大阪にあるユニークなゴミ処理場(写真:PhotoAC)

多くの外国人観光客が訪れる、日本の観光スポット。北海道や沖縄、京都など有名な観光地のみならず、「なぜそこに行くのだろう?」と日本人が驚くような場所にも、外国人観光客は足を運んでいます。『外国人しか知らない日本の観光名所』を上梓した東大カルペ・ディエムの西岡壱誠さんが、オススメの観光スポット3つを紹介します。

藤の花のトンネルに外国人が殺到

2023年に日本を訪れた外国人観光客の数は、2500万人を超えました。旅行消費額は計5兆2923億円で過去最高を記録し、日本観光に再び活気が戻ってきました。

そんな日本の観光地の中には、日本人にはあまり知られていないものの、「実は外国人に人気がある」場所も増えています。

観光は「光を観る」と書きますが、外国人観光客は、日本に来て、日本のどこに「光」を感じているのでしょうか? 今回の記事では、いま外国人観光客から脚光を浴びる、日本人が意外と知らない観光名所を3つご紹介します。

1 視界を埋め尽くす藤の花

1つ目は、福岡県にある「河内藤園」です。小さな淡い紫色の花が束になり、ブドウのような見た目をした藤の花からは、どこか妖艶な雰囲気を感じられます。

この藤園の最大の見どころは、長さ約80mと110mの2種類の藤の花のトンネルです。どこを見渡しても藤の花に囲まれ、華やかで上品な香りに包まれる体験はここでしか味わえないものです。

あまりの人気ぶりに、藤の花のシーズンは完全予約制になりました。いったいなぜ、外国人観光客は「河内藤園」を訪れるのでしょうか。

海外で有名になったきっかけは、アメリカのCNNで「日本の最も美しい場所31選」に選ばれたことです。藤の花のシーズンには3000坪の敷地が、薄紫、白、ピンクなど、バラエティ豊かな22種類もの藤の花で埋め尽くされています。

ちなみに藤の花のシーズン(4月下旬〜5月上旬)が終わった、11月中旬から12月上旬にかけては、約700本の紅葉やカエデで園内が彩られます。


河内藤園(写真:PhotoAC)

そんな「河内藤園」には、50年以上もの歴史があります。創設者である樋口正男が、小学生の頃に読んだ本に感銘を受け「俺も何か1つこの世に生きた証しを残したい」と考えたことから始まりました。

戦争を乗り越え、仕事も生活も落ち着いたころ、「この雑木の山に美しい藤を植え、みんなに見に来てもらえる藤園を造りたい」と思い、庭という形で生きた証しを残そうと、開墾を決意。開墾から50年たった今、最も古い藤の木は樹齢120年を超える大藤へと成長したのです。

藤の花は、近年では『鬼滅の刃』から関心を持つようになった外国人も多いようです。『鬼滅の刃』には、藤の花がたびたび登場します。アニメや漫画で知った藤の花がどのようなものなのか、実際に自分の目で確かめたくなって、はるばる外国から訪れる人もいるようです。

世界で最も美しいゴミ処理場

2 大阪舞洲のゴミ処理場

2つ目は、大阪舞洲にあるゴミ処理場です。大阪湾に浮かぶ人工島である舞洲には、美しい百合園や巨大なスタジアムがあります。

そちらも綺麗なのですが、外国人観光客から知られているもう1つの特徴的な建造物が、このゴミ処理場です。世界で最も美しいゴミ処理場として、海外から注目を集めているのです。

ゴミ処理場は、2008年に大阪にオリンピックを誘致しようとした際、会場の目玉となるモニュメントとして建設されました。結局、大阪オリンピックの誘致には成功しませんでしたが、舞洲のゴミ処理場自体は、予定通り建設計画が進められました。

設計を手がけたのはオーストリアの芸術家であり、建築家であるフリーデンスライヒ・フンデルトヴァッサー氏。「自然との調和」を目指した作品作りで知られる彼の建築には、一切の直線がありません。それは「自然界には直線はない」という彼の信念に基づくものです。

実際に、この舞洲のゴミ処理場にも、直線的なあしらいはまったく使われていません。

まるで童話の世界から飛び出してきたかのようなメルヘンな外観に、ゴミ処理場であることを忘れてしまうほどの楽しさがあると、世界中から関心を寄せられています。

また、芸術的な外観の一方で、その内部はゴミ処理場であることのギャップに驚いたり、日本人の環境を守る姿勢と遊び心が同時に現れた施設だと感じる外国人観光客もいるようです。

ちなみに、外観はいつでも見学できますが、日程によってはゴミ処理場の内部まで見学できるツアーが行われることもあります。訪問する際には事前に公式サイトを確認し、内部まで見学できる「オープンデー」なのかどうかを把握しておくのがおすすめです。

壮大な景観を楽しめる神磯の鳥居

3 朝日と荒波を背景に輝く鳥居

3つ目は、大洗磯前神社の神磯(かみいそ)鳥居です。茨城県大洗町の神磯の鳥居は、その美しい朝日が写真映えすると話題になり、フォトスポットとして一躍有名になりました。

神磯は祭神が降臨したとされる岩礁で、足を踏み入れてはいけない「禁足地」に指定されている、宗教的なパワースポットでもあります。

大洗磯前神社の祭神は、神話「因幡の白うさぎ」で知られる福徳を授ける神、大己貴命(おおなむちのみこと)と傷病治癒の神、少彦名命(すくなひこなのみこと)。神たちが世の苦しむ民を救うために降臨したのが、この神磯の鳥居がある場所です。

さて、なぜこの鳥居が外国人の間で有名になったのでしょうか?

人気の理由は、なんといっても壮大な景観です。太平洋から昇る朝日と磯に打ち寄せる荒波を背景に、凛とたたずむ鳥居は圧巻です。日の出時には多くのカメラマンが訪れ、シャッターチャンスを狙います。


神磯の鳥居(写真:PhotoAC)

朝は地元のお店や社務所も開いていませんが、多くの人たちがこの風景を見るために朝から鳥居の前に集まります。日が昇った後は神社境内にある、24時間採水可能な「御神水」で水をもらい、福を持ち帰ります。

夜の海に映える鳥居の影も幽玄で美しく、徳川光圀が「荒磯の岩に砕けて散る月を一つになして帰る浪かな」という和歌に詠んだように、静かな月とともに海辺で過ごす時間を味わえます。

神磯の鳥居はまだ人気になり始めたばかりのスポットで、多くの外国人向け観光サイトで紹介されているわけではありません。

知る人ぞ知るディープな観光スポットであり、地元の方と外国人観光客が荘厳な鳥居を背景にお互い交流をしたり、町内を案内したりといった温かさがあるのが注目ポイントです。

地元の人との触れ合いやローカルな魅力を知れる


近年の外国人観光客による旅行は、パッケージツアーではなく個人旅行が主流となっています。

こうした地元の方との触れ合いやその土地ならではのローカルな魅力に出会えるのが、外国人観光客を惹きつける観光地の特徴なのかもしれません。

SNSで個人が気軽に美しい景色の写真を発信することができるようになり、今まであまり知られていなかったスポットが一躍人気となるケースも増えています。

日本人はあまり話題にしないけれども、海外のSNSで大人気になっているケースというのも多いのです。実は素晴らしいポテンシャルを秘めている観光スポットが、日本にはまだまだたくさんあるのかもしれません。

(西岡 壱誠 : 現役東大生・ドラゴン桜2編集担当)