浅野拓磨は、「森保チルドレン」のひとりに数えられる。森保一監督が黄金時代を作り上げたサンフレッチェ広島時代の麾下(きか)選手だった。その"愛され方"は筆頭格と言えるだろう。

 当然ながら、"親子"の相性は悪くない。

 カタールW杯で浅野は信頼に応えるプレーを示した。ドイツ戦に途中出場すると、ロングパスに対して右サイドで完璧なコントロールを見せ、自慢の快足を飛ばし、敵DFを振りきって、最後は角度のないところから冷静にGKマヌエル・ノイアーの守るニアサイドを打ち破った。結果的に、これが決勝点となって、ベスト16進出に大きく弾みをつけた。

 この1点だけでも、森保ジャパンでの浅野の起用は正当化されるかもしれない。しかし森保チルドレンの筆頭は、本当に代表で最大限の力を引き出されていると言えるのか?


サッカー日本代表の中国戦、バーレーン戦に招集された浅野拓磨(マジョルカ) photo by Mutsu Kawamori/MUTSUFOTOGRAFIA

 今シーズン、浅野はスペイン、ラ・リーガのマジョルカに入団している。開幕から定位置を確保。右サイドのアタッカーを中心にプレーし、爆発的に裏に走り込めるし、しつこい守備も見せ、高い貢献度を誇る。

「馬力」

 その高さが、彼の武器かもしれない。とにかく走力が高いだけに、攻撃に入るランニング、守備で寄せる出足でアドバンテージを取れる。

「Profundidad」

 スペイン語で言う「奥行き」を与えられるアタッカーと言える。スピードを生かして裏を狙い、ダイナミズムを生み出す。それ故、前線では万能のようにも見えるが......。

 浅野は、決してうまさがある選手ではない。身体能力を生かしたアクロバティックなシュートはあるし、ドイツ戦の得点のように神がかったコントロールを見せることもあるが、特例的だろう。プレッシャーを受けながらボールを収めて起点になったり、サイドからボールを運んで崩せたり、相手の意表を突くパスが出せるわけではない。

 たとえば、右利きで左からカットインしてシュートするプレーは、今や主流だが、右利きの浅野はシュートまではいけても精度は低い。逆に、右サイドから前に突っ込み、たとえ角度がなくてもシュートを叩き込める。それは異能のひとつだろう。これは利き目の違いも関係すると言われ(左から切り込むアタッカーは、利き目が左の場合、うまくゴールを視野に捉えられる)、右でプレーしたほうが怖い選手だ。

【右サイドで奮闘したレアル・マドリード戦】

 そういう意味で、浅野起用の最適解は、右サイドアタッカーになるのではないか。

 昨シーズン、ボーフムでバイエルンを沈めた一撃も、カウンターの場面、右を走って背後を取っていた。ボランチからのラストパスを受け、すばらしいコントロールからスライディングも見透かし、ファーサイドに流し込んだ(そのあとも、右サイドでキム・ミンジェと1対1になって際どいシュートを放っていた)。

 そして浅野が右サイドで輝くのは、トップに高く、強く、ロングボールが収まる選手がいる時と言える。

 マジョルカのハゴバ・アラサテ監督は、ワントップに身長194センチのポストマン、ヴェダト・ムリキを置くことで、浅野の走力の高さを引き出している。ムリキがボールを収め、競ることでできたスペースに浅野を走らせる。試合展開のなかでは左に回ることもあるが、右サイドが主戦場だ(ボーフムでも、フィリップ・ホフマン、モリッツ・ブロシンスキなど190センチ以上のFWが中央にいた)。

 開幕のレアル・マドリード戦、右サイドで対峙したフェルラン・メンディは走り回る浅野に手を焼き、苛ついていたのか、終了間際にレッドカードで退場処分になっている。第2節オサスナ戦では、セットプレーの流れから右大外でフリーになってヘディングを叩きつけたが、バウンドが大きく、そのままバーを越えた。ただ、右サイドでボールを呼び込む力があることは見せつけている。

 森保監督が率いる日本代表で、浅野はワントップで起用されることが多い。カタールW杯では、やや似たタイプの前田大然と入れ替わりで途中から入っている。その後、昨年、今年と、上田綺世がワントップで台頭し、さらに細谷真大、小川航基が積極的に登用されるなど、浅野の序列はやや落ちているように見える。所属クラブが降格の危機に陥って、移籍問題などの影響もあったが。

 浅野が世界と戦う武器になるとすれば、伊東純也を右サイドで使っていたのに近い使い方が最善かもしれない。190センチの長身FWは日本には見当たらないが、右サイドでは相手に脅威を与えられる。ゴールに近づけば近づくほど(それも大舞台で)、抜群の集中力から出た技術でゴールを狙える稀有な選手でもある。

 もっとも、自分たちが主導権を持った戦いを貫く場合、右サイドは久保建英、堂安律など、ボールを持って、運び、崩せるアタッカーがファーストチョイスになるだろう。

 ボーフムもマジョルカも強豪ではない。守勢に立った戦い方のなかで、浅野の能力を使いきる戦術だ。そして日本代表は、「W杯ベスト8」のためには、強者の戦いに舵を切るしかない。

 森保監督には"我が子"の使い方が求められる。