いよいよ10日に迫った「ハリス対トランプ」テレビ討論会のゆくえ…トランプ・メディアの株価はどう転ぶ?

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2024年11月に実施される米大統領選。トランプ前大統領(以下、トランプ氏)の再選が実現するか否か、高い関心が集まる中、いよいよ9月10日(日本時間11日)にはトランプ氏とハリス副大統領のテレビ討論会が開催されます。ここで注目したいのが、トランプ氏が大株主として立ち上げたSNS「トゥルース・ソーシャル」を傘下に持つトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(トランプ・メディア)。討論会の結果によって同社の株価がどう転ぶかで、市場がトランプ氏の当選をどう見るかがわかるというわけです。ソフトバンク孫正義氏の元右腕である三木雄信氏がわかりやすく解説します。

トランプ大統領のソーシャル・メディアの株価が連日の最安値

トランプ前米大統領(以下、トランプ)が推進するソーシャル・メディア「トゥルース・ソーシャル」を運営するトランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ(以下、トランプ・メディア)の株価は、20ドルを下回り連日最安値を更新するなど低迷しています。(米国時間9月9日現在、17.10ドル)。

同社は、今年の3月26日にSAPC上場と呼ばれる特殊な方式で米国の新興株式市場ナスダックに上場をしましたが、上場初日の高値は79.38ドルをつけました。しかしその後、一時期業績不安などで20ドル台に低迷。そしてトランプの暗殺未遂事件を受けて、一時は46.27ドルをつけるなどトランプ人気に合わせて復調の兆しを見せていました。

「空箱」SPAC上場での株価上昇は僅かに!?

実は、このSPAC上場とは、事業を持たない買収を目的とする特殊な会社であるSPAC(Special Purpose Acquisition Company:特別買収目的会社)が上場をして、その会社と未上場の会社が合併することで、SPACの経営陣の事業の目利き力を活かして早期に上場を実現する仕組みです。このため時にSPACは「空箱」と呼ばれることもあります。

こうした仕組みで、トランプ・メディアは、合併前はデジタル・ワールド・アクイジションという名前の上場企業でした。その時の株価が合併前は10ドル後半だったのです。

つまり、合併前から株価は上昇しておらずトランプが推進するソーシャル・メディア「トゥルース・ソーシャル」は事業体としての価値はかなり低いと市場から見られていることになります。

トランプ・メディア株の面白いところは、業績は全く不振であり、事業内容の進捗を示すKPIを全く開示していないことです。しかし、その株価はトランプの発言や動向、さらには当選する可能性などを反映して激しく変動しています。投資対象としては、「ミーム株」といっても過言ではありません。

トランプ・メディア株は、トランプ人気のバロメーターに

ミーム株とは、ソーシャルメディアやインターネットのコミュニティで注目されることで急激に人気が高まり、短期間で価格が大幅に変動するを指します。これらの株は通常、実際の企業の業績や財務状況に基づくものではなく、オンラインの掲示板やフォーラムでの話題や推奨によって動かされます。


代表的な例として、2021年に米国のゲーム小売業者であるGameStop(GME)の株価が、Reddit(米国の掲示板型ソーシャルニュースサイト)のある投資フォーラムでの言及をきっかけに急上昇し、大きな話題となりました。

今後のトランプ・メディアの株価の注目すべき節目として、9月10日(日本時間11日)に開催される予定のトランプ氏とハリス副大統領のテレビ討論会があります。初の直接対決で、選挙終盤戦の最重要イベントと注目されています。もし、ここでトランプ・メディアの株価が上昇すれば、討論会の結果、トランプ氏の当選確率が高くなったと市場が考えたと見て良いでしょう。しかし、もし下落すれば当選は遠のいたと市場は見たということになります。

また、もう一つの節目としては、9月25日も挙げられます。この日にトランプ氏が株を売却することが禁止されているロップアップ期間の6ヶ月が終了することになり、トランプ氏が株価を売ることが可能になります。

トランプ氏が米証券取引委員会(SEC)への提出した資料によると、トランプ氏はトランプ・メディア株を7,875万株持ち、保有比率は58%にも及びます。トランプ氏が株式売却を行えばその株価に大きな影響を与えることは容易に予想できます。

実際、ハリス副大統領は、大統領選への参戦から1週間で290億円を調達したと報じられています。トランプ氏は、複数の裁判のための膨大な弁護士費用を抱えており、ハリス大統領と比較すると資金力でも劣勢であるといわれています。このためトランプ氏は、トランプ・メディア株を資金捻出のために売却するしかない状況となる可能性も十分あると思います。

その場合にはトランプ・メディアの株価はさらなる下落となる可能性が高いでしょう。そして結果として、トランプ氏の支持基盤の一部を損なう可能性も。なぜならば、トランプ・メディアの株の買い手は「機関投資家ではなく個人で、そのほとんどはトランプ氏の政治的な支持者」(新規株式公開(IPO)に詳しい米フロリダ大のジェイ・リッター教授によるコメント:引用元 日本経済新聞)だからです。

いずれにしろ、今後のトランプ前大統領のいく末を占う指標の一つとしてトランプ・メディアの株価に注目です。

三木 雄信

元日本年金機構 理事

トライズ株式会社 代表取締役社長