難波から直通する特急「こうや」の終着駅である極楽橋駅。高野山へは同駅でケーブルカーに乗り継ぐ(記者撮影)

南海電鉄高野線の電車は大阪市中心部のターミナルである難波駅から毎日、世界遺産で知られる高野山へ国内外からの観光客を運んでいる。高野線を代表する特急「こうや」のほか、一部の快速急行と急行が難波から終点まで直通する。

知名度は高い「極楽橋」

その高野山側の終点が極楽橋駅。難波をはじめとする主要駅のホームでも列車の行き先に「高野山 極楽橋」などと表示され、利用者の目に触れる機会が多く知名度は抜群だ。

【写真】ほとんどの観光客は知らない?極楽橋駅の改札の外側。構内も立ち止まってよく見ると新たな発見があるかも(50枚)

高野線は橋本までが複線区間。沿線にベッドタウンを抱えて通勤通学路線の性格が強く、特急「りんかん」も走る。橋本からは単線となり、紀ノ川を渡る。極楽橋までの19.8kmは標高差443mの山岳区間。学文路(かむろ)、九度山あたりまでは意外にスピードが出るが、高野下からは本格的にカーブと急勾配、トンネルが連続するようになる。

橋本―極楽橋間を走る座席指定の観光列車「天空」は7月3日に運行開始15周年を迎えた。

24あるトンネルの最後を出てすぐの極楽橋駅は、これ以上は普通の鉄道で上れない、といわんばかりの山の中にある。標高は535m。特急の終着駅にもかかわらず、2023年度の1日平均乗降人員は58人と際立って少ない。


特急「こうや」がトンネルを抜け、最後の坂を上って極楽橋駅に到着(記者撮影)

電車を降りた乗客のほとんどは改札を出ることなくそのまま、高野山ケーブルカーの乗り場へ向かう。ケーブルカーは発車すると約5分で標高867mの高野山駅に到着する。

高野山駅の乗降人員は1669人。駅前のロータリーでバスへ乗り継ぎ、金堂や根本大塔などが建ち並ぶ壇上伽藍、奥之院といった真言密教の聖地へ向かうのが一般的だ。専用道を走る南海りんかんバスの車窓にはシカなどの野生動物が現れることも多く、国内外からやってきた観光客を喜ばせている。

歴史が古い極楽橋駅

現在でいう高野線は1925年に高野下までが開業。当時は高野下駅が「高野山駅」を名乗っていた。同年設立された高野山電気鉄道が難工事の末、1928年6月に神谷(現在の紀伊神谷)、1929年2月に極楽橋まで開通させた。ケーブルカーと高野山駅は1930年6月に開業した。

ケーブルカーの乗り場とは不動川を渡る構内通路で結ばれている。歴史ある極楽橋駅だが、電車からケーブルカーへスムーズに乗り継げてしまうため、じっくり構内を観察する時間はあまりなさそうだ。


高野山へ向かうほとんどの乗客は出口でなく、右奥のケーブルカーの乗り場へ進む(記者撮影)


改札の外から見た極楽橋駅(記者撮影)

電車側のホームは櫛形の3面4線と意外に広く、ターミナルらしさを感じさせる。対照的に改札口はコンパクト。駅の外へ出て不動谷川に沿った道を下っていくと、赤い欄干と橋脚が目を引く、駅名の由来となった極楽橋がかかっている。

この橋を渡り、不動坂を上っていくと不動明王をまつった清不動堂を経て、女人堂へ至る。女人堂は高野山駅前発のバスが専用道を通り最初に到着する停留所がある場所だ。


構内通路をくぐり、川沿いに下って行くと……(記者撮影)


駅名の由来になった極楽橋がある(記者撮影)

同駅を管理する高野山・河内管区高野山駅長の丸谷紀文さんは「やはり極楽橋は通過点になってしまいます」と語る。「極楽橋で改札を出る人はハイキングの格好をした方で、最近はインバウンドの方も目立ちます。あとは橋の写真だけを撮りに行く方とか……」。

駅は基本的に泊まり勤務の助役・係員の2人体制で、日中は高野下から応援の駅員が来るという。橋本方面の最終電車は21時47分。周辺にはコンビニどころか、民家が一軒もない。

駅員の食事などはどのようにしているのか。丸谷駅長によると、出勤時に2食分持ってきたり、カップ麺を常備しておいたりしているほか、難波から特急で弁当を届けてくれるサービスを利用しているという。

通過するだけではもったいない

南海電鉄は2020年7月、「はじまりの聖地、極楽橋。」をコンセプトに駅のリニューアルを実施した。電車側では高野山ゆかりの動植物などを描いた「天井絵巻」、ケーブルカー側では縁起物の「宝来天井絵」が訪れた人を出迎える。

利用客に「願掛羽」に決意や願いを書き込んでもらい、絵馬のように飾るスタンドや、手水舎も用意。改札外に出られるように同駅を区間内に含む乗車券で途中下車ができるようにした。丸谷駅長は「ぜひ足を止めて、天井を見上げたり、赤色が鮮やかな極楽橋を写真に撮ったりしていただきたい」と話す。


高野山駅と結ぶ極楽橋駅のケーブルカー乗り場。「宝来天井絵」が出迎える(記者撮影)

不動谷川にかかる極楽橋は「聖域と俗世の境界」と伝わる。乗り継ぎを1、2本遅らせ、改札を出て清流沿いを散策してみるのも、高野山観光の通な楽しみ方の1つと言えそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)