荘厳な電卓といった佇まい。フォント凝りすぎてて押すまで何のボタンかわからなかったりする
Photo: Artem Golub / Gizmodo

羊がメエと鳴き、パドルドラムが全身を揺さぶる!

スウェーデンの電子楽器メーカー、ティーンエイジエンジニアリング(teenage engineering)がまた面白いサウンドサンプラー&グルーヴボックスを作ってくれました。昨年のヒット「EP-133 K.O.II」に続く第2弾「EP-1320 Medieval」です。

価格は前作と同じ税込み5万5000円。サンプラーが約200種に減って、中世モチーフのボタンになったことを除けば、基本、EP-133 K.O.IIとほぼ同じに使えます。

自分で音源を取りこむこともできるけど、中世の楽器のサンプラーがこれだけそろっていれば、このテーマを土台にやったほうが早いし確か。さっそくグレゴリア聖歌のテーマをつくって、今度TRPGのキャンペーンやるときに流そうと思ってるところです。

ローマ崩壊後千年から10世紀初頭までの中世ヨーロッパでは、実にさまざまな芸術・音楽・建築文化が開花しました。EP-1320にはその時代のスピリットが詰まってます。ボタンの文字はカロリング体(カロリング朝カール大帝が修道僧に作らせたフォント)ですし、選んだピッチや楽器のアイコンも盾、翼、アルケミストのフラスコという念の入れようです。剃髪の僧が教壇でサンプラーを捧げ持つアイコンは、まるで古楽のタイムトラベラーみたいで特に好き。

EP-1320 Medieval

これは何?:中世テーマのビートマシン

価格:税込み5万5000円

好きなところ:謎めいた紋章や書体で埋め尽くされたデザイン、中世っぽい楽器の音を幅広く実装している、似非ラテン語の壁さえクリアすれば使い方もカンタン

好きじゃないところ:昨年の EP-133 K.O.と比べて音量・テンポを視覚で確認しにくい、ストレージ容量が限られている、エフェクトが中世の楽器向けに開発されたものばかり

「数字キーがココアの香り」とPRされているので鼻をクンクン近づけてみたら、本当にかすかではありますがココアの匂いがしました。会社で匂いを判別できるのは自分だけでしたけどね。そんな遊び心たっぷりのEP-1320 Medievalですが、中身は本格派です。

K.O. IIみたいにボタンが現代語じゃないから判読には慣れが要るし(同梱の判別シートやオンラインガイドを参照しながらでも)、アイコンが減って、設定したエフェクトやテンポのレベルがK.O.IIみたいに視覚でわかる感じではなくなっちゃったけど、中世サウンドビートメイクをしたい人なら絶対好きでしょう。

最上位の機材でもなければ、去年のK.O. IIほど多機能でもない。でも税込5万5000円という価格に釣られて触ったらもう沼です。僕も「この音を鳴らしたかったのだ…」という夢が次々叶う感動の連続で、しばらく手放せそうにありません!

EP-1320 Medievalのデザイン

去年のEP-133と比べてどう?

Photo: Artem Golub / Gizmodo

「EP-133 K.O.-IIの外側を変えただけじゃん」という声もあるけど、見た目(と匂い)以外にも違いはあります。

P-1320のストレージは128MBで、EP-133より64MB多め。うち96MBはサンプラーとデモトラックで塞がってます。ちなみにメモリの残量がよくわからないので、曲を作ってる途中でメモリ切れになっても、事前に知る術はない感じです。

ファイルを深堀りしてみたら、内蔵サンプル用に64MB使用されていました。Teenage EngineeringのWebのサンプルツールを確かめてみたら、全サウンドが端末上にロックされているように表示されます。メモリが2倍あるサンプラーがどうしても欲しければ、削除して空き容量を増やす裏ワザがあるのかもしれませんが、少なくとも標準装備のソフトウェアでそれはできない仕様のようです。

さっそくデモトラックに「吟遊詩人のアンサンブル」を加えてエフェクトをパンチインしてみたので、動画はっておきますね。

こちらは 日本のRockoNによるデモ。

言ってしまえば、EP-133に中世の楽器とサウンドエフェクト220種を標準装備したのがEP-1320でありまして、自前のサウンドやサンプルを読み込むことも可能なら、EP-1320から中世サウンドをダウンロードしてEP-133に取りこむ操作も割と簡単。同じような機材にまた5万円以上も払うを迷う人は、Medieval買った人から手持ちのEP-133に中世サウンドを分けてもらってもいいでしょう(メモリに限りあり。後述)。

これだけEP-133に近いと、ネットに出ているEP-133の使い方やレビューがそっくりそのままEP-1320 Mediavalにも当てはまるのがメリットですよね。なんせ覚えなきゃならない操作がいろいろあるので。特に「altero」と書かれたシフトキーで、まったく新しいコントロールのレイヤーを追加できたりもするので、情報ありすぎて困ることはありません。でもまあ、いったん体で覚えてしまえば、もう「sonusは楽曲セレクション、clavesはキー」と脳内変換しなくても使いこなせます、はい。

Teenage Engineering EP-1320 Medievalの使い勝手

ツールを減らして、楽器を増やした

Photo: Artem Golub / Gizmodo

EP-1320はいちおう機材という位置づけです。サンプラーでありヴルーヴボックスでもあるわけですが、内蔵のサウンド中心の機材で、K.O.II.ほどの汎用性はありません。でも携帯性に優れているし、操作も比較的シンプル。Teenage Engineeringのサンプラーの予備知識ゼロの自分でも、触って1時間もしないうちに簡単なトラックを作っちゃえるまでになってました。

単体で楽しむにしても、ほかの機材と楽しむにしても、スピーカーは弱いので、人に聞かせるときには外付けスピーカーにつないだほうがいいです。

Medievalにはデモ用の楽曲も入っているので手っ取り早く曲のインスピレーションを得ることができます。まあ、9通りしかないけど、僕はどれも好き。剣がぶつかり合う音も、魔女の叫びも、細切れにしてピンチインのエフェクトをかければ出番がありますからね。

前にはなかった特長を少し補足すると、Medieval発売にあたってパンチインやサウンドエフェクトのデザインが変わって、エフェクトは「pocus」という新名称になっています。内容は「吟遊詩人のアンサンブル」や「ダンジョンのエコー」など。呼び名は変わっても、音は去年の機材で「コーラス」などと呼ばれていたものとあまり変わっていません。

エフェクトに関しては、EP-133とはサウンドやトーンが異なり、前よりもっと標準搭載のサンプル用につくりこまれています。さらにEP-133にはなかった「アルペジエーター機能」(quantumボタン+テンキー複数同時押しでアルペジオが鳴る)も加わって、コード進行をリピできるようにもなっています。

エフェクトを新旧機材で比べると、違いは歴然。たとえば「ダンジョン・エコー」(133の「Delay」に相当)は高周波数を抑えた、もっと暗いサウンドになってます。グレゴリア聖歌みたいなサンプルではディストーションエフェクターがすごくよく効くし、パンチインの各種エフェクトもK.O. II.とはかかり方が違います。

こればかりは良し悪しというより自分のニーズに合うか合わないかなので、本当に知りたかったら新旧突き合わせて比べる必要がありそうです。

Teenage Engineering EP-1320 Medievalは買い?

こうして見てくると、EP-1320 Medievalはオンデバイスで完結するミックスサンプル用に開発された製品という印象です。

K.O. IIの音源とか、ほかの手持ちの高品位なサンプルを取りこんで試してもみたんですが、やっぱりMedieval標準搭載の楽器のほうがエフェクトのかかりが全然よくて、音域も対応周波数もずっと広いんですね。新旧サウンドをワンデバイスで楽しみたいアマチュアのみなさまには、この辺がジレンマかも。

「けっきょくは見た目で選ぶ」という人から見ても、EP-1320 Medievalはプラスティックの表面加工に優れていて、まるでレゴみたいです。色もアップルの昔のMacintoshっぽいレトロ感があって、グレイのK.O. IIより自分はこっちの方が好きかな。

このサイズにしては頑丈なほうだけど、チープに感じる部位もあって、梱包のノブのゆるみもそのひとつ。キーを強く押しすぎると、筐体中央が少し凹んだりもします。とはいえ、ほかの持ち物と一緒にバックパックに放り込んで出歩いても、キズや故障のトラブルに見舞われることはありませんでした。

ボタンの文字やUI変わって使いづらくはなったけど、だからって全部現代英語で書かれていたら、これまた暇すぎて、そこまで欲しいとは感じなかったと思います。アナクロなところが、EP-1320の魅力なんだし。

オルガンの伴奏でふつうにグレゴリア聖歌の音源つくっても全然面白くないけど、坊さんのお経、戦場のドラムビート、ハーディガーディのベース、魔女の高笑い、そんなものをごった煮にしたミックステープをつくるのはこれ、めちゃくちゃ楽しいです。こんなに心躍る機材はほんと、いつぶりだろう?

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