液状化被害の大きい、内灘町西荒屋の住宅地。住民の多くが避難生活を続けている(撮影:筆者)

能登半島地震では、震源地から遠く離れた場所でも液状化の被害が発生した。石川県内灘町やかほく市大崎地区では、液状化に伴って地盤が横方向にずれる「側方流動」が生じ、多くの住宅が損壊した。

かほく市は7月中旬に液状化被害に関する支援策を発表。住民説明会を実施するとともに、7月22日から支援策の相談・申し込み受け付けを開始した。内灘町も支援策を決定し、8月20日から町内の地区ごとに支援策に関する説明会を開催する予定だ。

被害があった住宅の再建はどうなるのか。7月中旬、液状化被害の爪痕の大きい内灘町や、かほく市大崎地区の実情を取材した。

県庁所在地の金沢市から車で30分走ると、「砂丘のまち」として知られる内灘町に入る。平均標高約20メートル、幅1キロメートルにも達する広大な砂丘の上には新興住宅地が広がっている。一方で、そこから河北潟の干拓地に向かって急な坂を下ると景色は一変した。

砂丘の下に広がる、古くからある集落を貫く「松任宇ノ気線」(県道8号線)は道路の至る所がでこぼこ状態で、周囲には不規則に傾いた住宅が並んでいる。下水道も応急復旧の工事が続いていた。

知られざる液状化の被害

内灘町で最も被害が大きかったのが町北部の西荒屋地区だ。住民の戸田清美さんに自宅の周辺を案内してもらった。


自宅の被害状況について説明する戸田清美さん(撮影:筆者)

戸田さん宅では液状化により玄関の柱が傾き、ホームセンターで買ってきた金具で支えている状態だ。塀も倒れかけ、玄関前の床にはひびが入っている。ただ、「住宅そのものの被害はわずかで、幸いにも傾きはほとんどなかった」(戸田さん)。そのため、夫婦2人暮らしの生活を続けている。

他方、周囲を見渡すと被害の大きさは一目瞭然だ。

「このあたりの住宅街を見てください。道路がでこぼこでしょう。側溝も砂がたまったままで位置も変わってしまっています。自宅と隣家の境界線も分からなくなっている。被害が大きい住宅では家の中でも砂が噴き出している。復旧には相当の年月がかかるでしょう」(戸田さん)

現在、戸田さん宅および周囲の12世帯のうちで住み続けているのは4世帯のみ。多くの住民は仮設住宅や親戚宅で避難生活を余儀なくされているという。

内灘町は、能登半島の震源域から約100キロメートルも離れている。そのため震度は5弱にとどまり、奥能登のように建物の1階部分が倒壊する事例はなかった。しかし、この町の特有の事情が住宅被害を大きくしている。

昭和30〜40年代に河北潟を干拓した際、砂丘地の裾野のあたりを掘削して土砂を採取。その結果、地面の下の浅い部分を地下水が流れるようになった。そこに今回の地震が襲い、地盤が液状化して横に動く「側方流動」と呼ばれる現象が起きた。

そのため、内灘町やかほく市の大崎地区では、液状化による傾斜や沈下といった住宅の被害が続出。住民は今も壊れたままの自宅や避難先での生活を余儀なくされている。小学校や保育所も閉鎖され、小学生や園児は別の学校や保育所に遠距離通学しているのが実情だ。


内灘町西荒屋区長の黒田邦彦さん。西荒屋公民館の裏手の公園は液状化で段差が生じた(撮影:筆者)

西荒屋で行政区長を務める黒田邦彦さん宅は被災の程度が「大規模半壊」と判定された。建物が傾き、現在は隣町にある妻の実家で避難生活を送っている。

「5分もいるとめまいがして平衡感覚がなくなると妻が言い出したので、自宅にいるのは無理だと考えた」と黒田さんは説明する。そのうえで今後については「住宅の傾きを直したうえで再び住み続けたい」といい、行政による支援の中身が明らかになるのを待っている状態だ。

「住み続けたい、戻りたい」が7割

内灘町が2月に西荒屋地区で実施した「被災宅地危険度判定」によれば408件のうち211件と、全体の半数以上の宅地が「危険(赤色)」とされた。罹災証明書の集計(3月14日現在)でも、同地区では全壊47件(16.7%)、半壊(大規模半壊および半壊、準半壊)が150件(53.2%)と、全体(222件)のうちの約7割を占めた。

他方で多くの住民が再び自宅での生活を望んでいる。西荒屋行政区が3月から4月にかけて独自に実施した住民の意向調査によれば、回答数162件のうち「住み続けたい」が64件(39.5%)、「戻りたい」が48件(29.6%)と、合わせて7割となった。

これに対して「転出したい(戻りたくない)」は18件(11.1%)にとどまった。「その他」は32件(19.8%)にのぼり、これには「今後の状況を見て」「条件次第」「安全な代替地」「集団移転」「判断できない」などが含まれている。

黒田さんによれば、回答者のうち60歳以上が全体の7割近くを占めており、「高齢者ほど元の住宅に住み続けたいという意向が多い」という。

問題はどのように復旧・復興を進めていくのかだ。

5月に西荒屋地区では、住民が「復興委員会」を結成。若い人から高齢者まで約30人が参加した。委員長を務める黒田さんによれば、「これまでに3回ほど会合を持ったが、現時点では町に要望を上げることにとどまっている。地区の将来に関しての青写真は描けていないのが実情だ」という。

というのも、内灘町の復興計画策定は2024年度末までかかる見通しであり、記者が訪問した7月中旬時点で、住民が要望した復興計画・復興スケジュールや液状化対策についての説明会の開催、高台などの安全な場所での復興住宅の建設などの具体策は示されていなかったためだ。

地区では神社も損壊し、祭りなどの行事も軒並み中止となった。壊れたままの住宅が目立ち、人影も少なく、時が止まったような状態だ。

「頑張っている人たちが希望を持てるような明るい話題がないと、日が経つごとに住民は流出してしまう」と黒田さんは危機感を抱く。

かほく市が液状化対策で支援策決定

こうした中、液状化被害からの復旧に向けた動きも出始めた。いち早く動いたのが隣のかほく市だ。同市は7月12〜13日の2日にかけ、液状化の被害に遭った住民を対象にした住宅再建のための補助制度の説明会を開催。2日間で約200人が参加した。


かほく市大崎地区で7月12日に開催された住民説明会。液状化で被害を受けた住宅再建のための支援策が示された(撮影:筆者)

説明会を主催した同市都市建設課の小泉博義担当課参事は、「国や県の方針が決まったことで、市としてもできる限り、具体的な方針を示すことに努めた。まずは被災者の方にこういう補助制度があるということを示したうえで、詳しい内容については個別相談を通じて説明していきたい」と東洋経済の取材で答えた。

かほく市が示した説明会資料によれば、液状化による被害を受けた宅地の復旧には、最大で958万3000円の補助がなされる。その対象は擁壁、地盤、宅地の法面などの復旧、住宅の地盤改良、傾斜修復などであり、宅地所有者の負担は応急修理などの少額工事相当額の50万円を控除したうえで、全体の工事費の6分の1にとどまる。これとは別に、住宅の耐震改修として250万円の補助も用意された。

その結果として、宅地復旧および住宅の耐震改修で合計1450万円がかかった場合、補助額は1208万3000円となる計算だ。県が定めたルールに独自の補助を上乗せすることで、「県内で最も高い補助率とした」と、小泉氏は、被災住民への配慮を強調した。

東洋経済記者が取材した7月12日の住民説明会では、「隣の家との境界の確認はどうすればいいのか」「個別相談の対応能力はどれくらいあるのか」といった質問が出た。その一方で、市担当者が丁寧に説明したこともあり、行政への批判の声は聞かれなかった。

かほく市が住民説明会の開催を急いだことには理由がある。山名田勇一・大崎区長は早期の説明会を働きかけた理由を次のように説明する。

「地元では住み続けたい人と、建て替えや引っ越しをしたいという人などで意見がばらばらになっている。このまま時間がたつと、地域からどんどん人がいなくなってしまう。それを避けたかったのでとにかく早い段階での説明を求めた」

被害の範囲が大きかった内灘町でも支援策が決定し、液状化対策に関する住民説明会が8月20日から25日にかけて、地区ごとに開催される。

液状化からの復旧・復興への道のりは長いものの、その第一歩がようやく踏み出されようとしている。

(岡田 広行 : 東洋経済 解説部コラムニスト)