「ディズニープラス」トップに聞く上陸4年間の手応え。「SHOGUN 将軍」大ヒット、日本の配信市場「まだまだこれから」
日本において「ディズニープラス」を指揮・統括しているデイブ・パウエル氏
動画配信サービス「ディズニープラス」が日本でサービス開始5年目を迎えた。ディズニーやピクサー、マーベル、スター・ウォーズなど、さまざまな作品を楽しめるほか、今年2月には真田広之主演・プロデュースのオリジナルドラマ「SHOGUN 将軍」が世界的な大ヒットを記録、米テレビ界の“アカデミー賞”とも言われる「第76回エミー賞」では作品賞・主演男優賞など主要部門を含む最多25ノミネートを記録するなど、高い評価を集めている。
そんなディズニープラスを日本において指揮・統括しているデイブ・パウエル氏にインタビューを実施。サービス開始からこれまでの手応えや、今後の展望などを聞いた。
ディズニープラスはディズニーがグローバルで展開する定額制公式動画配信サービス。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズ、ナショナルジオグラフィック、スターの6ブランドの名作・話題作を楽しめる。日本では2020年6月にサービスを開始した。
今回インタビューを行なったパウエル氏は2001年に来日。SalesforceやServiceNow、GoogleのYouTube部門などを経て、2022年6月にディズニーに入社し、日本を含むアジアの国や地域でのディズニープラスのサービス展開を統括している。
上陸4年で「サービスを確立」。日本のために「市場環境を考慮して作品を作り上げてきた」
――ディズニープラスが日本に上陸して5年目を迎えました。サービス開始から、これまでの手応えを教えて下さい。
パウエル氏(以下敬称略):(日本上陸を果たしてから)短期間ではありましたが、そのなかでしっかりとディズニープラスというサービスを確立できたと自負しています。日本の有料配信プラットフォームという点で考えると、競合他社は(ディズニープラスより)長くサービスを続けているのに比べて、(短期間で)確立できたと思っています。
また日本でサービスをローンチした際、ハリウッド作品に日本語字幕をつけて配信することにとどまらず、ローカルコンテンツの作品の制作や調達をめざしてきました。2021年以来、APAC全体で100タイトル以上のコンテンツを発信していて、その多くは受賞歴のあるものばかりです。ディズニープラスのためにいろいろな作品を、市場環境を考慮しながら作り上げてきました。
『カジノ』 ディズニープラス スターで全話独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities
『殺し屋たちの店』 ディズニープラス スターで全話独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities
直近では釜山映画祭、青龍シリーズアワードなどで賞を受賞するなど認められていて、とても高い評価を得ています。ディズニープラスで配信している「カジノ」や「殺し屋たちの店」、「ムービング」、日本発のオリジナル作品である「ガンニバル」も受賞しています。
韓国ドラマ『殺し屋たちの店』|予告編
『ムービング』 ディズニープラス スターで全話独占配信中
(C)2024 Disney and its related entities
『ガンニバル』 ディズニープラス スターで全話独占配信中
(C)2024 Disney
(編注:「殺し屋たちの店」は'24年の第3回青龍シリーズアワードで助演女優賞を、「ガンニバル」で主演を務めた柳楽優弥は'23年の釜山映画祭でアジアエクセレンスアワードを受賞している)
『SHOGUN 将軍』 ディズニープラスで独占配信中
Courtesy of FX Networks
パウエル:そして数カ月前にリリースした「SHOGUN 将軍」は、非常に大きな成功を収めました。プロデューサーを務める真田広之さんが、ストーリーや役者の所作なども含めて、時代考証なども踏まえたリアルなものを描くために時間と想いを込めた作品です。
『SHOGUN 将軍』|本予告
先日発表されましたが、エミー賞ノミネートでは25部門ノミネートという歴史的快挙を成し遂げました。これは今年のどのドラマシリーズよりも多いノミネートです。メインが日本人のキャストで、劇中でメインに使われている言語も日本語の作品が、エミー賞という世界的なステージに登場したことは快挙だと思っています。
ノミネートされている賞も作品賞や真田さんの主演男優賞、アンナ・サワイさんの主演女優賞など、メインのカテゴリばかり。アメリカでポピュラーな朝のトーク番組に真田さんが出演し、日本や日本の文化、作品について語っているのを目にすると、胸に来るものがありました。
サワイさんも、夕方から夜にかけて放送されるアメリカ国内の人気トーク番組に出演されています。そういった人気番組に出演していることからも、アメリカの観客がどれだけ「SHOGUN 将軍」という作品に惹かれているかを分かってもらえるのではないでしょうか。
今「SHOGUN 将軍」という作品は、独特なポジションにあると思います。そもそも世界の映像業界の中でも、日本の映像業界は注目を浴びている。そのなかでも「SHOGUN 将軍」は特にスポットライトが当たっている作品だと思います。
こういった「SHOGUN 将軍」のような作品、そして日本で制作している実写作品やアニメ作品、そして受賞歴のあるアメリカの作品、こういったものすべてが日本におけるディズニープラスのサービスの幅を広げています。日本の方々にとっても、総合的なエンターテイメントが楽しめるものとして、ディズニープラスは絶対に契約しておきたい“マストハブ”な存在であると感じていただけているのではないでしょうか。
――世界的に大きな話題となっている「SHOGUN 将軍」ですが、その勢いと比較すると日本ではやや盛り上がりに欠けている印象もあります。
パウエル:そもそも原作小説の認知度が、海外のほうが高いことが一因かもしれませんね。原作の歴史小説「将軍」は日本以外に住んでいて、少しでも日本のことが好きな人であれば誰もが知っているというような小説なのです。
私も子どものときに読んだことがありますし、私の父も読んでいました。アメリカで人気のある「将軍」が、日本でどのように受け止められるのか、とても興味がありました。原作小説ではアメリカの“レンズ(視点)”を通して見た日本の歴史が描かれていますからね。
ドラマも全話を5~6回は通して観ていて、お気に入りの作品のひとつです。
日本のアニメにも注力。スポーツ配信は?
――競合他社からは日本の人気コンテンツを使った日本発作品が増えてきていますが、ディズニープラスとしての取り組みや反響について教えて下さい。
パウエル:日本発のローカルコンテンツは人気が高く、お客様の需要に応えるため「ガン二バル」や「七夕の国」のような日本発作品を制作しています。まず日本の方に観ていただき、世界に向けて、ディズニープラスやHuluで配信しています。とても大きな反響を頂いていますよ。
そしてやはり、日本のアニメは世界中で幅広い人気があるコンテンツです。例えば講談社との戦略的協業により「東京リベンジャーズ」聖夜決戦編、天竺編をディズニープラスで世界見放題独占配信したときにも注目を集めました。
――日本の動画配信サービスではドラマやアニメ以外のコンテンツ、特にスポーツなどのライブコンテンツに力を入れているサービスが増えてきてます。Disney+もグローバルではスポーツ専門チャンネル「ESPN」を配信していますが、日本では未展開です。こうしたコンテンツへの取り組みについては?
『BTS: PERMISSION TO DANCE ON STAGE - LA 』 ディズニープラスで独占配信中
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パウエル:ディズニープラスではここ数年、スポーツや音楽などの作品がどのように受け入れられるか試行錯誤を続けてきました。人気作品のひとつはBTSが2021年にロサンゼルスで行なった公演「BTS: PERMISSION TO DANCE ON STAGE - LA」です。また、日本では羽生結弦が2023年に行なった東京ドーム公演「Yuzuru Hanyu ICE STORY 2023 “GIFT” at Tokyo Dome」を独占ライブ配信し、現在も特別版として配信しています。
『Taylor Swift | The Eras Tour (Taylor's Version) 』 ディズニープラス スターで独占配信中
(C)2024 TAS Rights Management LLC.(C)2024 Disney and its related entities.
音楽系の作品は成功を収めていて、テイラー・スウィフトが開催中の世界ツアー「The Eras Tour」を映像化した「Taylor Swift | The Eras Tour (Taylor's Version)」を独占配信しています。
こういった形で試行錯誤しながら、どのような作品がディズニープラスにとって、もっとも最適なものかを見据えようとしています。
Apple Vision Proや最新フォーマットに取り組む意味。日本の市場は「まだまだこれから」
パウエル氏も言及しているとおり、ディズニープラスはディズニー、マーベル、スター・ウォーズ、そして「SHOGUN 将軍」をはじめとするオリジナル作品など、豊富な作品ラインナップが魅力のひとつだが、最大4Kの高画質、5.1chや立体音響フォーマットのDolby Atmosの高音質で楽しめるのも特長となっている。
さらにIMAX Enhancedや立体音響フォーマットのDTS:X、日本では6月28日に発売されたアップルの“空間コンピュータ”「Apple Vision Pro」にもアプリを用意するなど、最新フォーマット・プラットフォームにも積極的に対応している。こうした姿勢を続ける意図についても聞いてみた。
――プラットフォームとして、ユーザーが決して多くないApple Vision Proにもディズニープラスのアプリを用意して積極的に対応していますが、その理由は?
パウエル:そもそもディズニーはアップルと長い関係性を持っています。それこそ最初にiTunesに作品を提供したのが我々ディズニーでした。さらに革新的なことをする、新しい形でのストーリーテリングを行なう、これこそがディズニーのDNAでもあります。
Apple Vision Proでディズニープラスが提供する体験は、ほかでは味わえないものです。アップルの最先端技術とディズニーが100年以上培ってきたストーリーテリングが融合したとき、どんな体験ができるのか、ぜひ多くの方にご体験いただけると嬉しいです。
アプリには、映画を楽しめるバーチャル環境として「ディズニープラスシアター」や「アベンジャーズタワー」、「モンスターズ・インク」、スター・ウォーズの「タトゥイーン」と4つの空間を用意しています。アベンジャーズタワーの最上階は足がすくむほどの臨場感ですよ。
また、どの環境もディテールにも凝っているので、体験する機会があればぜひ細部まで目を凝らしてほしいです。アベンジャーズタワーでは、ぜひ横にある電話機の短縮ダイヤルに誰が登録されているのかをチェックしてみてください。そういった細かいところまでこだわって作られているので、ぜひ体験してほしいです。
なにより自分の居住空間の広さに関わらず、Apple Vision Proを使えば現実のスペースにとらわれないスクリーンでディズニーの作品を楽しんでいただけます。
――日本のApple Vision Proユーザーからの反響はどうですか?
パウエル:先日オフィスで社員向けのデモも行なったところ、全員満面の笑みでした。誰もが同じような反応で、新しいストーリーテリングの体験方法として、これから楽しんでいただけるものだと思います。ユーザーとのエンゲージメントという観点でも、当初の想像以上の効果があり、こちらにも満足しています。
――Apple Vision Proに限らず、ディズニープラスはIMAX Enhancedなど他社より先行して新しい音響/映像技術を採用していくことが多いように感じます。
パウエル:ユーザーに選択肢を提供したいと思っていますし、最高の体験を提供したいという思いがあるからです。IMAX Enhancedも、そのひとつです。例えばIMAX Enhancedを使うことで、劇場作品向けにクリエイターが意図したとおりの画質、あるいは音質を体験していただくことが、私たちにとって重要なのです。
IMAX Enhancedの対応コンテンツには壮大な映像と音響が魅力のマーベル・スタジオ映画に加え、IMAX Enhanced用にデジタルリマスターし、DTS:Xにも対応したクイーンのライブ映像「QUEEN ROCK MONTREAL」を用意しています。フレディ・マーキュリーの活躍をリアルタイムに体験できなかった世代の人も、ディズニープラスであればいきいきとした姿を見ることができるのです。
――最後に、今後の展望についても聞かせてください。
パウエル:我々のゴールは変わらず、日本のユーザーに“マストハブ”な配信サービスとしてディズニープラスを観ていただけるように尽力していきます。特に日本の配信市場についてはまだまだこれからで、(成長する)余地が大きくあると思っています。例えば動画配信ビジネス全体の市場規模は2019年から2024年で2倍に成長しています。2024年第1四半期だけでも、市場全体の加入者数が65万人増加しているという調査もあります。
それに比べると、日本市場はまだまだこれから。市場規模を測るうえでひとつの指標となるのが世帯数です。配信が主流となっているアメリカでは80%の世帯で何らかの配信サービスに加入していますが、日本は30%程度に留まっています。
また、市場自体にも変化を感じていて、ひとつの動画配信サービスだけに加入するのではなく、複数サービスに加入する人も増えてきています。日本の配信市場においても、国内投資、ウォルト・ディズニー・カンパニーをはじめとする海外企業からの投資も増えていることを踏まえても、市場成長への期待は大きいと思います。
『七夕の国』|本予告
配信ラインナップの豊富さに加え、IMAX Enhanced、DTS:X、Apple Vision Proへの対応など「自宅で映画館と同等の体験」にも力を入れているディズニープラス。配信中の「ガンニバル」や宮藤官九郎企画・監督の「季節のない街」、7月から配信がスタートした「七夕の国」など日本オリジナル作品も増えてきており、さらなる話題作の登場にも期待したいところ。
インタビュー後にはApple Vision Proのデモも行なわれた
Apple Vision Proについては価格の高さもあり、気軽に体験できるものではないが、インタビュー後にデモを体験してみると、どのバーチャル環境も細かいところまで作り込まれており、例えばモンスターズ・インクのバーチャル環境では、自分の脇に“出現”するPCディスプレイに貼り付けられた付箋にもメモや指示が書かれている再現の細かさ。
そういった細部まで再現された空間でディズニープラスのコンテンツを楽しめるのは、競合他社には簡単に真似できない、ディズニーならではの強みに感じられた。まったく同じ体験とはいかずとも、Meta Quest 3やPS VR2など、他社製HMDでも同等の体験ができればと思わずにはいられない。
ちなみにパウエル氏が言及していた電話機の短縮ダイヤルにはソーやペッパーなどの名前が記されており、なかでも短縮1番にトニー・スタークの好物であるハンバーガーショップが登録されているのが印象的だった。