土居志央梨、『虎に翼』で大注目の俳優に 細やかな表情芝居で成り立たせた“よねらしさ”
NHK連続テレビ小説『虎に翼』も気がつくと、終盤に差し掛かってきた。日本初の女性弁護士で、現在は裁判官として奮闘している寅子(伊藤沙莉)の成長もさることながら物語全体で大きな役割を果たし、その動向がいつも気になっていたのが、寅子の大学時代の友人、を超えて同志というべきよね(土居志央梨)である。そして彼女を演じた土居志央梨の存在は、広く世間に知られることとなった。ここでは、よねと土居の演技の魅力について掘り下げていきたい。
参考:『虎に翼』第111話、寅子(伊藤沙莉)が百合(余貴美子)の様子がおかしいことに気付く
■冷徹なほどのクールさ「ヘラヘラしてうっとおしい。お前みたいなのがいるから女はいつまでも舐められるんだよ!」
どこかで「みんなと仲良くしよう」と思っていたところがあった寅子は、出会った直後のよねにこう凄まれ、驚いて尻餅をついてしまった。その後もよねはいつも不機嫌で近寄りがたい雰囲気を出していたのだが、寅子の頑張りもあり、よねは寅子をはじめ、梅子(平岩紙)や香淑/香子(ハ・ヨンス)、涼子(桜井ユキ)や玉(羽瀬川なぎ)らと行動するように。次第に法律だけではなく様々なことを語り合う仲になった。
淡々として厳しい口調は、特に人の気持ちに寄り添いすぎて熱くなってしまう寅子と対照的で、彼女の言葉で寅子が冷静さを取り戻すこともしばしば。そしてそれは、年齢を重ねてからも変わっていない。
よねは喜怒哀楽でいうところの“怒”がすぐ表情に出るが、“喜”や“楽”は出にくい。だが、人や物事に対しては熱い想いを人一倍持っている。よねを演じる土居は、よねのそんなところや裏に隠れてしまうような真の想いを、表情の細部で演じているのではないだろうか。たとえば、よねが怒っているときの目はどこか悲しそうだし、褒められたときは口がもにょもにょとしてちょっと嬉しそうになる。その小さな変化が“よねらしさ”につながっている気がする。
■鋼のような信念 よねは学生時代は着物姿、戦後はスカートを着用する女性が多い中、ずっとパンツスーツの“男装”を貫いてきた。その理由を第103話では「男になりたいわけじゃない。女を捨てたかっただけだ」としっかり説明している。それは、姉が女郎に売られ自分も売られそうになったところを逃げ出してきたからでもあるし、「カフェー燈台」で女を騙そうとする男もその逆も、さらに心身ともにボロボロになったのにやっぱり男に頼らないと生きていけないと思い込む女たちをたくさん見てきたからでもあるだろう。
よねは弁護士になるための高等試験では筆記試験に合格するも、口頭試験で2度落ちている。試験官からは「弁護士になってもそのトンチキな格好は続けるのかね?」と聞かれているので、いつも通りの“男装”で臨んだことが不合格の原因になっている可能性は高い。だが、よねは受かるために自分を変えることは絶対にしなかった。決して意固地なのではなく、誰よりも「自分が守りたいもの」が明確にあり、まっすぐだったのだ。
■不器用だが温かい優しさ 学生時代はその生い立ちもあり「一緒に学んでいる人たちは自分より恵まれている」と思い込み、他人に対して自分の考えを押し付けるようなところもあったよね。しかし、寅子たちと出会ったことで人それぞれにいろいろな背景と家庭状況があることを理解しはじめ、特に自分の“男装”のように“世間からは理解されにくい人”、“いないことにされる人”に手を差し伸べるようになった。戦後、戦争孤児を支援する活動をしていたのも、そのひとつのように思う。
また、花岡(岩田剛典)の餓死を新聞で知り、自暴自棄になる轟(戸塚純貴)に対して、よねは「轟が花岡に“特別な想い”を抱いていたこと」をずばっと指摘し、彼の苦しい心情を吐露させた。このよねの行動があったからこそ、轟は立ち直って前を向くようになり今があると言っても過言ではないだろう。
第23週からは、原爆裁判がいよいよ本格化。ついに弁護士・山田よねとしての活躍が見られるかもしれない。寅子と同じように“地獄の道”を歩んできたよねの人生もまた、最後までしっかりと見届けたい。(文=久保田ひかる)