【F1】角田裕毅の評価は「7.5点」 前半戦のターニングポイントとベストレースを語った
2024年シーズン前半戦の14戦を終えた角田裕毅は、これまで7度の入賞を果たし、22ポイントを獲得してドライバーズランキング12位。多くのレースで中団グループのトップを快走し、実力者という定評をしっかりと固めた。
シーズン前半戦最後のレースともなると、世界各国のテレビ局やジャーナリストたちがお決まりのように「前半戦の自己採点は何点?」とドライバーたちに聞いて回る。もちろん、それを聞かれることがそもそもの注目度と評価の高さを示しているのだが、今年は角田にもそんな質問が飛び交っていた。
角田裕毅を取り囲むメディアたち photo by BOOZY
「10点中8点といったところですかね。最初の7〜8戦くらいは、チームも僕もコンシステンシー(安定性)のあるレースができていたと思います。
もちろん、もっとうまくやれたと思う点もありますけど、去年までに比べてコンシステンシーも獲得ポイントも向上させられています。いろんな意味で成長できていると思います。
イギリスGPではポイント獲得が難しいと思われていたにもかかわらず、難しいコンディションのなかでもポイントを獲得できました。パフォーマンスとしては満足していますし、自分としても自信を得ることができました」
そんなふうに最初は「10点中8点」と答えていた角田だが、話しているうちに「いや、7.5点かな」と心変わりした。
前半戦全体としては「いい仕事ができた」と自信を持って言えていたが、ひとつひとつ思い返していくうちに、自分のミスで失ったチャンスにも思い当たったからだろう。
「たとえば、カナダはポイント圏内にいたのに自分のミスでそれを逃してしまいましたし、ハンガリーGPの予選も、もうちょっとやれたところはあったと思います。もっとうまくやれたレースもいくつかありました。まだまだ成長できると思っています」
ワーストレースは、やはりカナダGPだろう。マシンパフォーマンスが厳しいなか、雨が降り出したところでステイアウトを決めたのが大当たり。ただ、セーフティカーで順位を上げて6位を争うも、3度のブレーキングミスで抜かれたりコースオフしたりして、入賞圏外に落ちてしまった。
特に、一度抜かれたエステバン・オコン(アルピーヌ)からポジションを取り戻そうと攻めた結果、獲れたはずの9位入賞を失うという失態を演じてしまったのは痛かった。
【昨年最終戦で語った2024年の目標】ハンガリーGPの予選では、このくらい大丈夫だろうというほんのわずかなコースのはみ出しが大きな事故につながった。結果、「予選6位もあり得た」というチャンスをフイにしてしまった。
また、マイアミGPのスプリント予選でも、タイムアタックのタイミングを誤っていなければ、4位の大躍進を果たしたのは同僚のダニエル・リカルドではなく、角田だったかもしれない。そういうビッグチャンスを逃したのも、実は大きな痛手だった。
それでも14戦のうち7戦でポイントを獲り、マシンの実力以上の走りを見せ、結果につなげた。予選はリカルドに対して9勝4敗(PUペナルティのベルギーGP除く)、決勝は8勝5敗(両者リタイアの中国GP除く)と大きく勝ち越した。特に第8戦モナコGPまでは予選も決勝も1敗しかしない、圧倒的な速さと強さを見せた。
スペインGP以降は、アップグレード失敗からの検証作業で思うようにパフォーマンスを追究できなかったり、ベルギーGPではマシン不調もあったりした。ハンガリーGP予選のクラッシュがなければ予選は10勝4敗、そして予選・決勝ともに大きなインパクトを残していたかもしれない。対リカルドのスタッツは、もっと角田優位の結果になっていてもおかしくなかった。
「かなりのレースでQ3に進んで、中団グループのなかでも最多のポイントも獲り、目標としていたパフォーマンスを見せることはできたと思います。その点には満足していますので、(後半戦も)プッシュし続けるだけです」
パーフェクトなレースを目指し、角田裕毅の完成形を見せる──。
昨年最終戦を終えたあと、2024年に向けて角田が語っていた目標がそれだった。なぜなら、この2024年のパフォーマンスが、今後のF1キャリアを大きく左右することがわかっていたからだ。
実際に、その目標をかなり高いレベルで達成し、だからこそ6月という異例の早さで翌年の契約を確定させることができた。ライバルチームから引き抜きの声がかかるほど高い評価を得たことが、レッドブルからの評価も高めることになったからだ。
【日本GPの10位で湧き出た感情】ターニングポイントは開幕戦バーレーンGPだったと、角田は言う。
「ターニングポイントになったのは、今年のバーレーンじゃないですかね。感情をコントロールしなくちゃいけないんだ、ということを痛感するきっかけになりましたから」
バーレーンGPでは戦略の異なるチームメイトに(先を)譲るよう指示されたにもかかわらず、最後にポジションを戻してくれなかったチームオーダーに対して苛立ちを爆発させ、フィニッシュ後のインラップでリカルドに対して幅寄せ行為をしてしまった。チーム側も認めたように彼らの運営ミスだったとはいえ、角田の行為や無線でのやりとりは不必要だった。
冷静になってそれを見返し、自身の完成形を見せるためにはこういったメンタルコントロールもさらに強化する必要を痛感した。それを心がけたことで、以降のレース中のパフォーマンスの安定性が上がり、結果につながっていったことも事実だ。
「バーレーンGPから比べて、一番改善できたのは無線コミュニケーションだと思います。叫ばず、自分自身の感情を可能なかぎり抑えておくことはメリットがあると思いますし、そこにエネルギーを使わないようにすることがプラスだと感じています。
以前はそこでエネルギーを浪費して、結果に影響していたと思うんです。だけど今はまず、自分を黙らせて落ち着かせるように努力しています。かなり若い頃から叫ぶのに慣れてしまっていたので簡単ではないんですけど、自分で(イライラして)舌を噛み切らないかぎりはこれを続けていくつもりです(笑)」
そんな角田の前半戦ベストレースは、10位入賞の日本GPだという。
「鈴鹿ですね。ホームグランプリだし、いろんな意味で。日本人としてホームグランプリでポイントを獲れたのはうれしかったですし、それが一番思い出に残っていますね」
前半戦のベストというだけでなく、これまでのキャリアのなかでもベストなレースだと角田は言う。
あの大勢の日本のファンの前で大きな責任感とプレッシャーを背負いながら走り、マシンの限界ギリギリの走りでQ3に進み、針の穴に糸を通すような走りと戦略で中団トップの座を勝ち取り、アストンマーティンの1台を実力で抑えて掴み獲った10位1ポイント。
10位という結果ではなく、その内容こそが、今年の角田裕毅の成長と"完成形"を体現していたように感じられた。
【レッドブル昇格のチャンスは?】そういった成長もあって、不振のセルジオ・ペレスに代わってレッドブル昇格を望む声がパドックのなかでもかなり高まりもした。結果的に今回は見送られたものの、今後もまだそのチャンスは十分にある。
「人の気持ちは自分でどうすることもできないので、僕はとにかく成長し続け、結果を出し続けるしかないと思っています。そういう努力が少しでも効果を発揮して、彼らの気持ちが変わればと思います」
自分の成長と昇格は、それはそれ。今の角田が目を向けているのは、チームとして成長し、チームとしてひとつ上のステップへと上がることだ。
「ここ数戦はいくつか厳しい戦いを強いられていますけど、特にハースが追いかけてきているので、ランキング6位を獲得するために僕らもマシンを改善して、パフォーマンスを最大限に引き出していく必要があると思っています。
ハースはかなり手強いので、僕らとしても気持ちをリセットしてハードな戦いにもう一度挑戦する必要がある。そういう難しい状況での戦いも、僕は楽しみにしています」
厳しい戦いが楽しみ。厳しい戦いを勝ち抜く自信がある。そう言いきれる自信が、今の角田にはある。
シーズン後半戦も、日本のみならず世界中のファンをワクワクさせるようなレースを見せてくれそうだ。