近畿日本鉄道の生駒駅。けいはんな線と奈良線の電車が並ぶ(記者撮影)

近畿日本鉄道の生駒駅は、大阪との府県境である生駒山地をトンネルで越えた奈良県生駒市にある。山の斜面にありながら奈良線、生駒線、けいはんな線のほか、改札外で乗り換える生駒鋼索線(生駒ケーブル)を合わせて近鉄4路線が乗り入れる一大ターミナルだ。

近鉄奈良線の1期生

奈良線は近鉄の前身の1つ大阪電気軌道(大軌)が1914年4月30日に上本町―奈良間を開業させたのが始まり。大阪と奈良の中心部を最短距離で結ぶため、標準軌の複線としては当時国内最長となる生駒トンネル(3388m)を難工事の末に完成させた。

その途中駅として誕生した1期生のメンバーが生駒で、2024年に開業110年を迎えた。現在は阪神電気鉄道の阪神なんば線との相互直通運転により、近鉄奈良―神戸三宮間を駆け抜ける快速急行も活躍する。

【写真】開業時の「グリーンヒルいこま」など、貴重な写真で振り返る過去の生駒駅と現在の様子。関係者以外は入れない地下にはかつて通路があった痕跡も(60枚)

一方、生駒ケーブルは1918年、大軌の系列会社の生駒鋼索鉄道が鳥居前―宝山寺間を開業。営業用ケーブルカーとしては日本初とされる。もう1つの宝山寺―生駒山上間の鋼索線は1929年、生駒山上遊園地とともに生まれた。

宝山寺は生駒聖天として知られ、とくに年始には商売繫盛を願う参拝客でにぎわう。沿線住民の利用も多い。鳥居前―宝山寺間は複線となっている。駅名の由来の大鳥居は1982年に生駒駅前再開発事業に伴い宝山寺に移転した。

山上の遊園地だけでなく、稜線を走る有料道路の信貴生駒スカイラインも近鉄グループが運営する。

生駒線は、生駒山地の東側を南北に走る12.4kmの路線。1922年、信貴生駒電気鉄道(のちの信貴生駒電鉄)が王寺―信貴山下間と、信貴山下―信貴山間の鋼索線(1983年廃止)の営業を開始。1927年に生駒までが開通した。

当初は大阪の枚方と生駒を結ぶ構想があり、1929年に現在の京阪電気鉄道交野線にあたる枚方東口(現・枚方市)―私市間を開業させたものの、実現はしなかった。王寺―生駒間は1964年に合併によって近鉄の路線となった。

けいはんな線で大阪中心部に直結

けいはんな線は同社の中で最も新しい路線。長田(東大阪市)―学研奈良登美ヶ丘(奈良市)間を東西に結ぶ。1986年に「東大阪線」の名称で長田―生駒間が開業。大阪市営地下鉄(現在の大阪メトロ)中央線(大阪港―長田間)と相互直通運転を始めた。その後、地下鉄線は1997年にコスモスクエアまで延伸。近鉄線も2006年に学研奈良登美ヶ丘まで延び、現在の路線名になった。

大阪のビジネスエリアの本町に直接乗り入れるほか、御堂筋線をはじめとする南北に走る路線との乗り換え需要も大きい。中央線は、2025年の大阪・関西万博開催に向けてコスモスクエア―夢洲間の延伸が決まっており、会場への直接のアクセスを担う唯一の鉄道路線として新たな局面を迎える。


けいはんな線の大阪メトロ車両が大阪方面から長いトンネルを抜けて到着する(記者撮影)

奈良線は通勤・帰宅時間帯には「ひのとり」「伊勢志摩ライナー」といったの特急も運行しており、すべての種別が停車する。大阪市中心部の大阪難波へは奈良線で約20分、本町へはけいはんな線で約26分と、山地で隔てられているとは思えない好立地にある。

生駒駅は橋上駅舎で、1階部分のホームは3面6線、1番線から6番線まである。北側からけいはんな線、奈良線、生駒線のホームが並ぶ。東側の地下には駅の外へ出ることができない乗り換え用の連絡通路がある。

外へ出る改札は中央改札と西改札がそれぞれホームを上がった2階の通路に位置する。ほかに奈良線・生駒線とけいはんな線を分ける改札内の乗り換え改札が東側の地下通路と中央・西の2階通路の計3カ所にある。有人の窓口は中央の乗り換え改札に面している。生駒ケーブルの鳥居前駅は南口側にある。

電車も人も集まってくる

駅の東西では奈良線とけいはんな線が並走して複々線のようになっているが、けいはんな線は給電にもう1本のレールを用いる第3軌条方式のため、上空に架線がないのが対照的。近鉄の特急車両から阪神、大阪メトロの車両まで多彩な顔ぶれがそろうのが同駅の特色だ。

高低差がある地形の駅周辺には大型施設が集まっていて、訪れる人でにぎわっている。北口の近鉄百貨店生駒店を中心とした「アントレいこま」や生駒駅前図書室も入る「ベルテラスいこま」、南口の「グリーンヒルいこま」のほか、アーケード商店街の「ぴっくり通り」はいずれも駅とペデストリアンデッキで直結している。


橋上駅舎の生駒駅。画面奥は近鉄百貨店が入る「アントレいこま」(記者撮影)

生駒駅の柳谷裕一駅長は利用者の特徴について「ベッドタウンのイメージがあるだけに、朝は大阪市内に通勤するために奈良線や生駒線からけいはんな線に乗り換える方が目立つ。奈良線は奈良方面へのインバウンド、生駒ケーブルは土日を中心に家族連れのお客さまといったように観光需要もある。生駒線は通勤通学に加え、近畿大学奈良病院への通院利用も目立つ」と説明する。

そのうえで「『アイ・ラブ・近鉄』という方がものすごく多い。とくに高齢者の方は『近鉄が生駒トンネルを掘ったおかげで都市ができた』という思いが強い」と指摘する。「地元企業にあいさつに行くと『ウチがあるのも、近鉄のおかげやで』とよう言われました」。

柳谷駅長は1987年入社。鶴橋駅での勤務を皮切りに大阪線の運転士、助役などを経て、2023年4月に生駒駅長となった。柳谷駅長自身も小学校低学年のころから2つ上のいとこが住む生駒をよく訪れていたという。当時と比べると「商業施設が増え、駅自体も周辺もがらっと変わって、何回も通った道がわからなくなった」という。


奈良線の快速急行難波行きと生駒駅の柳谷裕一駅長(記者撮影)

奈良方面への誘客の拠点

近鉄グループホールディングスと生駒市は2023年9月、「包括連携に関する協定」を締結。両者は「近鉄グループと生駒市とのつながり・歴史は長く、これまでも沿線の住宅開発を中心に様々な分野で連携・協力してきた」と強調。「今回の協定締結を機に、協力関係をより一層深め、人口減少や少子高齢化に伴う地域課題解決などさらに多様な分野で連携を進める」ことを決めた。

生駒は大阪市内へのアクセスが自慢だが、反対方向の近鉄奈良へも奈良線で平城宮跡歴史公園を横切りながら約15分。近鉄奈良は世界遺産の文化財が集まる奈良市中心部のエリアに近い。近鉄は大阪・関西万博に向けて会場アクセス手段である大阪メトロ中央線・近鉄けいはんな線から生駒を経由して、奈良方面へ誘客する方針。「奈良県内から万博を訪れる人にとっても間違いなく玄関口になる」(柳谷駅長)。生駒駅も万博の盛り上げに一役買うことになりそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)