ボールペンは、1年で何本売れる?(写真: Hakase / PIXTA)

地頭を試すような問題が数多く出題される、一流企業の入社試験。どうやって攻略すればいいのでしょうか。『一流企業の入社試験』を上梓した東大カルペ・ディエムの西岡壱誠さんが、具体例とともに解説します。

入社試験でよく出題される「フェルミ推定」。実際に解いてみたことはありますか? 「名前くらいは聞いたことあるけど……」という方が多いのではないかと思います。

入社試験でよく出されるフェルミ推定

フェルミ推定とは、調査が難しい数量や規模の「おおよその数値」を導き出すものです。自分の体験や感覚、知っている数字をもとに、その場でどれだけ論理的に考えて答えを出せるのかが求められます。

実際の入社試験では、こんな問題が出題されています。

現在のEV普及率を推定せよ
(IT企業)
2020年度のアルコール除菌関連の売上高を推定せよ
(外資系総合コンサル)
ある居酒屋の一日の売り上げを推定せよ
(戦略系コンサル)

さて、今からみなさんにもフェルミ推定を体験してもらいましょう。今回のテーマは「ボールペンの市場規模」です。デジタル化が進んだ現代ですが、ボールペンは1年間でどれくらい売れているのでしょうか?

「市場規模」とは、国内での年間売上高です。つまり、国内で1年間に売れたボールペンの総額を求めればよいので、年間売上高は以下の式で求められます。

年間売上高 = ボールペンの平均単価 × 売上個数

式を立てたら、具体的な数字を考えましょう。ひとくちにボールペンと言っても、一色ボールペン、多色ボールペンと種類はさまざまです。さらに、ボールペンの売り上げは「誰が買ったか」によって区別して考える必要があります。

それらを考慮したうえで、大きく個人と法人とに分けて考えてみましょう。

ボールペンの種類や買う人で考えてみる

・個人で購入する場合

個人でのボールペンの売上高は、

人口× 購入率 × 1人あたりの年間購入本数

で求められます。

ここでは仮に、1色ボールペンの平均単価を200円、多色ボールペンを1000円とします。

次に、買い手の属性をもう少し細分化して考えてみましょう。就学している子どもを日本の総人口(1億2000万人)の約1割とすると、1200万人。高齢者が約3割を占めているので、それ以外の生産年齢人口は総人口の約6割、つまり7200万人いると仮定します。

そのうえで、ボールペンの性質を「1色」「多色」、購入者を「子ども・学生」「社会人」として分類し、1年間に「子ども・学生」「社会人」のそれぞれ何%が何本ずつ購入するのかを想定して、表に書き込みました。

購入率も年間購入本数も、実際に調査できる数字ではないので、自分自身の感覚に基づいて決めましょう。



ここでは仮に、1200万人いる「子ども・学生」のうち80%が1年間に「1色ボールペン」を2本買い、70%が1年間に「多色ボールペン」を1本買う、と想定しました。表の読み方は「社会人」についても同様です。

では、この表に基づいて、実際に売上高を計算してみましょう。

1色ボールペンは、
1200万人 × 80% × 2本 + 7200万人 × 40% × 2本 = 7680万本
7680万本 × 200円 = 153億6000万円

多色ボールペンは、
1200万人 × 70% × 1本 + 7200万人 × 30% × 1本 = 3000万本
3000万本 × 1000円 = 300億円

つまり、個人でみると、ボールペンは約454億円分購入されていることになります。

・法人で購入する場合

法人に対するボールペンの売上高は、

企業当たりの平均人数 × 1人当たりに配られる本数 × 企業数 × 購入率

で求められます。

フェルミ推定の問題を考えるとき、「企業数」はしばしば必要となるので、就活生の中にはあらかじめ覚えておく人も多いかもしれません。

もちろん「企業数」や「企業当たりの平均人数」も、フェルミ推定で求めることができますが、ここでは国内の企業数は約350万社、企業当たりの平均人数は約20人として考えましょう。また働く人の4割が1色ボールペンを2本、3割が多色ボールペンを1本購入すると想定します。

実際に売上高を計算してみると、

1色ボールペンは、
20人 × 2本 × 360万社 × 40% = 5760万本
5760万本 × 200円 = 115億2000万円

多色ボールペンは、
20人 × 1本 × 360万社 × 30% = 2160万本
2160万本 × 1000円 = 216億円

つまり、法人で考えると、ボールペンは約331億円分購入されていることになります。

実際の額との違いは?


個人と法人の売上額を合算すると、ボールペンの市場規模は、約785億円であると推定できます。以上が、この問題に対する1つの解答になります。

ちなみに、2021年度に経産省が出した文具月報(販売金額)によると、ボールペンの市場規模は約750億円だそうです。

しかし、あくまで大切なのは、結果として現実に近い値を出すことではなく、論理的に根拠立てて数字を導き出すことです。

フェルミ推定に興味を持った方は、ぜひほかの問題にも取り組んでみてください。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)