洗濯のプロが「洗濯の悩み」に答えます(写真:筆者提供)

「どの洗剤が一番いいですか?」とか、「どんな洗濯機がいいですか? ドラムですか? 縦型ですか?」――。多くの人から洗濯について、こう聞かれることが少なくありません。

汚れが落ちない、ニオイが気になる、服がよれよれになるなど、服を気持ちよく着られないという悩みを、ネットで検索してやり方を探したり、商品(洗濯機や洗濯グッズ) を買ったりして解決しようとする。けれども、それではうまくいかなかったり、一時うまくいってもあとから問題が出てきたり。そんなことが多いのでしょう。

今の洗剤や洗濯機で十分きれいになる

しかし、洗剤や洗濯機などを新しくしなくても、今使っている洗剤と、洗濯機をお持ちであれば、多くの場合はそれで十分です。

では、本当に必要なものは何か? それは「洗濯の基本」を正しく知るということです。

例えば、部屋干ししたときの嫌なニオイの問題や、黄ばみや黒ずみの問題。それらは洗濯の悩みで多いものですが、これも洗濯の基本を知れば、解決できることがほとんどです。

そもそも、こうした問題は洗濯で汚れを落とせていないことが原因です。キチンと汚れが落とせれば、部屋干しでも不快なニオイは発生しませんし、黄ばんだり黒ずんだりすることもありません。

でも、なぜこんなにも洗濯してもきれいにならず、不快なニオイで困る人が多いのでしょうか?

「節水ブーム」が起こした弊害

実はこの問題について、洗濯講座などを一緒にやっているクリーニング屋の仲間と調べたことがあります。そこで、「1990年代に家庭の洗濯機が節水仕様に変わった」という事実にたどり着きました。

洗剤が溶けずに残る、服の一部が洗えていない……。そんな話が90年代から徐々に出ていました。洗濯機が過剰に節水をし始めた影響で、汚れが落ちなくなって、ニオイの問題などが出るようになってしまったのです。

その後も、洗濯機が最新型になるたびにどんどん節水が進み、その結果、「洗濯機が自動で設定する標準の水量は、きれいに洗えないくらいまで少なく」なっています。洗濯の基本、洗う衣類の量と水の量のバランスが崩れてしまっているのです。

洗濯時の水量は、衣類の量(重さ)に対して10〜20倍が基本です。つまり、 1kgの洗濯物を洗うとしたら、10〜20Lの水量が必要になるということです。この衣類の量と水の量の比率を「浴比(よくひ)」といいますが、この浴比が1:10を下回ると、洗濯物の汚れはきれいに取れません。

では、今の洗濯機はどうかというと、これが1:8ぐらいになっているものが多いのです。

それを高濃度の洗剤液を作ったり、吸着剤などを洗剤に配合したりすることで、落とした汚れが衣類に戻る「逆汚染」が起こらないようにしたり、洗濯機のポンプで水を循環させることで洗いムラを防ごうとしたりしているのだと、僕は思うのですが……。それでも水が少なすぎるので、対処できていません。

さらにもう1つ原因があります。今の洗剤は、すすぎ1回対応をうたう洗剤が増えているということです。

しかし、1回だけのすすぎだと、汚れをきちんとすすぎ切ることができません。実は2回でも十分ではなく、3回するとほぼすすぎ切ることができます。ですので、すすぎの回数は3回というのが、洗濯の基本です

ところが、ほとんどの人が「1回のすすぎでいい」と思っています。その結果、すすぎ不足で汚れを流し切ることができず、残った汚れが嫌なニオイや黄ばみ、黒ずみの原因となっているのです。


すすぐ回数が多いほど水が澄んでくる(写真:筆者撮影)

具体的には、縦型の洗濯機は自動の設定より1〜2段階水を増やす、ドラム式で水量の設定ができるものは「多め」「高め」に設定する。すすぎは縦型は3回に設定し、ドラム式は「注水すすぎ」で3回に設定します。


汚れが取れないと思ったら、まずはすすぐ回数を増やしてみましょう(写真:筆者撮影)

洗剤や洗濯機を変えなくても、この基本を見直して先に挙げたやり方に変えるだけで、「ニオイがしなくなりました」「服の色がきれいになりました」という人がたくさんいらっしゃいます。

洗濯ネットは洗浄力を落とす?

そして、もう1つ、僕らクリーニングのプロがお伝えする洗濯の基本で、やってはいけないこととして挙げるのが、「むやみに洗濯ネットを使う」という行為です。

本来、ご家庭で洗う服に洗濯ネットは必要ありません。

なんとなく「傷むかも?」「シワをつけたくない」といった理由からネットを多用する人が少なくないのですが、ネットは使用しないのを基本にする。それだけで汚れが落ちたと感じる人はとても多いです。

実際に、僕らが行った洗濯講座後のアンケートでは、「早速ネット無しで洗濯してみました。シャツの襟の黒ずみなど、今まで先に手洗いしていた部分が、洗濯機にお任せでほとんど取れていたのでびっくりしました!」という声をいただいています。

そうなのです。洗濯ネットに入れると衣類が十分に動くことができず、汚れをきちんと落とすことができません。そればかりか、ネットに入れたり出したりする手間や、前処理や予洗いなどの余計な手間を増やして、洗濯を大変にさせてしまっている、ともいえます。

えっ、じゃあデリケートな衣類はどうしたらいいのですか?と聞かれそうですが、そもそもネットに入れてまで扱うようなデリケートなアイテムは、家庭での洗濯に向きません。ネットに入れて洗っても、その服の持つよさを変化させずに洗えるわけではありません。

ネットに入れたところで気休めでしかなく、長く着られない、思った仕上がりと違うというような残念な状態にもなりやすい。そういった服はやはりクリーニングが向いているのです。

洗濯のやり方ではなく考え方を知ろう

「洗濯の基本が大事」と書くと、なんか手がかかりそうとか、面倒臭そうとかと思ってしまう人もいるかもしれません。

「細かいことはどうでもよくて、汚れが落ちればいい」とか、「洗い方やオススメの洗濯アイテムをサクッと教えてほしい」という人もいると思います。むしろ、そういう人がほとんどでしょう。

でも、この「基本」を押さえることこそが、一番効果が出て、効率もよく、洗濯を簡単にする方法です。

洗濯は本来、極めてシンプルなもので、対処法としてそんなに数があるわけではありません。だから、基本の部分だけきちんと覚えれば、その後は、ものすごく楽になります。

洗濯のやり方について講座などでお伝えしていると、みなさんそれぞれすごく工夫して考えて洗濯をされているなと感じます。

ですが、よかれと思って強い洗剤やアルカリ剤を使ったり、漂白剤などでつけ置きをしてみたり、1枚ずつネットに入れて洗ってみたり、手洗いして洗ったりしたことが、かえって洗濯の効果を下げていたり、洗濯を大変にさせていたりすることも少なくありません。

どう洗っても服がシワになったり、汚れが落ちなかったり、襟元が伸びてヨレヨレになったり。ていねいに洗濯をしているつもりが思った仕上がりにならなくて、ストレスを感じてしまっている人が多いように感じます。

何が原因で、どうしてそうなるのか。基本がきちんとわかっていれば、同じ洗濯機、同じ洗剤でも、よりキレイに、より服を傷めずに洗うことができます。

ですから、単に洗い方だけではなく、そこに理屈や理由といった「洗濯の考え方」を少しだけ入れてほしいなと思います。難しいことは何もありません。少しだけ基本からズレていた部分を修正すれば、もっと服はキレイになるし、もっと長持ちするし、もっと気持ちよく着られます。

洗濯そのものはもっともっと楽になります。そして何より、日常の暮らしがより快適で、心地のよいものに変わっていくはずです。

(中村 祐一 : 洗濯家 国家資格クリーニング師)