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 様々な抗がん剤の出現により、将来、癌(がん)治療に手術は必要なくなるのでは?という淡い期待があります。今回は、直腸癌についての話です。

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 直腸という臓器は肛門から約18センチまでの腸管を示します。個体差はありますのでおおよその話です。直腸周囲には、男性であれば前立腺、精嚢、膀胱があり、女性には膣、子宮、膀胱、卵巣があります。

 癌の手術は、腫瘍を取るだけは不十分なので、周囲のリンパ節も一塊として切除します。また、周囲に癌が広がっていれば周囲の臓器も切除しなければなりません。その影響で、排尿障害、性機能障害、便失禁などの術後の合併症が起こることがあります。また、癌が肛門に近いと人工肛門になることもあります。

 欧米では、術前に放射線、抗がん剤を用いた治療が以前から普及しており、一部の患者では、手術をしなくても病理学的に癌が消失していることが分かっていました。

 そこで、癌が消失している人たちに手術は必要ではないのではないか?という当時としは、画期的な発想が生まれました。今から20年前のこと。固形癌に対しては手術が絶対的治療であった2004 年に、ブラジルの Habr-Gama さんにより手術をせずに放射線、抗がん剤のみで治療を完遂するという報告がされました。

 癌の進行具合、場所などにより適応は限られてきますが、一部の患者さんでは手術をせずに癌が治癒するというのは大きなメリットがあります。特に、本来であれば肛門を残すことができなかった患者さんにとって、放射線、抗がん剤の投与で癌が消失すれば大きなメリットです。

 この治療法は確立された治療法ではなく、またどこの病院でもできる治療ではありません。肉眼的に癌が消失したとても、比較的短期間で内視鏡、MRI、診察をうけて癌を再度見つけた場合には、速やかに外科的治療を行うことが必要です。診断技術が高く、手術のレベルが高い日本においては、この時期においても比較的安全に手術ができます。今後の進歩に期待される治療です。

◆谷光利昭 兵庫県伊丹市・たにみつ内科院長。外科医時代を経て、06年に同医院開院。診察は内科、外科、胃腸科、肛門科など。