千賀滉大の今季中の復帰はあるのか? 高まる「ミラクル・メッツ」の機運
千賀滉大は9月25日にマウンドに戻ってくるのか? Photo by REX/AFLO
エースとして期待されたメジャー2年目の今季は、不運も重なり、登板はわずか1試合。ニューヨーク・メッツの千賀滉大の復帰は、来シーズンと見られていた。しかし本人の言葉からは、今季中にマウンドに戻る意欲が見て取れる。
折しもチームは、8月下旬からの巻き返しでポストシーズン圏内に(現地時間9月9日時点で79勝65敗でナ・リーグワイルドカード3枠中勝率3位で4位に1ゲーム差)。1969年に万年最下位から世界一に輝いた時の異名「ミラクル・メッツ」の機運も少しずつ高まるなか、果たしてーー。
「順調に上がってきていると思うし、遅れもなくスムーズにきている。(マウンドに)戻れるように最大限の努力をしていきたい」
ニューヨーク・メッツの千賀滉大の口から2024年中にそんな言葉が出てくるとは、いったい誰が想像しただろうか。
悪夢のような7月26日。今季初先発を飾った本拠地・シティフィールドでのアトランタ・ブレーブス戦の6回、千賀はベースカバーに行こうとした際に左ふくらはぎを痛めてマウンド付近に崩れ落ちた。直後のMRI検査で重症の肉離れであったことが発覚し、60日間の負傷者リスト(IL)入り。その時点では、メッツファンですらも千賀の投球が見られるのは2025年になると覚悟したはずだ。
ところがーー。9月2日、故障発生後では初めて報道陣に対応した31歳の右腕の言葉は、少々意外なほどに力強いものだった。
「(ケガの後は)日常生活から大変でした。でも足を守るところに関してはしっかりできたと思っているので、余計なダメージであったり、リハビリが遅くなるところがなく、スムーズにこられていると思う。今のところは順調。とにかく100%の状態で戻ることが大事だと思っています」
シーズンは残り少なく、千賀の復帰への道は"時間との戦い"でもある。しかし、その回復は予想以上に早く、もうブルペンでの投球練習も再開している。それと同時にメッツは9月7日まで怒涛の9連勝を飾り、プレーオフ争いに食い込んできている。ほとんど奇跡的な形での、千賀の今シーズン中のカムバックは、もう不可能ではなさそうな状況なのだ。
振り返ってみれば、千賀にとっての2年目は本当に苦しいシーズンだった。昨季はメジャー1年目で12勝を挙げて新人王投票で2位に入ったものの、2年目の今季はアクシデントの連続。2月に右肩の張りを訴え、そのリハビリ中の5月下旬にMRI検査で上腕三頭筋の炎症が判明した。紆余曲折を経て迎えた7月下旬、ようやく復帰のマウンドに辿り着きながら、そこでまたも故障を負ったことは不運としかいいようがなかった。
「(悔しいという)その気持ちしかないですし、苦しい1年だったという言葉が一番しっくりくるかなと思っています」
メッツにとっても千賀の故障離脱は大誤算だった。メジャー最大の金満オーナーであるスティーブ・コーエン氏に率いられたチームは2023年中、ジャスティン・バーランダー、マックス・シャーザーといったビッグネームを次々と放出。新たな方向性に舵を切ったチーム内で、エースを務められるとすれば千賀しかいないはずだった。その右腕がまだ1試合しか投げられていないのであれば、今季は低迷したとしても不思議はなかったはずだ。
【勢い盛り返す流れのなかで】しかし、こんな厳しい状況に置かれながら、メッツは印象的な「ミラクルラン」を開始するのだからわからないものである。
先発投手陣はショーン・マナイア(11勝5敗、防御率3.43)、ルイス・セベリーノ(10勝6敗、防御率3.74)、デビッド・ピーターソン(9勝1敗、防御率2.75)らが奮闘。打線もMVP候補と目されるようになったフランシスコ・リンドア(30本塁打、26盗塁)、主砲ピート・アロンソ(31本塁打、79打点)、若手成長株のマーク・ビエントス(打率.284、24本塁打)らを軸に必要な得点を叩き出してきた。
6月3日以降、54勝30敗の快進撃。もともといい意味でも悪い意味でも評価を覆すのが得意なチームだが、前評判が高くなかった今年も劇的な形でシーズン終盤を迎えている。この追い上げのおかげで、千賀にも復帰登板のチャンスが出てきたのである。
シーズン残り20試合を切った今、千賀がマウンドに戻ってくるための条件はふたつ。まずは今後もセットバックを経験することなく、順調に回復し、調整を続けること。そしてチームがこのまま好調を保ち、プレーオフ出場への希望を残し続けること。その両方が継続すれば、60日間の故障者リストからの復帰が可能になる9月25日に復帰の声がかかるのではないか。
「先発としてもいきなり5回、6回、投げられるかと言われたらその時間はないと思います。僕自身、どうなるかももちろんわからないです。ただ1イニングでも多く、思いきり投げられる準備をして帰ってくるということは、全員の共通の希望ではあると思う。そこを目指していこうと思っています」
千賀自身のそんな言葉が示唆するとおり、復帰を果たすとすればリリーフの役割を任される可能性が高そうだ。100マイル(160キロ)近い速球と"お化けフォーク"はブルペン登場でも生きるに違いない。メッツには2022年に防御率1.31、62イニングで118奪三振という凄まじい投球をしたエドウィン・ディアスという守護神がいるが、千賀がその前で投げられることになったら心強い。
「まず(千賀に)貢献できる状態でマウンドに戻ってほしい。ブルペンか、先発か、役割に関してはそれからだ。その選択ができるのを楽しみにしている」
ここまでの紆余曲折を思い返せば、デビッド・スターンズ編成部長の言葉が極めて慎重だったのは理解できる。あくまで、すべてがうまくいけばという条件付き。依然としてナ・リーグ内でもダークホース扱いのメッツが、最後の最後で秘密兵器を手に入れるようなことになれば面白くなる。
少々気が早いが、こんな想像を巡らせてみてほしい。身も凍るような緊張感に包まれるプレーオフの終盤イニング。接戦のゲームのなかで、フィラデルフィア・フィリーズのブライス・ハーパー、ロサンゼルス・ドジャースの大谷翔平、ムーキー・ベッツといった強打者たちへの対策として千賀を投入できるような流れになれば......。"苦しい1年"の最終盤にハイライトを生み出せば、千賀はニューヨークの人々を今からでもエキサイトさせることは可能なはずである。