東武東上線の朝霞台駅は複々線の途中に2面4線のホームがある橋上駅舎。真上をJR武蔵野線の貨物列車が通過する(記者撮影)

東京都心の池袋をターミナルとする東武東上線は、埼玉県の川越や小川町を経て、秩父鉄道・JR八高線が乗り入れる寄居までを結ぶ75kmの路線だ。

とくに10両編成の列車が往来する池袋―小川町間は沿線のベッドタウン化が進んでいて、私立の大学なども多く点在。浅草から「スペーシア X」といった観光特急なども走る伊勢崎線・日光線の「本線系統」と比べると、通勤通学路線の印象が強い。

埼玉県に入って1つ目、東京メトロ有楽町線・副都心線との接続駅である和光市と志木の間は、同じ方向に2本の列車を走らせられる複々線となっている。その複々線区間にある朝霞台駅は、X字に立体交差するJR武蔵野線との乗換駅として朝夕のラッシュ時だけでなく、日中も多くの利用者でにぎわっている。

JR武蔵野線との乗換拠点

朝霞台駅は1974年8月6日に開業した。同年7月23日には伊勢崎線に、同じく武蔵野線との乗換駅である新越谷駅が誕生している。両駅とも2024年は50周年の節目にあたる。

【写真】1974年、開業当時の東武東上線朝霞台駅の様子。それから50年で駅と周辺の風景はどれだけ変わった?(60枚)

朝霞台駅は、最初の区間の開業から110年を迎えた東上線の歴史の中では若手の位置づけらしく、東武鉄道のホームページにあるプロフィールに「昭和49年に開設された新しい駅」と紹介されている。駅名は「朝霞市にあり、東側に武蔵野台地があるという地形的要素から命名」されたという。

朝霞市役所や陸上自衛隊朝霞駐屯地などの玄関口は1駅池袋寄りの朝霞駅で、こちらは1914年5月1日、東上線開通と同時に開業した。当時は駅名と村名は「膝折」と名乗っていたが、1932年の町制移行の際、東京の駒沢から移転してきた「東京ゴルフ俱楽部」の名誉会長、朝香宮にちなんで「朝霞町」が発足、駅名も変更された。

1974年8月10日付の東武鉄道の社内報によると、開業当時の朝霞台駅の概要は、総工費が概算で5億円、乗降人員は推定で9700人。開業初日について「五時の一番電車前に乗車券NO1をめざしてかけつけたマニヤは十一人。中には一人で七十枚も購入した人もいたという」と伝える。

そのうえで「東上線と武蔵野線の相互乗換客待望の駅で、特に東上線川越市方面から、県都浦和への短絡路として、当駅の利用価値は高い。付近には亭々とそびえるケヤキの大木なども散在する、緑濃い変化に富む好住宅地として今後の発展が期待される」と強調している。

それから半世紀。朝霞台の2023年度1日平均の乗降人員は14万8983人で、東武の全205駅で池袋(40万8382人)、北千住(40万1218人)、和光市(16万2203人)に次いで4番目、東上線では3番目に多い駅に成長した。

2023年3月のダイヤ改正で快速急行の停車駅となり、現在は朝夕の座席指定列車「TJライナー」を除く、すべての種別が発着する。2019年に新設された種別「川越特急」の下り列車の場合、池袋を出て最初に停車するのが朝霞台。池袋から朝霞台へは所要時間14分で着く。

北朝霞駅は1年先輩

一方、JR武蔵野線の駅名は「北朝霞」。東上線に朝霞台駅が設置される前年、1973年の4月1日に武蔵野線開通とともに誕生した。北朝霞から大宮へ行く場合は、武蔵浦和で埼京線、または南浦和で京浜東北線に乗り換える必要があるが、朝夕には貨物線経由で府中本町・八王子―大宮間を直通する「むさしの号」が活躍する。むさしの号に乗れば北朝霞から大宮へ12、13分で行くことができる。


東武東上線のホームの上を横切るJR武蔵野線(記者撮影)

武蔵野線乗り換え以外の利用も多い。南口からは西武池袋線のひばりヶ丘駅・東久留米駅方面へのバス、羽田空港連絡バスが発着する。駅周辺にはTMGあさか医療センターや東洋大学朝霞キャンパス、本田技研工業の拠点がある。東洋大は2024年4月、「板倉東洋大前」という日光線の駅名にもなっていた板倉キャンパス(群馬県板倉町)の学部が移転してきた。

春には黒目川の桜堤が花見客でにぎわうほか、8月には朝霞市民まつり「彩夏祭(さいかさい)」が開催されるなどの風物詩もある。

朝霞台駅長の楠元道明さんは群馬県太田市出身。25歳になる直前に東武鉄道に社会人入社をしたが、それまでは「どこにも勤めずフリーターをしていた」という。業平橋(現・とうきょうスカイツリー)の駅員からスタートし、助役や本社勤務を経て、2015年7月に亀戸で初めて駅長になった。

2016年3月には亀戸駅長としてリバイバルカラー車両の出発式、2017年4月にふじみ野駅長として「ももクロ号」の出発式に参加するなど、なぜかメディアでの露出が多かった。2019年10月から駅長を務める朝霞台駅については「東上線沿線の川越などと本線の日光・鬼怒川エリアをJR武蔵野線を介して結ぶ、観光需要創出の点でも重要な乗換駅」と位置付ける。

楠元駅長は「6月に運行したJR八王子―東武日光間を直通する臨時特急『スペーシア八王子日光』は満席だった」と振り返る。「事前にJRさんと一緒にパンフレットを配ったり、当日は北朝霞駅のホームでお見送りをしたり」と、JRとの連携にも積極的だ。そんな楠元駅長は2025年春に定年を迎える。


朝霞台駅長の楠元道明さん。武蔵野線だけでなく道路もホームの上空をまたぐ(記者撮影)

工事が進む駅構内

朝霞台駅は橋上駅舎で、南北の駅前広場を結ぶ自由通路に面して改札が1カ所。切り通しの中を走る東上線の2面4線のホームとは階段またはエスカレーターを使って行き来する。

乗降人員の多い駅でありながら、改札階とホームをつなぐエレベーターがなく、バリアフリー化が遅れていた。現在、改札口の向かいに新たに専用口を設けてエレベーターを設置する工事が進んでいる。南北の駅前広場にも新設、合計4基のエレベーターは2025年度中に供用開始を目指している。バリアフリートイレも設ける計画だ。工事に伴い、構内にあった東武ファイン朝霞台の店舗は2024年3月末に閉鎖された。

東武鉄道は2027年度までの中期経営計画で、スカイツリーラインの西新井などとともに、朝霞台に関して「人流の創出を図る沿線中核拠点開発に向けた検討の推進」することを掲げている。現時点では「詳細は決まっていない」(広報部)というが、この先、開業50年を迎えた朝霞台のさらなる進化が見られそうだ。


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(橋村 季真 : 東洋経済 記者)