俳優・山西惇、「暇か?」でおなじみ『相棒』角田課長役は特別な存在。シリーズ開始から20年以上…当初は「クビになると思っていた」

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京都大学に入学した1回生のときに劇団そとばこまちに入団した山西惇(やまにし・あつし)さん。

大学卒業後、退団して就職したものの、2年目に再び入団。劇団初の東京進出となる本多劇場での公演が会社のハワイ研修と重なったために退職。4代目座長となった生瀬勝久さんと2001年に劇団そとばこまちを辞めるまで、ともに多くの舞台を製作。

同年、『相棒pre season』(テレビ朝日系)の第2話に出演し、2002年には『相棒』が連続ドラマに。『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系)、映画『サラリーマンNEO 劇場版(笑)』(吉田照幸監督)、『クイズプレゼンバラエティー Qさま!!』(テレビ朝日系)などに出演。

今年2024年『エンジェルス・イン・アメリカ』、『闇に咲く花』で第31回読売演劇大賞最優秀男優賞、第74回芸術選奨文部科学大臣賞を受賞して話題に。

 

◆連ドラになると聞き「俺たちクビだな」

2001年、山西さん演じる「暇か?」でおなじみの組対5課(現・薬物銃器対策課)の角田六郎課長は、『相棒pre season』の第2話「恐怖の切り裂き魔連続殺人!」で初登場。

ともに劇団そとばこまちを退団した生瀬さんも、寺脇康文さん演じる特命係の亀山刑事の大学時代の同級生で東京地検の検事、そして“平成の切り裂きジャック”と呼ばれた浅倉禄郎役で出演している。

――退団されたその年に『相棒pre season』が放送に。

「何かそんなにうまいタイミングだったんだなって」

――そのときには2時間ドラマでしたが、まだ連続ドラマになるということは?

「何も決まってなかったです。それで、もう1個2時間ドラマがあって」

――連続ドラマになると聞いたときはいかがでした?

「これは川原(和久)さんともよく話すんですけど、連続ドラマになるときに『これで俺たちクビだな』って思ったんですよ。『ああ、そうですか。ゴールデンの1時間枠になりますか。じゃあ我々はクビですね』って思いました。レギュラーをみんな一新すると思ったんです。

でもそこは、『相棒』を立ち上げた須藤(泰司)さんというプロデューサーさんがステキだったんですよね。『皆さんあっての相棒ですから、皆さんを外すなんてことは絶対しませんよ』って言ってくれて。それが本当にありがたかったです」

――『相棒』は、山西さん、川原さん、大谷亮介さん、六角精児さん、山中崇史さん…舞台出身の方が多いですよね。

「『相棒』の東映のプロデューサーの須藤さんが同志社(大学)でお芝居をやっていたんですよね。だから僕らが学生のときにやっていた芝居も多分見てくれていて、それもあって舞台の人たちを起用してくれているのかなと思いました」

――現在も続いている大人気シリーズで映画化、スペシャルドラマにもなって。

「最初の第1シリーズが始まったとき、とにかく本がおもしろいなあと思って。1時間でよくこんなにいろんな要素を入れて、しかも同じパターンの話じゃなくて、『今度はこっちから来たか』っていう感じで、毎回おもしろいなあって。

これがうまくどうにか世の中に伝わらないものだろうかっていうのは、初期の頃はずっと思っていまして。やっぱり『今、何やっているの?』って聞かれたときに『相棒っていうドラマをやっているんですよ』って言うと、『水曜の枠ね』って言われるんですね。みんな知ってる。でも、見たことはないと。

それは、やっぱりDVDになったことがすごく大きかったと思うんですよね。DVDにしてTSUTAYAとかでみんなに借りて見てもらったら、お話は絶対おもしろいんだから、もっと見てもらえるようになるんじゃないかって。そう思っていたらDVDになって、それからだんだん評判が上がっていって、やっとみんなにわかってもらえた。おもしろがってくれるようになったっていう、この時期はすごくワクワクしましたね」

――皆さんキャラクターが立っていて、角田課長もパンダカップを持って飄々と現れると思っていたら、正義感が強くて、時には熱くなって涙して…。とても印象的ですよね。

「いろんな脚本家の方が参加してくださって、それぞれがまだ書かれてない部分を書いてやろうみたいな感じで作ってくれるのでありがたいですね。それぞれのキャラクターが深みを増していって」

――角田課長は、演じられていていかがですか?

「プレシーズンからなので、もう20年以上ですからね。ひとつのキャラクターをこんなに長くやらせていただくのは初めてだし、人生の半分いっちゃうんじゃないかっていうぐらいですから。特別な存在です。

他の仕事をするときに角田さんのキャラが出てくることはほぼないと自分でも思っているんですよね。大事にポケットにしまってあるというか」

――「角田課長」って声をかけられたりしますか?

「『角田さん』って言われます。エレベーターで2人きりになったりしたとき、急に『今日はお暇じゃないんですか?』って言われたりはします(笑)」

――パンダのコーヒーカップも可愛いですよね。

「あれもあんなに話題になるとは思ってなくてね(笑)。あれは、最初の寺脇(康文)さんのシリーズのときに、寺脇さんが子どもにあげちゃうんですよ。だからあのカップは2代目なんです。初代のカップもパンダの絵は描いてあったと思うんですけど、パンダが縁にしがみついてなかったんですよね。

それでスタッフさんも遊び心があるから、ネクタイの柄とか、スマホのストラップとか、お弁当の下に敷いているランチョンマットとかもパンダにしたりして。『ここまで俺、パンダ好きなんだ』って(笑)。実際パンダに愛着を感じるようになりましたね、本当に」

 

◆16年ぶりにレギュラー陣が集結

2003年、山西さんは『Dr.コトー診療所』(フジテレビ系)に志木那島の漁師・元木渡役で出演。2004年に『特別編』と『Dr.コトー診療所2004』、2006年に続編が放送され、2022年には映画『Dr.コトー診療所』(中江功監督)が公開された。

――『Dr.コトー診療所』は映画にもなりましたね。

「はい。16年ぶりに中江監督のもと、コトー先生(吉岡秀隆)、志木那島の人たちと過ごしました。レギュラーの人がみんな戻ってきましたからね。かけがえのない時間でした。こういう作り方もあるなと思う。映像でもそういうことができるんだなっていうのはすごく感じました」

――テレビドラマ版で最初に志木那島に行かれたときはどんな感じだったのですか?

「最初は全然帰してもらえなかったから、2週間ぐらい行っていたんじゃないかな。最初島に着いた日に撮ったら、そこから10日間僕は撮影がなくて」

――その間は毎日どのように過ごしていたのですか?

「皆さんほぼ初対面だったから、ちょっとずつしゃべるようになって。同じ漁師役の船木(誠勝)さんが『あんまり暇なので、映画を撮るから一緒に作りませんか』って言ったんですよ。それで、皆で台本を書いて、船木さんが持ってきたカメラで映画を撮ったりしていました。それを船木さんのパソコンで、みんなで見たりして」

――山西さんは劇団そとばこまちで台本を書いたり、演出もしていましたものね。退団後、わりとコンスタントに映像のお仕事も舞台もやってらっしゃいますね。

「どうですかね。でも、働いていないと気持ち悪くなっちゃうところがあって(笑)。2、3週間ぐらい空くとイライラしちゃうんです。セリフがしゃべりたいなって思っちゃう感じはありますね」

――かなりお忙しそうに見えますが。

「たまに空くことがあるんですよ。すごく早い段階で、舞台だと2年先ぐらいまでお話が来ていたりするんですけど、その隙間っていうのがやっぱりできる年もありますよね。終わってすぐ次の現場ということにはならないこともある。

不思議なもので重なっちゃったりして、ちょっとズレてくれれば全部できるのにって(笑)。最近はもう空いたとしても、事前の準備がいかに大事かということがわかってきているので、先々の舞台の資料を集めて読んだり、そういうことをしているうちにすぐ時間経っちゃうんですけど、一時期はやっぱりちょっとイライラしてしょうがないときもありましたね」

連続テレビ小説『まんぷく』(NHK)、『99.9-刑事専門弁護士-完全新作SP 新たな出会い篇』(TBS系)、映画『イニシエーション・ラブ』(堤幸彦監督)、舞台『日本人のへそ』(こまつ座)、舞台『エンジェルス・イン・アメリカ』など多くの作品に出演。さらにバラエティ番組やクイズ番組にも多数出演し、“京大出身のインテリ俳優”としても広く知られることに。

次回はクイズ番組出演のエピソード、読売演劇大賞最優秀男優賞受賞、公演中の舞台『江戸時代の思い出』、2024年9月13日(金)に公開される映画『シサム』、11月に行われるリーディングアクト『一富士茄子牛焦げルギー』も紹介。(津島令子)