ヴァージン航空は1999年から運航してきたロンドン−上海線を休止し、中国路線から撤退する。写真は同社の中国向けウェブサイトより

イギリス航空大手のヴァージン・アトランティック航空が、中国路線からの撤退を決めた。

「ラストフライトはロンドン発上海行きが10月25日、上海発ロンドン行きが翌26日に運航します」

ヴァージンは7月17日、中国のSNS(社交サイト)上でそう発表した。

ロンドン−上海線は同社が運航する唯一の英中直行便であり、1999年5月の就航から25年にわたり存続してきた。コロナ禍の最中には3年間の中断があったものの、2023年5月から1日1便のフライトを再開していた。

所要時間が1〜2時間長く

それから1年余りで撤退を迫られた主因は、ロシアのウクライナ侵攻の余波を受けた運航コスト上昇にある。

西側諸国とロシアによる制裁の応酬で、西側の航空会社のフライトはロシア領空を避けて大きく迂回しなければならなくなった。そのため、ヴァージンのロンドン−上海線の所要時間は往路が以前より1時間、復路は2時間も長くなった。

飛行時間が増えれば、その分、燃料費が余計にかかる。さらに(人件費が高い)機長の配置なども増やさなければならず、コストの大幅な増加を余儀なくされた。

とはいえ、ロシアのウクライナ侵攻が始まったのは2022年2月のことだ。ヴァージンは迂回飛行によるコスト増を十分わかったうえで、(2023年5月に)中国路線を再開したはずである。

にもかかわらず、なぜ今になって撤退を決断したのか。その裏には、中国の航空会社との競争条件が悪化したことがあるようだ。

中国はロシアの制裁を受けておらず、中国の航空会社は以前と同様にロシア領空を飛べる。言い換えれば、同じロンドン−上海間のフライトでも、中国系エアラインは西側の航空会社より短時間かつ低コストで運航することができる。


中国系エアラインは余剰機材をイギリス路線の増便に振り向けている(写真は中国国際航空のウェブサイトより)

それだけではない。これを商機ととらえた中国の航空会社は、イギリスへの直行便をこぞって増やしている。例えば国有航空大手の中国国際航空(エアチャイナ)は、2024年6月から週62往復に増便した。

中国の航空情報サイト「飛常准」のデータによれば、中英間で直行便を運航している航空会社は現在10社ある。だが、そのうちイギリスの航空会社はブリティッシュ・エアウェイズ(BA)とヴァージンの2社だけであり、残り8社はすべて中国系だ。

カンタス航空も中国撤退

「中国発着の国際線の旅客数は、全体的にはまだコロナ前の水準を回復していない。そのため、中国の航空会社は保有する(国際線仕様の)大型旅客機を持て余しており、外国航空会社の乗り入れに対して開放的な国への増便に振り向けている。イギリスはその1つだ」

財新記者の取材に応じた中国の航空業界関係者は、中国の航空会社の内情をそう解説した。


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中国路線から撤退を迫られたのはヴァージンだけではない。オーストラリア航空大手のカンタス航空は、同社が運航するオーストラリア−中国間の唯一の直行便を7月28日から運休する。

この路線は2023年10月に(コロナ後の)運航を再開したばかりで、ロシア領空を迂回する必要はまったくない。だが、(オーストラリア行きの増発を競う)中国系エアラインの過当競争に太刀打ちできなかったと見られる。

(財新記者:鄒暁桐)
※原文の配信は7月18日

(財新 Biz&Tech)