UEFAスーパーカップを制し、すでに最初のタイトルを獲得したレアル・マドリードは今季、今までどのチームも成し遂げたことがない前人未到の「7冠」を目指す戦いをスタートさせた。そこで今回は、スペインのラジオ局「カデナ・コペ」でレアル・マドリードの番記者を務めるミゲル・アンヘル・ディアス氏に、今季のチーム状況および注目のフランス代表FWキリアン・エムバペの様子などに焦点を当ててもらった。


エムパベは前節のラ・リーガで2ゴール。次節はレアル・ソシエダと対戦 photo by Getty Images

【クロースの抜けた中盤は時間が必要】

 レアル・マドリードにおいて、公式戦5試合で2度の引き分けという結果は危機の前兆である。確かにチームは軌道に乗れていないが、ただ、シーズンはまだ始まったばかりだ。昨季から今季にかけて公式戦31試合連続無敗を維持しているのも事実である。

 サッカーは常に変化しており、昨今は休暇中であっても自主トレをする選手も多くなっている。しかし、プレシーズンの練習にわずか5、6回参加しただけで、公式戦に万全の状態で臨み、ベストのプレーができるような選手などほとんど存在しない。

 レアル・マドリードは昨季、ラ・リーガで開幕5連勝を飾ったが、カルロ・アンチェロッティ監督は、「幸先のよいスタートをきるのには苦労した」と回想し、シーズンの初めがラクではないことを認めていた。5試合のうち3試合は辛勝で、さらに当時はトニ・クロースとルカ・モドリッチはもう一緒にプレーできないのではという議論もあった。

 そして今季、長年ゲームメーカーを務めたクロース抜きの戦いは、決して簡単にはいかないだろう。とりわけMFのポジションにおいて、レギュラー陣の特徴がクロースとは大きく異なるため、適応にはある程度の時間が必要となる。

 オーレリアン・チュアメニも、エドゥアルド・カマビンガも、フェデリコ・バルベルデも、クロースではない。そして、チームのなかで最も才能に溢れるモドリッチはもはやレギュラーではない。

 ワルシャワで開催されたUEFAスーパーカップ(アタランタ戦)に勝利したあと、バルベルデは、「僕たちは今季、よりダイレクトに、よりクレイジーにプレーするつもりだ」と攻撃スタイルに変化が必要であることを訴え、アンチェロッティもこの発言に反論しなかった。

 クロースの代わりを見つけることなど不可能だが、ジュード・ベリンガム、バルベルデ、カマビンガなどのMFを早々に獲得してきたレアル・マドリードは先見の明があった。そして今夏、フロリアン・ビルツ(レバークーゼン)の獲得に動いたのはいい考えだったかもしれないが、フロレンティーノ・ペレス会長は誰よりも財政管理の方法を心得ており、ここぞという時以外は動かない。

【複数選手の「左流れ」をアンチェロッティはまったく心配せず】

 また、今季は複数の選手が左サイドに流れる傾向にあるが、アンチェロッティはまったく心配していない。いくつかの試合で見られるように、ヴィニシウス・ジュニオール、キリアン・エムバペ、ロドリゴにとって好ましいポジションは左サイドだ。しかし、「我々はヴィニがあのようにプレーしてチャンピオンズリーグ(CL)を2度制覇しているので、今季もそれを変えるつもりはない」と断言している。

 自分の直感を信じ、成功を収めてきたイタリア人指揮官は、選手たちに攻撃の自由を与えている。せいぜい、ピッチのどのエリアからプレーを開始するかを指示するくらいで、それ以外は選手たちの動きや共存に干渉することはない。各々が力を存分に発揮できる場所を判断できると確信しているのだ。

 しかし、守備となると話は別だ。アンチェロッティは、"自分がどのゾーンをカバーすべきか"を選手自身が理解することを望んでいる。たとえばロドリゴはつなぎ役を務めながら右サイドをカバーし、ベリンガムはフェルラン・メンディをサポートするために左サイドに開く選手だ。

 そしてアンチェロッティは何よりも大事なこととして、ロッカールームで選手たちに「全員が必ず走り、自分の任務を遂行しなければならない。そうでなければ守備システムが崩壊してしまう」と主張し続けている。ロナウド(ブラジル)の時のように、監督が選手のひとりを守備の仕事から解放するという贅沢が許された時代ははるか昔に終わっている。

 レアル・マドリードは今季、懸念材料のひとつに挙がるセンターバック(CB)に関して、最終的に今夏の移籍市場では動かないという非常にリスキーな決断を下した。昨季予想以上の活躍を見せたスペイン代表FWホセルのように、経験豊富なCBを1シーズンのレンタルで補強するのがいい方法だったと思うが、その選択もしなかった。

 補強リストに載せていたフランス人DFレニー・ヨロ(マンチェスター・ユナイテッドに加入)との契約に本腰を入れなかったあと、アンチェロッティは「ハコボ・ラモンやラウール・アセンシオ(ともにBチームのカスティージャ所属)は飛躍する準備ができている」と、チーム内に解決策があることをマイクの前で明言した。

 負傷中のダビド・アラバにプレッシャーをかけるつもりはない。復帰は早くとも11月以降になる見込みだが、左ヒザの前十字靭帯断裂に加えて軟骨にも損傷があり、32歳という年齢も考慮すると、今後のパフォーマンスには疑問が残る。レンタルバックのヘスス・バジェホについては公言していないものの、ビッグマッチを戦えるレベルにはないと考えているようだ。

 それでも、エデル・ミリトンとアントニオ・リュディガーが中・長期のケガをしない限り、すべてうまくいくだろう。シーズンは非常に長いが、チュアメニは日を重ねるごとにCBの動きを身につけており、別の選択肢として、昨季見られたようにダニエル・カルバハルやメンディがそのポジションを務めることもできる。

【エムバペとヴィニシウスはとてもうまくやっている】

 エムバペがアタランタ戦でレアル・マドリードでの初ゴールを決めるとともに、最初のタイトルを手にするという夢のようなデビューを飾ったあと、多くのサポーターは彼がすべての試合で得点を挙げると思っていたが、そう簡単にはいかなかった。それでもアンチェロッティは「エムバペの適応は順調にいっている」と考えており、最初の数週間の仕事ぶりに十分満足している。

 アンチェロッティは昨季、ヴィニシウスをセンターフォワード(CF)に起用した試合もあったが、今季の考えはヴィニシウスを左サイドでスタートさせ、エムバペをCFとして起用することだ。しかし、前述したように、チームがボールをキープすれば、皆が自由に動き回ることができる。そのため、エムバペにとってCFとしてゲームを始めることに問題はない。

 実際、ラ・リーガ最初の2ゴールを決めた第4節ベティス戦後のミックスゾーンでその点について質問した際、「フランス代表でもパリ・サンジェルマンでもそうだったように、攻撃の3つのポジションでプレーすることには慣れている」と答えていた。

 エムバペはロッカールームでうまく馴染んでいる。何人かがCLで6度の優勝を経験していることを自覚しており、たとえ自分にスポットライトが当たっているとしても、チームメイトへのリスペクトを欠かさず、自身を無理やり押し出さないことを自然と理解しているようだ。

 一部のメディアは、エムバペとヴィニシウスの間に論争や安易なライバル関係が生まれることを期待しているが、彼らはとてもうまくやっている。その証拠に、どちらがPKを蹴るかの決定方法がふたりの間にはある。もし両者の間に嫉妬心を感じ取っていたなら、おそらくアンチェロッティがキッカーを指名して解決していただろう。しかし、実際にはふたりに自由を与え、自分たちで決めさせるやり方を選んだ。

 第3節のラス・パルマス戦ではヴィニシウスがPKを蹴り、ベティス戦ではエムバペがキッカーを務めたが何の問題もなかった。今のところふたりの共存関係は健全であり、お互いに敬意を抱いている。

 レアル・マドリードのサポーターは非常に厳しい眼を持っている。2001年にジネディーヌ・ジダンと契約した際、チームのバランスが崩れるという意見があり、サンティアゴ・ベルナベウでブーイングが飛ぶこともあった。しかし、ビセンテ・デル・ボスケ(当時の監督)がジダンのために中央のポジションを見出し、ロベルト・カルロスに左サイドを完全に任せ、チームをうまく機能させたことで、サポーターも溜飲を下げていた。

 エムバペがレアル・マドリードで成功を収められないというのはあり得ないことだが、何事にも時間がかかる。1シーズンに7タイトルを獲得したチームは歴史上存在していない。6冠も2度だけだ。それを目指せるチームがあるとすれば、レアル・マドリードしかいない。

 前人未到の目標達成に向け、最大のライバルは過密日程になるだろう。しかし、ケガ人さえ続出しなければ、誰が不可能だと言いきれるだろうか?

※7タイトル
UEFAスーパーカップ/ラ・リーガ/コパ・デル・レイ/スペインスーパーカップ/UEFAチャンピオンズリーグ/FIFAインターコンチネンタルカップ/FIFAクラブワールドカップ

(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)