(撮影:梅谷秀司)

7月31日に発表された日本銀行の利上げを受けて、大手銀行が相次いで預金金利の引き上げを決定しました。執筆時点において公表されている銀行では、これまで0.02%だった普通預金金利を0.10%に引き上げると発表しています。

直近の引き上げでも金利は5倍に上がりますが、さかのぼると今年2月時点での大手銀行の普通預金金利は0.001%でした。半年で見ると100倍に増えることになります。

一部の銀行では住宅ローンの変動金利の指標となる短期プライムレートも引き上げられるなど、長らく続いてきた低金利局面がいよいよ終わり、ついに「金利ある世界」が到来するようです。

預金金利引き上げで、利息はどれくらい増える?

預金金利が上がることで、利息はいくらくらい増えるのでしょうか。かりに500万円を1年間預けたときの利息は、金利年0.001%の場合で50円、0.1%で5000円です。

ただし、預金金利には合計20.315%の所得税、復興特別所得税、住民税がかかるため、手取りの利息はそれぞれ41円、3985円にすぎません(税金計算の詳細は下表の「注」を参照)。預金額が大きければ利息額も当然大きくはなりますが、引き上げ後の金利が年0.1%では、「100倍」という数字のインパクトほどには増えた実感がしないかもしれません。


また、通常、普通預金の金利は毎年2月と8月の半年ごとに、日割り計算で付与されます。直近の利息の決算日は8月第2週から3週とする銀行が主流ですが、金利の引き上げは最も早いところでも8月6日からです。

このため、次回の利息のうち、引き上げ後の金利で計算される部分はごくわずかになりそうです。ほとんどの銀行は9月または10月から引き上げ金利を適用するため、利息が増えるのは来年2月以降に付与される分からになります。

定期預金も引き上げの見通し

普通預金に預けている間に金利が引き上げられた場合、変更日以降の残高に対しては自動的に変更後の金利で利息が計算されます。引き上げられた金利を適用してもらうために、預金している人が特段の手続きをする必要はありません。

一方、定期預金は違います。多くの定期預金は固定金利で、預入時の金利が満期日まで適用されます。一部、変動金利型の定期預金もありますが、金利の見直しは半年ごととなっているものが中心です。

定期預金についても、日銀の利上げを受けて多くの銀行が引き上げを検討しています。もし大幅に引き上げられれば、預入中の定期預金を継続するよりも、引き上げ後に新規で預け入れるほうが同じ預入額に対する利息額が大きくなる可能性があります。

仮に500万円を10年間預けた場合、複利で付く利息は、金利0.001%なら500円(税引き後399円)、0.1%なら5万0027円(税引き後3万9865円)です。


金利の違いによる利息の差は預入期間が長くなるほど大きくなりますから、特に5年、10年など長期間の定期預金に預け入れている場合には、金利が上がった後に預け替えるほうが有利になるかもしれません。

ただし、満期前に定期預金を引き出すには解約手続きが必要です。解約に手数料はかかりませんが、利息は「中途解約利率」が適用され、預け入れたときよりも低い利率で計算されます。また、預入中の定期預金を解約して再度預け入れることにより、満期日が後ろ倒しになることにも留意が必要です。

低金利局面での利率が極めて低かったこともあり、今回の利上げで預金金利が引き上げられても、それほどメリットを感じないかもしれません。しかし日銀は今後さらなる追加利上げも示唆しており、預金金利が再度上がる期待もできます。

ほとんど利息が付かなかった頃には、預金に対してお金を増やす目的はさほど期待できませんでしたが、金利引き上げでその潮目が変わるとなるとどうでしょう。個人の資産を預金に回帰してもいいものなのでしょうか。

物価高に対応できるか⁉

現状では、預金だけで資産を増やすには、まだまだ金利水準が低いと言わざるを得ません。かりに預金金利が年2%まで上がったとしても、手取りの利息額(税引き後)は預金額100万円で1万5937円、預金額1000万円で16万円弱です。

これまでに比べれば格段に資産形成効果は高いものの、普通預金金利2%が実現する経済状況であれば物価上昇も続いているはずですので、生活費も高くなっているリスクも考慮しなければなりません。

物価上昇率はすでに2年前から日銀が目標とする2%を超えており、日銀は先行きについても2026年度までおおむね2%で推移すると予想しています。

預金金利がこれを下回ることは預金が実質的には目減り状態であることを意味しますが、利上げ後でも預金金利はようやく年0.1%というところです。近く追加利上げが行われるとしても、物価上昇率を上回るほどに預金金利が引き上げられるまでには、まだ時間がかかるのではないでしょうか。

(加藤 梨里 : FP、マネーステップオフィス代表取締役)