ファーウェイは独自OS「鴻蒙」のエコシステムの拡充を急いでいる。写真はソフトウェア開発者向けイベントに登壇した余承東氏(同社が配信した動画より)

中国の通信機器最大手の華為技術(ファーウェイ)は6月21日、ソフトウェア開発者向けの年次イベントを開催し、独自開発OS(基本ソフト)「鴻蒙(ホンモン、英文名はハーモニーOS)」の次期バージョンである「鴻蒙星河版(ハーモニーOSネクスト)」のベータ版をリリースした。

現行バージョンの鴻蒙には、アメリカのグーグルのOS「アンドロイド」用のアプリを実行できる互換機能が組み込まれている。次期バージョンはこの互換機能を廃止し、鴻蒙用のネイティブアプリにのみ対応することから、中国のソフトウェア業界では「純血鴻蒙」とも呼ばれている。

「これは中国で開発された、独自にすべてをコントロールできる(外国企業のエコシステムに依存しない)OSだ」

ファーウェイの消費者向け端末事業を率いる余承東氏は、イベントの壇上でそう胸を張った。同氏によれば、鴻蒙がインストールされたスマートフォン、タブレット、スマートウォッチ、ワイヤレスイヤホンなどのデバイスは、2024年5月末時点で累計9億台を超えたという。

「ウィーチャット」も近く合意か

「ユーザーの使用時間の99.9%を占める5000本のメジャーアプリのうち、すでに1500本以上が鴻蒙版をリリースし、ユーザーが試用できる段階にある」。ネイティブアプリ開発の進捗について、余氏はそう述べた。

それらの中には、字節跳動(バイトダンス)のショート動画アプリ「抖音(ドゥイン、TikTokの中国国内版)」、阿里巴巴(アリババ)の通販アプリ「陶宝(タオバオ)」および対話アプリ「釘釘(ディントーク)」、騰訊控股(テンセント)の動画アプリ「騰訊視頻(テンセントビデオ)」などの人気アプリが含まれている。

注目されるのは、中国人のほとんどが利用しているテンセントのスーパーアプリ「微信(ウィーチャット)」のネイティブアプリ化が、今回はアナウンスされなかったことだ。

6月19日付のブルームバーグの報道によれば、ファーウェイとテンセントは数カ月間の交渉を経て、ウィーチャットのネイティブアプリ化に関する合意に近づいており、その条件は(ウィーチャットに統合されたキャッシュレス決済機能である)「微信支付(ウィーチャットペイ)」に対してファーウェイが手数料を課さないことだという。

この報道に関する財新記者の取材に対し、ファーウェイはコメントを避けた。

ファーウェイが鴻蒙とアンドロイドの完全分離を決断したのは、2023年8月に自社設計の5G(第5世代移動通信)用半導体を搭載したスマートフォン「Mate 60シリーズ」を発売したのがきっかけだ。

(訳注:自社設計半導体の詳細は『ファーウェイ「自社設計チップ」搭載拡大の衝撃』を参照)


鴻蒙星河版のコードは、ファーウェイ製のスマホやタブレットが搭載する自社設計半導体に最適化されている(写真は同社ウェブサイトより)

2024年1月には、鴻蒙星河版のソフトウェア開発者向けプレビュー版をリリース。社外のソフトウェア開発会社に対して、ネイティブアプリの開発加速を呼びかけた。

アンドロイドと比べた鴻蒙の長所について、ファーウェイは「より強固なプライバシー保護」や「一度のアプリ開発で(スマホ、スマート家電、車載機器など)多種類のデバイスに対応できる」ことなどを挙げる。

自社設計半導体に最適化

今回のイベントでファーウェイは、上述の長所に加えて、鴻蒙星河版が自社開発半導体のパフォーマンスを向上させると強調した。消費者向け端末事業のソフトウェア開発部門を率いる龔体(きょう・たい)氏によれば、自社開発半導体に最適化されたコードにより「デバイス全体の処理能力が30%アップする」という。

ファーウェイがネイティブアプリの拡充を急ぐ中、外部のソフトウェア会社も積極的に呼応している。例えば、フィンテック大手の螞蟻集団(アント・グループ)の傘下にある螞蟻数字科技(アント・デジタル・テクノロジー)は、大手銀行を含む顧客企業から100本を超えるアプリのネイティブ化を引き受けている。


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ある螞蟻数字科技の社員は財新記者の取材に対し、ネイティブアプリ開発の現状について次のように評価した。

「アンドロイド用のアプリを鴻蒙に対応させるには、コードのほとんどを書き直さなければならない。その負荷を考えると、(プレビュー版のリリースから)半年で1500本以上をそろえたのは予想を超える成果だ」

(財新記者:張爾弛)
※原文の配信は6月22日

(財新 Biz&Tech)