子どもだましだ」と参加しないお年寄りがいると思いますが、ちょっとでも参加してもらいたいのが介護職の本音。そんなときは、こんな言葉かけが使えます。

たとえば塗り絵に誘うときも、「みんなで一緒に色を塗りませんか」では反発を買いかねません。「近所の幼稚園から塗り絵の見本を頼まれたんですけど、お願いできますか」と頼んでみましょう。ついでに「塗り絵は好きな色でいいのにね。今の子は見本がないとダメなのかしら」と付け加えれば、もっともらしさが出ます。

「そんな言葉が本当に効くの?」と思う方がいるかもしれませんが、実際にこう頼んでみると、「見本ね。じゃあ、きちんとやらなきゃ」と言って、取り組んでくれます。意外と楽しそうな様子すら見られることも。

お年寄りのなかには、特技が見つからない人や、認知症が進んでしまって塗り絵やハサミも使えないなど、できないことが多くなっている人もいるでしょう。そういう場合には、たとえば「○○さん、私、手が冷たいの。温めて!」と手を差しだして、本当に手を握ってもらいましょう。あるいは、「熱があるみたいなの。ちょっと触ってみて」と、額にお年寄りの手を当ててもらいます。

普通は、こちらが利用者の手を取って「手が冷たいわ。温めてあげる」とか、「お熱はありませんか」となりますが、その逆をするわけです。大事なのは、「こちらが困っているので助けて/甘えさせて」というメッセージ。

実際に温めてもらったり、手を当ててもらえたら、「○○さんに温めてもらったから、こんなに元気になったわ。ありがとう」「熱ないみたい? ありがとう。○○さんのおかげで下がったのかも」と、ちょっと大げさに感謝の気持ちを伝えましょう。

後編記事〈「ドロボーに盗まれた!」…取り乱す認知症のお年寄りをスッと落ち着かせた別のお年寄りの「一言」とは〉に続く。

「ドロボーに盗まれた!」…取り乱す認知症のお年寄りをスッと落ち着かせた別のお年寄りの「一言」とは