ペナントレースもいよいよ大詰めを迎え、優勝争いが激化している。なかでもセ・リーグは巨人、広島、阪神、DeNAの4球団が5.5ゲーム差のなかにひしめき合うなど、史上稀に見る大混戦となっている。そんな状況のなか、今後のカギとなるのはどこなのか? かつて強打者として日本ハム、巨人、中日でプレーした小笠原道大氏に聞くと、「5番打者」をポイントに挙げた。はたして、その根拠とは?

※成績は9月10日現在


8月は打率.368をマークした広島の坂倉将吾 photo by Sankei Visual

【5番をポイントに挙げたワケ】

── セ・リーグが大混戦です。シーズン終盤まで熾烈な戦いが続くと思いますが、小笠原さんはどこに注目されていますか。

小笠原 まず、投打とも普段の力をどれだけ発揮できるかが重要になるのは間違いありません。そのなかで、抜け出す可能性があるとすれば、得点力のあるチームかなと。打線でいうと、チームの命運を握っているのは5番打者のような気がします。

── 日本ハム時代、巨人時代と小笠原さんはおもに3番を担ってきましたが、5番打者についてどのような打者を置くといいでしょうか。

小笠原 前提として、4番が勝負されるシチュエーションをつくることがベストです。そのためには5番がしっかり機能していないと、チャンスで一塁が空いている場合は、4番との勝負を避けられてしまう。5番は打線の真ん中に位置し、1番〜4番と6番〜9番をつなぎます。ポイントゲッターであるクリーンナップの最後の砦でもあり、4番打者同様、勝負強さが求められます。

── 5番打者の活躍で印象深いシーンはありますか。

小笠原 2006年のソフトバンクとのプレーオフ第2ステージ、相手投手は斉藤和巳さん。日本ハムは9回裏二死一、二塁のチャンスに、5番の稲葉篤紀さんが二塁へ内野安打。一塁走者だった私が二塁に滑り込む間に、二塁走者の森本稀哲がサヨナラのホームを踏み、日本シリーズ進出を決めたシーンです。斉藤さんはソフトバンクの絶対的エースであり、得点を奪うどころか、チャンスをつくるのも難しい投手でした。それだけに少ないチャンスをものにし、日本シリーズに進めたということも含めて印象に残っています。

── 現在のセ・リーグを見ても、5番の役割は大きいと?

小笠原 4番を打つ広島の末包昇大、巨人の岡本和真がいい場面で打っているだけに、5番打者がしっかり打たないといけません。阪神は昨年と比較して、全体的に打線が低調な気がします。

【坂倉将吾は球界を代表する「打てる捕手」になる】

── 広島は、坂倉将吾選手が前半戦は絶不調でした。

小笠原 4月、6月の打率が1割台と苦しんでいました。それがオールスターでセ・リーグの岡田彰布監督がチームの編成上、捕手が足りなかったので坂倉を選んだらしいです。その坂倉は、オールスターで史上3人目となる満塁アーチをきっかけに復調。7月は打率.333、8月は.362と大活躍でした。

── 結果的に、岡田監督が敵の選手を目覚めさせる形になってしまいました。

小笠原 坂倉ですが、私が中日の二軍監督時代にウエスタンリーグで見たことがあったのですが、面白い存在だなと思っていました。長打力があるし、粘り強く四球も選べる。プロ5年目の2021年にいきなりセ・リーグの打率2位になるなど、レギュラーに定着しました。技術が備わってきて、3番も5番も打てる打者になりました。

── 坂倉選手は小笠原さんと同じ捕手出身で、一塁も守ります。

小笠原 そこは少し状況が違って、私の場合はプロ入り当初、出場機会を増やすためアマチュア時代に経験のあった捕手をやりましたが、坂倉の場合は捕手をやりたいようです。

── 現在の広島は、坂倉選手を含め會澤翼選手と石原貴規選手との「捕手3人制」を敷いています。

小笠原 床田寛樹、九里亜蓮、アドゥワ誠が先発の時は、坂倉はスタメンマスクをかぶっています。現在は捕手と一塁手、与えられた守備位置でいい結果を出しています。捕手は重労働だし、いろいろ考えなくてはいけないことが多いです。打撃と守備で、頭の整理がうまくいっている時はリードにも生きてくると思います。

── 坂倉の今後をどう見ますか。

小笠原 優勝争いのなか、ポジションは別として、打者として必要だから5番を任されていると思います。近い将来、古田敦也さん(元ヤクルト)、城島健司(元ソフトバンクほか)、阿部慎之助(現・巨人監督)らに続く、"球界を代表する打てる捕手"の道を歩むと思います。

【坂本勇人に5番を託したい理由】

── 巨人の5番は、大城卓三選手と坂本勇人選手が交代で務めています。

小笠原 大城は、規定打席に到達した昨年ほどの怖さはありません。巨人打線は、1番の丸佳浩、3番の外国人選手(エリエ・ヘルナンデス、ココ・モンテス)、4番の岡本は不動ですが、ほかは試行錯誤しながら組み替えています。(坂本)勇人が6、7月と不振だったので、なかなか5番が落ち着かないのが現状でした。

── 坂本選手と大城選手が同時に出場する場合は、5番に大城選手、6番に坂本選手のパターンが多い気がします。

小笠原 一緒にプレーしてきたので、少し贔屓目なところがありますが、実績からすると勇人を5番に置くほうがベターな気がします。勇人は8月25日の中日戦で大野雄大から値千金の2ランを放ち、菅野智之に勝ち星をプレゼントしました。緊迫した状況のなか、ひと振りで決める力が勇人には備わっています。

── 大城選手に5番は、まだ荷が重いのでしょうか。

小笠原 バッティングの技術はすばらしいものを持っていますし、攻守においてチームを引っ張っています。ただ、勇人が体調の面で万全であれば、5番に据えたほうが相手バッテリーは脅威に感じると思います。とくにシーズン終盤の大事な局面では、ベテランの力が必要になりますから。

【阪神のクリーンアップは発展途上】

── 阪神は優勝した昨年、大山悠輔選手が全試合で4番を打ち、5番はおもに佐藤輝明選手でした。

小笠原 大山は6月に二軍落ちして、復帰後は5番に座ることが多かった。代わりに4番は佐藤が務めていました。最近になって、昨年と同じように3番に森下翔太、4番に大山、5番に佐藤に戻しました。8月31日の巨人戦で、佐藤は起死回生の逆転3ランを放ちました。やはり佐藤が打つと、阪神の得点力はグッと上がります。大山は出塁率が高いですから、佐藤の役割はものすごく重要になってきます。

── 先ほど、小笠原さんもおっしゃっていましたが、今年の阪神打線は昨年ほどの怖さがありません。

小笠原 阪神のクリーンアップということで、期待値も大きいでしょうし、昨年日本一になったことで他球団から研究もされているでしょうし、そのなかで結果を出すことは並大抵のことではありません。あえて厳しい言い方をさせてもらうと、大山も佐藤もまだ絶対的ではないということです。言い換えれば、まだまだ伸びしろがある。

── シーズン最終盤にかけて、彼らに望むことはなんでしょうか。

小笠原 ここからの戦いは、四球を選ぶとか打点を上げるとか、個人というよりもチームの勝利にために何をすべきかを考えなければいけません。まだまだ未熟な部分はありますが、いずれにしても今季の経験というのは、この先必ず生きてくるはずです。

── また、ここにきてDeNAも上位争いに加わりました。

小笠原 DeNAは宮粼敏郎という実績十分な5番がいますからね。相手バッテリーからすれば、タイラー・オースティン、牧秀吾、そして宮粼が並ぶ打線は脅威です。得点力ならDeNAがトップですが、それを投手陣で守りきれるかどうかです。投手陣が踏ん張れば、逆転する可能性は十分にあると思います。


小笠原道大(おがさはら・みちひろ)/1973年10月25日、千葉県生まれ。暁星国際高からNTT関東を経て、1996年のドラフトで日本ハムから3位で指名され入団。99年に「バントをしない2番打者」としてレギュラーに定着。2002、03年には2年連続して首位打者に輝いた。06年には本塁打王、打点王の二冠に輝き、MVPを獲得。チームも日本一を達成した。同年オフにFAで巨人に移籍。巨人1年目の07年に打率.313、31本塁打、88打点の活躍で優勝に貢献。史上初めてリーグをまたいでの2年連続MVPに輝いた。13年オフに中日に移籍し、おもに代打として活躍。15年に現役を引退した。引退後は中日二軍監督、日本ハムのヘッド兼打撃コーチ、巨人二軍コーチ、三軍コーチを歴任。23年オフに巨人を退任し、現在は解説者として活躍中