【連載】有村智恵のCHIE TALK(第4回・後編)

過去の連載記事はコチラ

 JLPGAツアー通算14勝をあげ、米国ツアーに挑戦した経験もあるプロゴルファーの有村智恵の連載・第4回。2022年オフに、妊活に専念するためツアーの一時休養を発表し、現在は双子の男児の母として奮闘しながら、30歳以上(45歳未満)の女性プロゴルファーのためのツアー外競技「LADY GO CUP」を主宰するなど精力的な活動も続けている。

 後編では、パリ五輪・女子ゴルフで惜しくもメダルを逃した山下美夢有選手のプレーを振り返ってもらいながら、アスリートでもあり、母でもある立場だからこその葛藤も語ってもらった。


山下美夢有は最終日にスコアを伸ばせずメダルを逃した photo by JMPA

>>前編「松山英樹の「珍しい表情が見られた」、パリオリンピック銅メダルの価値」を読む

――パリ五輪の女子ゴルフはどんな視点でご覧になっていましたか。

 まずは、"自分だったら"って思うんです。自分が代表争いをしているとしたら、ものすごいプレッシャーを感じると思います。それほどのプレッシャーのなかを戦い抜いて、代表権を勝ち獲ったふたり(山下美夢有選手と笹生優花選手)が、今度は国を背負って、代表になれなかった人たちの思いも背負いながら出場していた――そう思うと、変なプレーはできないと思ってコースに臨んでいたでしょうし、そこでまたプレッシャーがかかりますよね。

 コース自体も、曲がって左右にブレるのが絶対にダメなだけでなく、縦距離もブレちゃいけないコースだな、という印象でした。飛ばせばいいわけでもないし、でも飛ばせないと池越えグリーンを攻略するのがなかなか厳しい。誰が上位に来るのか本当にわからなかったですね。

 美夢有ちゃんのショットは曲がらないけど、すごく飛距離があるわけじゃありません。でも、(海外選手に飛距離のアドバンテージがあるなかで)"これぞ、日本人選手の戦い方"というのを体現したようなプレーを見せてくれて、すごく希望をもらえました。もちろん、本人は悔しい思いもあったでしょうが、私はすごく感動しましたし、ナイスプレーもたくさん見せてもらいました。

――山下選手のどのようなプレーが印象に残っていますか?

(セカンドショットの距離が残って)彼女がユーティリティを持たなければいけないホールは、堅くセーフティーなところに乗せて2パット、またはアプローチをしっかり寄せて2、3メートルのパットを決めてしのぐっていう場面が多くて、そうしなければいけないセッティングだったと思います。距離的に攻めるのが難しいホールもあったと思うのですが、攻められるホールは確実にバーディーチャンスにつけて、バーディーを重ねていました。

 守る時は、安定感のあるリカバリーショットと確実にパーセーブできるパッティング。攻める時には、しっかりチャンスにつけられるショット力とバーディーパットを決められるメンタル。美夢有ちゃんは距離感を合わせるのも上手な選手で、池の絡んだショットでも縦距離をしっかりと合わせてチャンスにつけることができていたので、彼女の強さがすごく出ていたなと思います。

――メダルまであと一歩でしたね。

 もう、2ホールだけでしたよね。2ホールというより、2ショットだけだったと思います。最終日の9番ホールの(寄せられず3パットにつながった)4打目のアプローチと、(ショートホールのティーショットで池に落とした)16番ホールのティーショット、ミスらしいミスはあの2打だけだったと思います。

――とりわけ終盤の優勝争いの最中、16番ホールの池に落としたティーショットが悔やまれます。山下選手らしくないミスというか、オリンピック独特のプレッシャーもあったのでしょうか。

 彼女は2年連続でメルセデス(・ランキング)の年間女王になっていますが、そこの争いとはまた違うプレッシャーがあったと思うんです。普段のシーズンでも終盤にはランキング争いやシード争いがありますけど、ここまで一打一打に想いを乗せて、普段の一打とは違う重みを感じながらプレーすることはあまりなかったと思うので。それでも、そうした経験はなかなかできないと思いますし、そのプレッシャーのなかで戦っている姿には本当に感動しました。

 16番ホールもミスショットという感じではなくて、風の読み違いなのか、ちょっとした不運だったのかなと思います。実力的には、十分メダルを獲れるだけのものがありました。だからといって、「次は4年後(頑張って)」なんて簡単には言えないですよね。ですが、本人も絶対にこれからもっともっと強くなるでしょうから、また違った世界を見せてもらいたいなと思います。

【ゴルフに関しては、私が厳しいから(笑)】

――お子さんにもゴルファーになって、そういう経験をしてほしいといった思いはありますか?

 本格的にはやらせるつもりはないんですけど、本人がやりたいって言ったらやらせるかな。でも(子どもたちは)やりたいって言わないんじゃないかな。

――なぜでしょう?

 ゴルフに関しては、私が厳しいから(笑)。「本格的にゴルフをやるならこれだけ練習しないといけないよ」って言っちゃうと思うんです。でも、何かスポーツをやりたいって言ってくれたら、やらせてあげたいなと思いますね。

――ゴルフはほかの競技に比べて練習時間も長いですもんね。

 ゴルフは走るスポーツじゃないですから、練習時間も長いんですよね。練習だけで10時間近くやることもありますし、それに加えてフィジカルやメンタルのトレーニングなど、いろいろとやらなければいけないことがあります。

 そして、どのスポーツでもそうだと思いますけど、体が資本なので、いろんなことを我慢する必要があります。オリンピック後に、選手たちが「(日本に帰ったら)何をしたいですか?」と聞かれて、今まで体のことを気遣って食べられていなかった「あれが食べたい」とか、「こういうことやってみたい」っていうコメントが多かったのは、制限があったことの裏返しですよね。

 練習時間にだけ練習すればいい、ではなく、24時間365日、その競技のために人生を捧げないといけないので、(子どもから)「スポーツをしたい」って言われたら、私は24時間365日がスポーツのためにっていう考え方だから、たとえば子どもがお菓子を好きなだけ食べていたら、「それ、体のためによくなくない?」とか言っちゃうと思うんです。競技としてやるのか、遊びでやるのかで取り組み方も変わってくるのに、自分のほうがほどほどにできないんじゃないかなと思います(笑)。

――お子さんに挑戦してほしい競技はありますか?

 体操とか水泳は小さい頃に経験させてみたいですね。

 去年、(有村選手がウェア契約している)New Balance社のパーティーがあって、東京ヤクルトスワローズの青木(宣親)選手と村上(宗隆)選手が同じテーブルだったんです。当時私は妊娠中で、男の子の双子っていうのもわかっていたので、おふたりに「スポーツだったら何をさせたらいいと思いますか?」って聞いてみたんです。

 そしたら、青木さんが「水泳と体操」とおっしゃってくださって。水泳は圧倒的に体力がつくし、肺活量もつけられる。体操は体のバランスがよくなるから、と。おふたりともがそうおっしゃっていたので、そう言われたら絶対に体操と水泳をさせたいって思いますよね。

――お子さんが何のスポーツをされるにせよ、有村親子に期待しています!

 期待はしないでください! 期待されたら頑張っちゃうから、私が。絶対厳しくなると思う(笑)。

 でも、自分自身もそうでしたけど、すべてを注ぎ込んで結果が出た時の快感っていうのは、どんな遊びよりも楽しくて、その快感を上回れないんです。遊ぶことももちろん楽しいんですけど、努力して結果が出るまでの過程で得られる、気持ちの高まりだったり、報われた時の達成感だったりは、全力を注いできた人じゃないと味わえないと思うので。とにかく、何かに一生懸命取り組むことは、一度は経験してもらいたいですね。

 そして、スポーツに限らず、社会に出たら、何かに一生懸命取り組むと自然と自分でいろいろと考えるようになりますよね。私はゴルフを通してそれを経験させてもらったな、と感じています。

「有村智恵のCHIE TALK」 次回は9月3日(火)に更新予定

【Profile】有村智恵(ありむら・ちえ)
1987年11月22日生まれ。プロゴルファー。熊本県出身。
10歳からゴルフを始め、九州学院中2年時に日本ジュニア12〜14歳の部優勝。3年時に全国中学校選手権を制した。宮城・東北高で東北女子アマ選手権や東北ジュニア選手権、全国高校選手権団体戦などで優勝。2006年のプロテストでトップ合格。2007年は賞金ランク13位で初シードを獲得した。2008年6月のプロミスレディスでツアー初優勝。2013年からは米女子ツアーに主戦場を移した。2016年4月の熊本地震を機に日本ツアーへ復帰。2018年7月のサマンサタバサレディースで6年ぶりの優勝を果たすなど、JLPGAツアー通算14勝(公式戦1勝)をあげる。
2022年に30歳以上の女子プロのためのツアー外競技「LADY GO CUP」も発足させた。
2022年11月に、妊活に専念するためツアー出場の一時休養を表明。2024年4月に双子の男の子を出産した。

◆インタビュー動画はこちらから
https://youtu.be/_179xTXAqG0