サッカー日本代表の2026年W杯アジア予選は、どんなメンバーで戦うべきか。識者に予選で狙うべきことや、本大会への成長戦略を聞いた。

前編「現実路線で考えると? 識者が考察したベスト布陣」>>

【主力7人をうまく生かしたメンバー選考を】

小宮良之(スポーツライター)

FW/上田綺世(南野拓実)(古橋亨梧) 
MF/三笘薫(中村敬斗)、鎌田大地、久保建英(堂安律) 
MF/守田英正(田中碧)、遠藤航 
DF/中山雄太、町田浩樹(冨安健洋)、板倉滉(高井幸大)、菅原由勢 
GK/鈴木彩艶(小久保玲央ブライアン)

 代表監督は、スペイン語で「Seleccionador」と呼ばれる。「選抜する人、選考する人」という意味である。一方でクラブ監督は「Entrenador」(トレーニングする人)と言われ、日々のトレーニングの積み重ねがベースにあるわけだが......。

 日本代表を率いる森保一監督は選手を選ぶ時点で、とてつもない責務を負っている。

「日本人が欧州トップでも優勢なのは、俊敏さや技術(意外性を含めた)やコンビネーションなど機動力や組織力の高さにある」

 それはひとつの定説だが、それを基準にしたメンバー選考になるだろう。

 その点、鎌田大地、久保建英、三笘薫の3人は外せない。彼らは世界トップレベルのテクニックやスピードで相手を打ち負かす。中盤で言えば、遠藤航、守田英正もなくてはならない。ふたりのバランス感覚は特筆に値する。冨安健洋、板倉滉も実力者だ。

 極論すれば、この7人を生かすメンバー選考をすることで、日本はアドバンテージを取れる。

 W杯アジア最終予選で7人全員をフル稼働させるのは、ケガなどのリスクを高める(例えば冨安はケガが多く、予選での招集は慎重になるべき)。ターンオーバーも取り入れる必要があるだろう。パリ五輪代表のGK小久保玲央ブライアン、DF高井幸大、MF藤田譲瑠チマ、荒木遼太郎などを試すタイミングもあるはずだ。

 しかし総入れ替えでは、「選手層の厚み」につながらない。当落線上の選手だけで試合に挑むのは危険な賭けだし、たとえ勝っても、「主力とどう嚙み合わせるか」の課題を残す。戦い方は大きく変わり、チーム力向上につながらない。

 日本は、カタールW杯以上に長くボールを持つ戦いを志すべきである。それができなければ、「W杯ベスト8」に辿り着けない。主導権を握ったサッカーをするための選手選考が大事になるわけで......。

 森保監督の選択が注目される。

【本大会を見据えて6つの課題をクリアできるか】

西部謙司(サッカーライター)

FW/上田綺世
MF/三笘薫、久保建英、伊東純也 
MF/守田英正、遠藤航(藤田譲瑠チマ) 
DF/中山雄太、冨安健洋(伊藤洋輝)、板倉滉、菅原由勢 
GK/小久保玲央ブライアン

 W杯本大会を見据えた時の、日本代表の現時点での課題は主に6つある。

(1)ウイングを活かすためのビルドアップ
(2)左サイドバック(SB)
(3)冨安健洋のバックアップ
(4)GK
(5)トップ下の人選
(6)センターフォワード(CF)

 攻撃での最大の武器は伊東純也、三笘薫の両サイドなので、そこへボールを供給する仕組みが必要だ。横浜F・マリノスのような「偽SB」がウイングへのパス経路を作りやすい。しかし、日本代表では試してみたがうまくいかなかった。

 今回、望月ヘンリー海輝を招集しているので、少なくとも右側で「偽」を使うつもりはないのだと思う。伊東に相手を背負った状態で受けさせる強引なビルドアップで押し通すつもりなのだろうか。

 左は中山雄太が復帰。「偽」のできる人材だが、バックアップが長友佑都。つまり「偽」のプランはなさそうな気がする。では、それに代わるものがあるのかどうか。そもそも中山、伊藤洋輝にしても、本職の左SBではない。「偽」ならありだが、そうでないなら人材不足のポジションである。

 今回招集されていない冨安健洋は負傷が多く、アーセナルでもレギュラーポジションを失っている。能力は文句なしだが、冨安を使えないケースは考えざるを得ない。

 GKも懸案事項だ。素質は鈴木彩艶、勝負勘で小久保玲央ブライアン。しかし決定版がいない状態。W杯本大会を勝ち進むにはGKの能力は絶対なので、成長に期待するしかない。

 トップ下は人材豊富といえるだろう。南野拓実、鎌田大地、久保建英がいて、レベルの高いポジション争いだ。課題というより、選ぶのが難しいというべきか。

 逆に激戦区ではあるが、誰を選んでも物足りないのがCF。スペインのアルバロ・モラタ、イングランドのハリー・ケイン、アルゼンチンのフリアン・アルバレス......。優勝するつもりなら、せめてこれくらいのCFがいないと難しくないだろうか?

【攻撃的な3バックシステムで圧倒したいところ】

中山 淳(サッカージャーナリスト)

FW/上田綺世(中村敬斗)久保建英(堂安律) 
MF/三笘薫、南野拓実、鎌田大地、伊東純也
MF/遠藤航 
DF/伊藤洋輝、板倉滉、冨安健洋 
GK/鈴木彩艶

 出場枠がほぼ倍増した新フォーマットのW杯アジア最終予選で、随一の戦力を誇る日本が敗退する可能性は極めて低い。今回の予選からは、勝敗だけにこだわって予選突破することだけを目標にせず、あくまでも本大会で目標を達成するために、どのアジアの相手に対しても圧倒的に勝つ、という命題を掲げて攻撃的なサッカーを貫きたい。

 もちろん、首脳陣は負ければ責任を問われるので、リスクをかけたくない気持ちはわかる。しかし、それでは主導権を握れずにラウンド16で敗退したカタールW杯と同じことを繰り返すだけ。日本サッカーの成長と発展につながらず、逆行することになってしまう。

 それらを踏まえて選択したいのが、攻撃的な3バックシステムだ。たとえば、両翼に伊東純也と三笘薫の強力ウインガーふたりを配置し、前線を2トップにする3−1−4−2。2列目は、ゲームメイクも飛び出しも得意な鎌田大地と南野拓実が敵陣でのポゼッションと崩しを円滑にしてくれるはずだ。

 後方のリスク管理は、プレーエリアが広くルーズボールの回収役に適任のキャプテン遠藤航。3バックは相手のロングボールに高さと強さで跳ね返せる3人(冨安健洋と伊藤洋輝は負傷により9月は招集外)がいれば、アジアの戦いでは十分だろう。

 とにかく、守るより攻める。いかに敵陣でボールを握って主体的に攻め続けられるか。その切磋琢磨を続けるなかで勝ち点を落としたとしても、日本が予選敗退を強いられるほどのリスクはないだろう。それこそが、本大会での目標達成の近道になると思われる。