ベイスターズ小園健太が「退寮する日が怖い」と語るファーム施設「DOCK」の魅力
小園健太〜Aim for the ace of the Baystars 第5回
横浜DeNAベイスターズの小園健太にとって、8月は暑く、苦しさをともなった厳しい日々だった。右脇腹痛も癒え、マウンドには帰ってきたが、8月は先発として5試合に登板し、防御率10.89。とくに8月24日の日本ハム戦(横須賀)は2回5失点、同31日の西武戦(南魚沼)は2回11失点と炎上してしまった。
ファームで調整を続けるでDeNA小園健太 photo by Sankei Visual
自戒を込めて小園は語った。
「自分のなかでいろいろと試そうとしているのですが、なかなかしっくりこないというか、うまくいかないことが多かったと思います。だけど、それを乗り越えていかないといけないので、今は次の試合に向け準備しています」
落胆の色は薄く、声には張りがあった。さらにステップアップするための試行錯誤の日々。原因はわかっている。
「ステップ幅を広くとることに取り組んでいるんですが、まだ無意識のレベルではできていないんです。試合中はどうしてもステップ幅を意識しすぎてしまい、体が横軸になってしまっていました。体を開かず縦軸で投げることができれば、必然的にステップ幅は伸びていくものだと思うので、まだまだ解釈や刷り込みが足りなかったと思います」
成長途上であるがゆえの足踏み。一定の動きを体得するには、やはり反復や数によって体に馴染ませるしかない。この数週間は、入来祐作ファーム投手チーフコーチにマンツーマンでみっちりと教えを乞うているという。
「とにかく言われているのは、体の開きですね。しっかりと上からボールを叩くようにとキャッチボールから指導を受けていますし、あとトレーニングでもランジ(前後、横方向に足を踏み出すことで下半身を鍛えるメニュー)をなるべく深いポジションでやるように言われています」
入来コーチの指導を受け、感覚が変わってきたことを小園は実感している。
「キャッチボールの感触は変わってきましたし、ブルペンでもけっこう体を縦に使えてきているので、気持ち的にも8月とは違う自分だなって思っています」
入来コーチとしても指導者として「何とかしたい」という気持ちでいる。この才能溢れる若きピッチャーを一軍に送り出さなければいけない。
以前、小園はルーキー時代から密にコミュニケーションを取ってきた東野峻ファーム投手アシスタントコーチを「お父さんのような人」と語っていたが、では入来コーチはどんな人なのか。
「やっぱりお父さんですね。お父さんがふたりいるんですよ」
そう言うと小園は笑みを見せた。
「入来コーチは本当に熱い方で、自分に対して愛情と厳しさを持って親身にぶつかってくださるので本当に感謝しています。いい時はもちろん、悪いピッチングをした時でも『一緒に頑張っていこうな』と声をかけていただき、前を向くことができています。だからこそ、期待に応えたいですよね」
【初めてDOCKに来た時の衝撃】プロ3年目、結果を出したいという思いに駆られながらも、足元を見て日々の生活をしている。その拠点となっているのが、選手寮が併設されたファーム施設『DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA(以下、DOCK)』だ。
約3年前、初めてDOCKに来た時の衝撃を小園は忘れられない。
「驚いたのは、室内練習場の広さですよね。初めて見たプロの室内練習場は本当に広くて、こういうところでこれから練習するんだって興奮したのを思い出します」
学生時代はまったく違う環境。とくにDeNAは最新のトレーニング施設に加え、R&Dグループ(データ分析、および最新テクノロジーを駆使しチーム戦略の企画、実行を担う部署)が常駐しており、日々データと向き合う生活をしている。
「自分としては、データは非常に役に立っている感覚があります。ボールの回転数や軌道など、自分の感覚とのズレというのがけっこうあって、修正という意味では重要だと思っています。動作解析も自分にフィードバックされる部分が大きいですし、やはり理解しているのと理解していないのでは随分違うと思いますね。そこはアマチュア時代とは異なるアプローチで自分を見ることができています。ただすべてを活用しきれているのかといえば、なかなか難しいところもあると思います」
インプットをしても、いかにしてそれをアウトプットしていけばいいのか。データばかり詰め込んでも、体がついていかなければ意味はない。
「データにとらわれすぎると縮こまってしまうこともあるので、データは意識しつつも、一番は自分の感覚を大事にしながらキャッチボールとかをするようにしていますね。本当いい環境で野球をやらせてもらっているので、何とか期待に応えたい」
そんなDOCKでの生活で息抜きになっているのが食事とサウナだという。
「食事は栄養バランスもいいし、本当においしくいただいています。いずれ退寮する日が来ると思うと怖いですね(笑)。サウナは"サウナー"というほどではないんですが、好きなんです。ぼーっとできる感覚が何か好きなんですよね。リラックスできます」
英気を養いながら、プロ初勝利を目指している小園だが、ペナントレースも残り20試合を切った。シビアな試合をしている一軍で今季2度目のチャンスをつかむのは容易ではないが、小園は顔を上げて言った。
「たしかに投げるチャンスは少ないとは思いますが、そうであったとしても自分はアピールするだけです。(一軍に)呼ばれるにふさわしいピッチングをして、いつ声がかかっても行ける準備をしたいと思います。本当に、一試合一試合が大事になってくると思います」
状態は上向きだと感じていた9月8日のロッテ戦では、先発として6イニングを投げ3失点とQS(クオリティ・スタート)を達成している。7四死球と若干制球は乱れたが、被安打は4と結果を出した。
精神面において入来コーチから常々言われていることは、「淡々と投げろ」ということ。
「僕は相手に合わせてしまうところがあるので、しっかりと強い心をもって、これからも挑んでいきたいと思います」
真剣なまなざしで小園は言った。勝負の秋、心技体を充実させ今季中の昇格はもちろん、来季へとつながるピッチングは果たしてできるのか。小園のさらなる奮起に期待したい。
小園健太(こぞの・けんた)/2003年4月9日、大阪府生まれ。市和歌山高から2021年ドラフト1位で横浜DeNAベイスターズから指名を受け入団。背番号はかつて三浦大輔監督がつけていた「18」を託された。1年目は体力強化に励み、2年目は一軍デビューこそなかったが、ファームで17試合に登板。最速152キロのストレートにカーブ、スライダー、カットボール、チェンジアップなどの変化球も多彩で、高校時代から投球術を高く評価されている。