サッカー日本代表への合流を前に三笘薫が今季イチのプレーを披露 今後の課題は?
開幕戦のエバートン戦(昨季15位、アウェー)に3−0の勝利を飾り、続くマンチェスター・ユナイテッド戦(昨季8位、ホーム)でも、ジョアン・ペドロ(ブラジル代表)が終了間際に挙げた決勝ゴールで、連勝スタートとなったブライトン。
開幕2連勝を飾ったのはブライトンのほかにマンチェスター・シティ、アーセナル、リバプールのみ。昨季のプレミアの上位3強と並ぶ好スタートである。監督がロベルト・デ・ゼルビからファビアン・ハーツラーに代わったことによるマイナス面は、さほどないように見えた。
プレミアリーグ第3節。ブライトンの相手は昨季の3強の一角であるアーセナル。悪くなさそうに見えるスタートダッシュが本物かどうかを占うには絶好の試合だった。
エバートン戦、マンチェスター・ユナイテッド戦の三笘薫は可もなく不可もなしだった。何より目についたのはプレー機会の少なさである。積極的な仕掛けが足りないというより、ボールを受ける回数そのものが少なかった。相手ボールに転じたとき、対面の相手には誰よりも勤勉かつ積極的にプレスをきちんと掛けていたものの、マイボール時は一転、活気に欠けるおとなしいプレーに終始した。
だが、出場時間は1戦目が89分で、2戦目が90分だった。ハーツラー新監督からは、フルタイム出場が多かったデ・ゼルビ時代と同等の評価を得ているようだった。
アーセナル戦に先発、後半40分までプレーした三笘薫(ブラントン) Reuters/AFLO
しかし、筆者にはライバルとなりそうなシモン・アディングラ(コートジボワール)の動きのほうにピンときていた。開幕戦に続き、アーセナル戦の4日前に行なわれたリーグカップでもゴールを決めるなど、アディングラは数字も残していた。アーセナル戦でアディングラが左ウイングとして先発を飾る可能性も少なくないと見ていた。だが、それは杞憂に終わる。三笘は無事先発を飾り、85分までプレーした。
試合の結果は1−1。三笘のプレーは、過去2試合の評価をギリギリ6とするならば、6.5は十分出せそうな及第点のデキだった。だがそこには、後半4分に起きた、アーセナルのMFデクラン・ライス(イングランド代表)の退場劇が絡んでいた。不用意とも言える非紳士的プレーで2枚目の警告を受けたことと、1−1の結果は深い関係がある。
【三笘のプレーが光り始めた後半】
その時、試合はアーセナルの1−0のリードで推移していた。前半38分、ブカヨ・サカ(イングランド代表)と浮き球を競ったルイス・ダンク(イングランド代表)がその処理を誤り、サカにカイ・ハヴァーツ(ドイツ代表)のゴールにつながるアシストプレーを許していたのだ。
試合内容的にも60対40でアーセナル。だがアーセナルのホームであることを考えると、ブライトンは善戦していたとも言える。それに三笘がどこまで貢献できていたかは微妙だ。前半31分、惜しいボレーシュートを放っているが、自慢のウイングプレーは披露できずにいた。前戦(マンチェスター・ユナイテッド戦)同様の、お互いのプレスがよく掛かるレベルの高い好試合のなかで、三笘は地味にプレーした。
ライスが退場して10人対11人になると、さすがに試合の高級感は薄れたが、一方で三笘のプレーは光り始める。
後半7分、ヤン・ポール・ファン・ヘッケ(元U−21オランダ代表)からサイドチェンジ気味の展開パスを受けると、対峙するベン・ホワイト(イングランド代表)と1対1に挑んだ。突っかけていくドリブルモーションから、内へ行くと見せかけてグイと身体をきり返すと、ホワイトはそのトリックに引っかかった。きれいに逆を取られ、置いていかれた。そのマイナスの折り返しが跳ね返るところを、攻め上がっていた右SBジョエル・フェルトマン(元オランダ代表)がシュートに及んだが、相手DFに当たり、ゴールはならなかった。しかし今季ここまでで、三笘の真価が最も発揮された瞬間だったことは確かだった。
後半13分、ブライトンはダンクの縦パスを受けたヤンクバ・ミンテ(ガンビア代表)がシュート。その跳ね返りをジョアン・ペドロが蹴り込み、同点とした。
三笘もその2分後に見せ場を作る。今度は左DFジャック・ヒンシェルウッド(U−19イングランド代表)の縦に走る動きをおとりに使い、内に向けて、インサイドで測ったようなパスを送った。MFヤシン・アヤリ(スウェーデン代表)のシュートに結びつけている。
【はまる試合をどれほど増やせるか】
今季イチを更新するプレーは、その4分後に披露された。対峙するホワイトをいたぶるような動きから、たっぷり時間を掛けて料理した。内に行くと見せかけて縦。と見せかけてストップ。次の瞬間、急に縦に出ると、三笘はゴールライン際から鮮やかなマイナスの折り返しを決めた。アーセナルはGKダビド・ラヤ(スペイン代表)のセーブで難を逃れたが、さらにその直後にもファン・ヘッケからパスを受けると、今度はホワイトを抜ききらぬ間に、右足アウトでスライス気味のボールを相手GKとCBの間に送り込んでいる。
やりたい放題という感じだった。アーセナルは同点にされた後、5バックに変更。プレスを止め、守り倒そうとした。結果論では1−1の引き分けはそれが奏功した産物となる。
一方、三笘にとってはそれが幸いした。少なくとも目の前でふたりが構えたそれまでから、ホワイトひとりになったわけだ。サイドチェンジ気味のボールが三笘の足もとに入れば、3バックの一角である右CBがホワイトをカバーする動きは必然的に遅れる。ホワイトと1対1になる機会は自ずと増えた。
言い換えれば、三笘は相手の右SBと1対1にならない限り、仕掛けようとしなかった。もともとFWにしては慎重なタイプだが、確率の低いプレーは避けようとする姿勢はより強まっているかに見える。
右ウイングのミンテや、交代で入ったアディングラが流れのなかからウイングプレーに入るのに対し、三笘は制止した状態から入る。足もとでボールを受け、相手の右SBと駆け引きを行なう。ミンテやアディングラのプレーが荒々しく見える一方で、三笘のプレーが慎重で思慮深く見える理由だ。
前者がはまる試合もあれば、三笘がはまる試合もある。できればすべての試合にはまってほしいものだが、三笘のほうが周囲の情勢に影響を受けやすいように見える。はまる試合をどれほど増やせるか。今季の三笘に課題があるとすれば、そこになる。