久保建英のスタメン落ちは「仕方ない」とスペイン人記者 監督は「望むのは毎試合その力を発揮してくれること」
開幕2戦目にしてベンチスタートとなった久保建英だが、6カ月ぶりのゴールでチームを今季初勝利に導いた。今回はスペイン紙『ムンド・デポルティボ』でレアル・ソシエダの番記者を務めるウナイ・バルベルデ・リコン氏に、開幕から2試合で見せた久保のプレー、およびエスパニョール戦でのゴールパフォーマンスについて言及してもらった。
久保建英はエスパニョール戦で見事な決勝ゴールを決めた photo by Getty Images
昨季の終わりにも書いたが、肉体的に非常にハードな1年を終えた久保建英は、パリ五輪には参加せず休養を取り、プレシーズンをフルにこなすことが、2024−25シーズンをいい形で迎えるカギになると強調していた。それは久保が本来のレベルを取り戻し、次のステップに進むために重要なことだった。
ミケル・メリーノ(※アーセナル移籍が濃厚)とロビン・ル・ノルマンを失った上に、補強が欠かせないセンターバックとセンターフォワードをまだ獲得できていないことで、チーム状態は昨季よりも悪くなっている。この状況を打破するためにラ・レアル(レアル・ソシエダの愛称)は、久保の創造力と得点数の伸びをこれまで以上に必要としている。久保はチームが欧州におけるトップレベルのステータスを維持する上で、必要不可欠な要素なのだ。
プレシーズンのラ・レアルの成績は芳しくなかった。多くの選手を代表戦で長期間欠き、獲得した選手の合流も遅れ、イマノル・アルグアシル監督は下部組織の選手たちを起用せざるを得なかった。久保もラ・リーガ開幕に向けていいコンディションで臨める好条件が揃っていたにもかかわらず、いいパフォーマンスを発揮できていなかった。
チームのパフォーマンスは指揮官の望むものとはほど遠く、7月下旬の日本遠征(※ガンバ大阪と対戦)も足かせとなった。遠征は行なわないとクラブから告げられていたにもかかわらず、直前で実施決定したことをまったく好ましく思っていなかったが、日本のヤスダグループがクラブのスポンサーである点も十分理解していた。ラ・レアルはガンバ大阪に勝利したものの、長距離移動によって1週間の準備期間を失うことになり、母国で注目を集めた久保にも影響があった。
ホームで行なわれたラ・リーガ開幕戦、イマノルは合流間もない主力の何人かを先発起用し、久保もスタメン入りした。しかし、ラ・レアルのプレーは非常に悪く、ラージョ・バジェカーノにふたつのミスを突かれて敗北を喫した(1対2)。
久保は右サイドで何度もトライしたがうまくいかなかった。昨季終盤と同じように判断を何度も誤り、ゴールチャンスを作れなかった。さらに疲労困憊から何度も身をかがめては呼吸を整えていたため、後半23分にピッチをあとにした。
【スタメン落ちは、チーム状況的に仕方がない】初戦をひどい内容で敗れ、大黒柱のミケル・メリーノに別れを告げなければならず、アンデル・バレネチェアの新たな負傷が発覚......。さらにチームを構成する上で必要な攻守の要となる補強をできていなかったこともあり、第2節エスパニョール戦に向けたチームとサポーターの士気は、あまり高くなかった。
8月28日(水)にホームで第3節アラベス戦、9月1日(日)にアウェーで第4節ヘタフェ戦に臨むため、エスパニョール戦では最小限のローテーションが行なわれた。チーム全体の調子が不安定だったのとラージョ戦での悪いイメージを払拭するために、イマノルは適切な処置を施そうとして先発メンバーをふたり入れ替えた。
ウルコ・ゴンサレスに代わってマルティン・スビメンディが中盤に入り、右ウイングにはセルヒオ・ゴメスが起用された。そのため久保はベンチスタートとなった。セルヒオ・ゴメスは開幕戦では途中出場からミケル・メリーノの左インサイドハーフに入ったが、この日は右ウイングでのプレーを指示された。
ラ・レアルサポーターも専門紙も、久保のスタメン落ちはチーム状況的に仕方ないことだと受け止めていた。チームのフィジカルコンディションの悪さや過密日程、ラージョ戦の内容のひどさから何かを変えざるを得ないため、エスパニョール戦ではテコ入れが必要だった。イマノルはシェラルド・ベッカーとミケル・オヤルサバルへ信頼を寄せ、セルヒオ・ゴメスは五輪で見せたレベルの高さにより、久保の代役を十分務められる選手と位置づけられてのローテーションだった。
しかし、今回のベンチスタートはあくまでローテーションであり、アラベス戦とヘタフェ戦の先発候補であることは間違いない。一方、もしエスパニョール戦で久保が先発していたなら、おそらくアラベス戦は控えに回っていたはずだ。
エスパニョール戦で久保の代わりにスタメン起用されたセルヒオ・ゴメスはチームの主な決定機を演出するいいプレーを見せたが、チームのパフォーマンスはそれほど向上しなかった。守備の堅さは示したものの、チャンスを生み出すのに苦労していた。
その流れを変えるため、イマノルは後半21分に最初の交代で久保を投入する。これによりセルヒオ・ゴメスは中盤にポジションを移した。久保は徐々に右サイドを支配し始め、何カ月も前からいいパフォーマンスを発揮できていなかったことに対する"怒り"を積極的に生かしたような、自身の価値を証明する決定的な働きをしてみせた。
久保は正真正銘の"ゴラッソ"を決めたのだ。相手左サイドバックと対峙し、鮮やかな股抜きで決定機を作り、左足でGKジョアン・ガルシアを撃ち抜く見事なシュートで1−0にした。さらに終盤に重要なファウルを誘発して時間を稼いだ。ラ・レアルが今季初勝利を手にしたのは彼のおかげだ。
ベンチスタートからチャンスを生かした久保は、すばらしいプレーで先発であるべきことを証明した。久保にとってここ7カ月間で2点目、2月18日のマジョルカ戦以来のゴールとなったが、チームにとっても重要な意味を含んでいる。それは「久保がゴールを決めるとラ・レアルは負け知らず」というもの。その成績は15勝1分けとなっている。
【物議を醸したゴールパフォーマンス】決勝点を決めた久保のゴールパフォーマンスを、多くのサポーターや記者はあまり理解していなかった。得点に喜びを感じることなく、腹を立てた表情のまま駆け寄るチームメイトを振り払い、両耳に手を当て、ユニフォームの自分の名前を誇示してみせた。
それは自分をスタメンから外したことに怒りを示すためのイマノルに向けたメッセージだったのか、スタンドから浴びせられた侮辱や罵声への反応なのか、あるいは批判を受けたことへのリアクションなのかは定かではない。いずれにせよ、彼は何かが気に入らなかったのだ。
久保が控えに回ったのは、今後数週間に渡って多くの試合が行なわれる点を考慮した監督の戦術的な判断によるベンチスタートだった。しかしその事実以上に、SNSやメディアだけでなく、チームメイトが反応したこともあって、ラ・レアルの周囲ではニュースになった。
この試合のMVPに輝いたスビメンディは試合後、久保のゴールについて質問された際、先発メンバーに入れなかったことに対する久保の怒りを仄めかした。
「タケはスタメンでないことを知った時、顔を少し曇らせていたが、ベンチから試合に入る選手として正しい姿勢でピッチに出て、僕たち全員を黙らせた」
イマノルは試合後、久保のベンチスタートが「戦術的な判断」だったと明かし、今回のように途中出場の選手の貢献がいかに重要かを訴えた。
「才能があれば違いを生み出すのはより簡単だし、タケは今日、それをやってのけた。ある記者が私に、タケが2月以降ゴールを決めていなかったことを思い出させてくれたが、あのような才能やクオリティを備える選手にとって、その期間はあまりにも長過ぎた」
「彼は今日ゴールを決めてくれたが、我々が彼に望むのは毎試合その力を発揮してくれることだ。彼にはこれまでも出場時間やチャンスがあった。あのゴールが彼の助けになるかを見ていくが、個人的にもチームとしても助けになってくれると思う。ベンチスタートの選手が今日のように出場し、チームに貢献してくれることがとても重要だ」
物議を醸したゴールパフォーマンスについても質問されたが、重要視していなかった。
「彼は多くの選手が普段やるようにゴールを祝い、ユニフォームの自分の名前をカメラに示していた。私はそう理解しているが、それは彼に聞いてほしい。特別な人に捧げたかったんだと思う」
ラ・リーガ開幕早々に大きな話題を呼んだ久保はこのあと、今季最初の過密日程に臨み、代表戦を迎えることになる。
(郄橋智行●翻訳 translation by Takahashi Tomoyuki)