ベイスターズの逆転CS進出、優勝の可能性は? 野村弘樹が好調の理由と今後の展望を分析
今季のセ・リーグペナントレースは、広島が走り、巨人と阪神が追うという図式だったが、8月終盤から一気に上位との差を縮めてきたのがDeNAだ。クライマックス・シリーズ(CS)進出はもちろん、まだ上位チームとも直接対決も多く残しており、結果によっては優勝も夢ではない。はたして、この強さは本物か? ベイスターズOBである解説者の野村弘樹氏に聞いた。
※成績はすべて9月8日現在
ここまでチームトップの12勝を挙げているDeNAの東克樹 photo by Koike Yoshihiro
── 7月はオールスター戦挟んで9連敗していたDeNAが、ここに来て絶好調です。素朴な質問ですが、何がどう変わったんでしょう?
野村 端的に言えば、投打ともに調子が上がるというか、整うタイミングがこの時期に揃った。その巡り合わせが大きいと思います。9月4日からの広島との3連戦で3連勝しました。広島が調子を落としていたのはあると思いますが、僕の個人的な印象は、台風の影響で試合がなくなり休養することができた。広島との3連戦はリフレッシュした状態のなかで臨めた。どのチームも疲れが溜まっている時期に、コンディションを整えることができた。とくに投手陣にとっては大きかったと思います。
── 結論からうかがいます。ベイスターズはCS進出、もしくは優勝の可能性はありますか。
野村 どうだろう......もちろん、そうなってほしいですけど、甘くはないですよ。たしかに今、チームに勢いはあります。でも今季、ここまでDeNAは上位の巨人、広島、阪神にいずれも負け越している。それが現実です。順位をひとつでも上げるためには、クリアしなきゃいけないポイントはいくつもあります。
── たとえば?
野村 まず投手陣は、とくにアンドレ・ジャクソン、アンソニー・ケイが今の調子をキープしつつ、最後までやりきれるかどうか。今永昇太とトレバー・バウアーが抜けた今季、この両外国人投手が先発としてしっかりゲームをつくっている。東克樹は別格として、このふたりのうちどちらかでも息切れしてしまうと、ゴール手前で失速となりかねませんから。
── 東投手は今季もすばらしい内容のピッチングを見せています。勝ち星もさることながら、32試合連続クオリティスタート(QS)は、数字だけでなくさまざまな形でチームに貢献しています。
野村 東の今季の活躍は、2月から予感していたんですよ。キャンプ初日に会った時、彼の言葉を聞いて「今年もやるな」と思いました。
── どんな言葉だったのですか。
野村 「去年は頑張らなきゃいけいと思ってやっていました。でも今年は、去年と違って責任感がありますから」と。意識の変化ですよね。頑張る立場から、やるべき立場に変わった。それを自覚したというのは、ピッチャーとして大きなことだったと思います。当然といえば当然の立場ですが、東が計算できるから、ほかの投手にも好影響を与えていることは間違いありませんね。
── 抑えの森原康平投手が安定しているだけに、そこまでどうつなぐか。7、8回を任せるリリーフも失敗が許されませんね。
野村 そこは打線がカバーして、リリーフ陣への負担を軽減できるかどうかですね。今は打線のつながりがよく、打席に臨む姿からも気迫が感じられます。ただ本拠地からビジターになることで、流れが変わる可能性がある。相手や球場が変わっても、自分たちのペースで試合をできるのかどうか。そういった戦いを続けていかなくてはいけません。
【カギを握る1、2番の出塁】── 打線は、主軸が揃って好調なのは心強いです。とくに、ケガから復帰したタイラー・オースティン選手が重要な場面で得点源となっています。
野村 中軸打線の充実ぶりはリーグトップでしょう。それだけに打線でカギを握るのは、梶原昂希、蝦名達夫の1、2番です。梶原はオープン戦での好調さを見て、「今季は面白い存在になるかも」と感じた選手のひとりです。梶原のいいところは、柔らかさというかハンドリングのよさ。身長があって、打球も飛ぶ。あとは意識の問題かなと思っていました。「打ちたい」という気持ちが強すぎると、ボール球に手を出したり、バランスを崩してしまいます。言い換えれば、「打ちたい」という意識が過剰にならなかったら、結果を出すかなと思っていました。一時期、調子を落としてファームに行きましたが、再昇格してから良くなっているので、ファームで何かを教わったのか、それとも何をつかんだのか。いずれにしても、力みがなくなったような気がします。
── 1、2番が出塁して、中軸で還す。打線として理想のパターンがつくれているのも、今季の特長と言えるのかもしれないですね。
野村 ですね。正直、開幕前はオースティンをあてにしていませんでした。ただ、彼は今季3年契約の3年目なんですよね。そりゃ必死になるでしょう。"外国人選手あるある"です(笑)。
── また、マスクを被る山本祐大選手の活躍も見逃せません。
野村 一番はバッティングの成長ですね。配球をしっかり考えて、結果が出るようになってきた。その効果が、リードにも反映されている気がします。打席でも、マスクを被っていても"ゆとり"を感じます。
── 残り試合はわずかとなってきましたが、DeNAは上位3チームとの対戦を多く残しています。一戦必勝に変わりはないでしょうが、具体的にポイントはどんなところになりますか。
野村 先程も言いましたが、負け越している相手との戦いになるので、ここまでのデータを再度確認するでしょうし、そのなかでいかに勝機をつかむことができるか。奇策は必要ないと思います。ほかのチームにも言えることですが、一番大事なことは連敗しないこと。連勝できればいいですが、まずは連敗しないことを最優先に考えるべきだと思います。
── 最後まで混戦は続くと思いますか。
野村 上位3チームは、それぞれ弱点があります。広島は長打力に乏しく、打線に爆発力がない。阪神は負けにつながるミスがある。守備はもちろん、バントの失敗なども目につきます。巨人はリリーフ陣が不安定で、大勢につなぐ前に失点するケースが多い。DeNAがCS争いに加われたのも、上位チームに決め手がないから。だから最後まで、混戦状態は続くと思います。
野村弘樹(のむら・ひろき)/1969年6月30日、広島県生まれ。87年ドラフト3位でPL学園から横浜大洋ホエールズ(げん・横浜DeNAベイスターズ)に入団。プロ3年目の90年に11勝をマーク。93年には17勝を挙げ最多勝投手に輝いた。98年に13勝でチームの38年ぶり優勝、日本一に貢献したが、99年に左ヒジを手術した。2001年に通算100勝を達成したが、02年に左ヒジの状態が悪化し、現役を引退。その後、ベイスターズのコーチをつとめ、現在は野球解説者として活動している