感染者数が増えている「手足口病」について、医師が解説します(写真:Yotsuba/PIXTA)

手足口病の流行が拡大している。

国立感染症研究所(感染研)によると、現時点で最新データである、6月24〜30日の約3000の小児科を対象とした定点あたりの感染者数は8.45人で、14週連続で増加している。

この時期の感染者数としては、過去10年で最多だ(図)。※外部配信先ではイラストを閲覧できない場合があります。その際は東洋経済オンライン内でお読みください。


出所)国立感染症研究所

手足口病が感染拡大する2つの理由

神奈川県にあるナビタスクリック川崎で診療する小児科医の高橋謙造医師は、「外来患者の4分の1は手足口病です」と言う。

この時期に手足口病が増えているのは、2つの可能性が指摘されている。

1つはコロナ禍で外出を自粛する人が増えたため、流行が抑制され、集団免疫が低下したからだ。その証左に2020、2021年には手足口病は流行せず、2022年も流行は小規模だった。

2つめの可能性は、コロナ後遺症として免疫力が低下する可能性だ。

手足口病に関する研究はないが、2023年5月、アメリカ・ケースウェスタンリザーブ大学の研究チームが発表した研究によれば、コロナに感染したことのある子どもが風邪ウイルスのRSウイルスに感染するリスクは、コロナに感染したことのない子どもの1.4倍だったという。

同様の指摘は、他の研究グループからも報告されている。

手足口病はどんな病気か?

手足口病はその名の通り、口の粘膜、手、足に症状が出るウイルス性の感染症で、英語でも“hand,foot and mouth disease”となっている。

原因となるのはコクサッキーA16、コクサッキーA6、エンテロウイルス71などの胃や腸で増殖するウイルスだ。夏場に子どもを中心に流行することが多く、患者の過半数は2歳以下の乳幼児である。

それぞれのウイルスは、一度感染すると免疫を獲得するため、再感染することはない。ただ、コクサッキーA16に感染しても、ほかのコクサッキーA6やエンテロウイルス71に対する完全な免疫は獲得できないため、感染することがある。

一方、大人が手足口病を発症することは稀なため、学童期までに大半の子どもが、不顕性感染(感染していても症状が出ていない状態)を含め、すべての型のウイルスに感染していると考えられている。

手足口病は、一般的には軽症だ。感染すると3〜5日の潜伏期間をおいて、口腔粘膜、手のひら、足の裏や甲などを中心に直径2〜3 ミリの水疱ができる。約3分の2の感染者は発熱せず、発熱した場合でも、多くは38℃以下だ。水疱は3〜7日程度で自然に消退する。

ただ、一部の患者は急性髄膜炎を合併し、重症化することがある。稀だが、急性脳炎を引き起こすこともある。エンテロウイルス71の感染が特に重症化しやすいといわれている。

1997年4〜6月にマレーシアで大流行し、30人以上の死亡が報告されている。この翌年は東アジアでも手足口病が流行した。1998年2〜12月には台湾で大流行し、78人の死亡が確認されている。マレーシアと台湾、いずれの流行もエンテロウイルス71が原因だ。

筆者が調べた範囲では、今回のわが国の流行に関して、感染研は流行中のウイルスの型を公表していない。

今年2〜5月には台湾の新北市で手足口病が流行したが、感染者からエンテロウイルス71が検出されている。感染研は流行中の手足口病のウイルスを同定しているだろうから、このあたりの情報は公開すべきであろう。

このように書くと、手足口病を恐ろしい感染症と感じる方もいらっしゃるだろうが、あまり心配しなくていい。前述したように、ほとんどは軽症だ。手足口病に対する抗ウイルス薬は開発されておらず、治療には解熱薬や痛み止めなどを用いる。

手足口病の対策「3つのポイント」

では、手足口病とどう付き合えばいいのか。3つの点を強調したい。

1つめのポイントは、「どんなに感染対策を強化しても、手足口病の原因となるウイルスからの感染を、完全に防ぐことはできないことを認識すべき」(高橋医師)だ。

高橋医師は30年にもわたり小児科で経験を積んでいるベテランだ。長年の診療経験を通じた、彼の実感らしい。

高橋医師がこのように感じるのは、手足口病のウイルスの構造に起因する。手足口病の原因ウイルスは、インフルエンザウイルスや新型コロナウイルスが有するエンベロープ(ウイルス粒子を囲む膜のようなもの)を持たない。

エンベロープは脂質二重膜でできているため、アルコールやせっけんで破壊できる。だからこそインフルエンザや新型コロナの流行期には、アルコール消毒やせっけんでの手洗いが推奨される。

だが、手足口病については、このような効果は期待できない。

もちろん、一般的な感染対策として手洗いは有効だ。水流でウイルスを洗い流せるからで、筆者も手洗いの励行をおすすめしたい。また、手足口病は飛沫感染でもうつるため、マスクやうがいも一定の効果はあるだろう。

それでも、限界があることを認識しておこう。周囲に手足口病にかかった子どもがいても、それは感染対策が不十分だったためではない。感染者に落ち度はない。また、手足口病をおそれて、感染を予防するため、保育園や幼稚園を休ませたり、人混みを避ける必要はない。

手足口病のウイルスに感染した場合、症状が治まっても、便からのウイルスの排泄は1カ月程度続く。どんなに清潔にしても完全に予防はできないと考えたほうがいい。

第2のポイントは、一部の子どもは口腔病変が潰瘍(かいよう)化して口内炎を発症し、強い痛みを生じることだ。重症例では唾液が飲み込めず、よだれが多くなる。

高橋医師は、「塩からいものや酸っぱいもの、温かいものは痛みの感じ方を強めるので、できるだけ避けたほうがいい。自分が口内炎になったときを思い出して、薄味のお粥を作り、冷ましてからあげてほしい」と言う。

登校再開のタイミングは?

最後のポイントは登校再開のタイミングだ。

わが国では一部の感染症に対し、学校保健安全法で出席停止の期間を定めている。例えば、インフルエンザは発症した後5日を経過し、かつ解熱後2日(幼児で3日)を経過するまで、麻疹は解熱後3日を経過するまで、学校に行けない。

手足口病はどうかというと、学校保健安全法に定められた感染症ではなく、法定の出席停止期間は存在しない。明確な基準がないためだろうか、多くの保育園や幼稚園が、回復した子どもを再登園させる際に「担当医から登園許可証をもらってくるように」と求める。彼らは、「周囲に伝染させるおそれがないこと」を医師に保証させようとする。

これは間違った対応だ。理由は前述したように、手足口病を患った子どもは、症状がとれても長期間にわたりウイルスを排出するからだ。数週間も出席停止にするのは現実的ではない。

また、不顕性感染者がいるのだから、症状がある人や回復して間もない人だけを出席停止にしても感染拡大は防げない。

幸い、症状が改善すると、排出するウイルス量も減少する。周辺に感染を拡大するリスクは低下する。登園再開のタイミングは、本人の体調が回復したときだ。その時期は感染の重症度により、個人差もあるだろう。不安な保護者は具体的な時期について、かかりつけの小児科医に聞けばいい。

以上、手足口病について、筆者が重要と考えるポイントをご紹介した。手足口病は麻疹やインフルエンザ、新型コロナように「封じ込め」はできない。しかし、感染してもほとんどは軽症ですむ。

感染は避けては通れないことを認識し、感染対策を十分に講じつつも、あまり心配せず、鷹揚に対応すればいいだろう。

(上 昌広 : 医療ガバナンス研究所理事長)